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O plus E誌 2011年5月号掲載
 
 
 
 
『ブラック・スワン』
(20世紀フォックス映画)
 
 
      (C) 2010 Twentieth Century Fox

  オフィシャルサイト[日本語] [英語]  
 
  [5月11日よりTOHOシネマズ 日劇他全国ロードショー公開予定]   2011年2月24日 角川試写室(大阪)    
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  N・ポートマン鬼気迫る演技と思いがけないVFX  
  早く書きたくて,うずうずしていた作品である。この映画の試写を観たのはアカデミー賞授賞式の数日前だったが,紹介するなら公開日に近い号がいいと,2ヶ月近くお預け状態だった。その間に書いた4月号のメイン欄の3本は,東日本大震災の自粛ムードの中で,次々と公開延期になってしまった。とりわけ,苦労してたった1回完成披露試写にたどりついた『世界侵略:ロサンゼルス決戦』は,10月まで半年以上の延期である。題名は強烈でも,宇宙人の襲来は大津波や原発とは無関係なのだが,自粛というより,この時期は興行的に成功しないと判断しての延期なのだろう。
 それならば先月号のトップを飾るべきだった本作は,今でもその興奮を鮮明に覚えている大佳作である。ゴールデングローブ賞ではドラマ部門の作品賞を受賞し,アカデミー賞でも作品賞,監督賞等にもノミネートされていたが,衆目の一致するのは,主演のナタリー・ポートマンの鬼気迫る演技だ。観終った途端に,他の4候補作を観ていなくても,主演女優賞は彼女で決まりだと確信した。世界中の映画評論家,映画ファンの誰もがそう感じ,アカデミー会員も素直にそれに従ったゆえのオスカーである。まさに,映画史に残る印象的な熱演だ。
 監督は,『レスラー』(09年5月号)のダーレン・アロノフスキー。なるほど,この監督なら,1人の主演俳優の個性を存分に活かした物語を,寸分の隙もなく描き切るに違いない。原案はブロードウェイ・ミュージカルの舞台を競うライバル物語らしいが,それをバレエの「白鳥の湖」に置き換え,サイコスリラーに翻案することは,監督自身のアイディアらしい。
 主人公は,ニューヨーク・シティ・バレエ団に所属するバレリーナのニナ(ナタリー・ポートマン)で,3大バレエの1つ「白鳥の湖」のプリマバレリーナに選ばれる。ポイントは,清楚な白鳥と官能的な黒鳥の一人二役を演じることで,その重圧から心理的に追いつめられ,幻覚を見るようになる。次第に精神が壊れて行く主人公の心理描写は,相当にすごい。
 『スター・ウォーズ』シリーズのアミダラ姫当時はまだ可憐な少女だったN・ポートマンも,最近は演技派としての変身ぶりが目立つが,本作での存在感は圧倒的だ。凛とした白鳥姿や私服姿は往年のオードリー・ヘップバーンを彷彿とさせ,舞台での毒々しい黒鳥姿は小柳ルミ子を思い出す(写真1)。9キロ減量して役作りに臨み,一時期精神的におかしくなったというのも頷ける。それだけに,ふっくらとした顔立ちと大きなお腹で登場したアカデミー賞受賞式での饒舌振りは微笑ましくもあった。この映画で知りあったバレエの振付師と婚約・妊娠したというのも,役への没頭の副産物のようだ。
 
   
 
 
 
写真1 繊細な白鳥と大胆な黒鳥の両方を演じる
 
   
   まさに彼女のためだけの映画で,他は全員脇役であるが,中ではバレエ団の芸術監督役のヴァンサン・カッセルがいい味を出していた。キザでクールで,女性に迫るセリフなどは,まさにハマリ役である(写真2)
 
   
 
写真2 この口説きスタイルは一級。
 
   
   さて,本欄の読者なら,本号のトップで取り上げるからには,CG/VFXの出番があるはずだと予想しておられるだろうが,シーン数は少ないながら,実に効果的な使い方をされていた。まず,ニナの部屋の壁にある絵の中の顔が笑うシーン(写真3)。単なる2Dアニメーションで,技術的には語るほどのものでもないが,印象的なシーンだ。爪,背中の傷,手足の指がくっつくシーンも,VFXの産物だろう。そして圧巻は,クライマックスの黒鳥の舞台での驚くべき変身である(写真4)。まさに鳥肌が立つ。変身過程や翼そのものはCG技術的には特筆に値しないが,舞台照明と見事にマッチした陰影の表現は,HDRI(High Dynamic Range Imaging)を駆使した描写のようだ。CG/VFXの登場を予想しないところでの効果的用法という意味でも,実に印象深い作品となった。   
   
 
写真3 絵の中の顔が笑うのには,ちょっとドキッとする
 
   
 
写真4 背中に翼がはえ,クライマックスでこの姿に
 
   
   照明という点では,リハーサル風景も本番の舞台も実に微妙なライティングを実現していた(写真5)。舞台そのものの照明はそう難しくないが,その模様を映画の中で表現するには一工夫要る。さらに,そこにCGを合成するとなると,元の照明そのものにも制約が課せられる。ニナがダンスホールで踊るシーンの照明も秀逸だった。アカデミー賞には「照明賞」という部門はないが,本作は撮影賞(Cinematographer)部門でもノミネートされていた。この部門のオスカーは『インセプション』(10年8月号)に譲ったが,主人公の繊細な心理状態を描くのに,照明が大きな役割を果たしている一作だ。
 これまでのところ,当欄の今年度ベスト1である。今後,これを超える作品が登場するか,愉しみだ。
 
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写真5 リハーサルも本番も照明に工夫が見られる
(C) 2010 Twentieth Century Fox
 
   
   
   
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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