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O plus E誌 2013年4月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『ザ・マスター』:熱演,力作であることは間違いない。何しろ,主演男優(ホアキン・フェニックス),助演男優(フィリップ・シーモア・ホフマン),助演女優(エイミー・アダムス)が,3人ともオスカー・ノミネートだ(結果的に,無冠だったが)。時代は第2次世界大戦後の1950年代,戦争で心を病んだ元兵士と新興宗教団体の教祖の出会いと交流がテーマである。鬼才ポール・トーマス・アンダーソンの脚本・監督作品だから,愉快な作品の訳はなく,深層心理を鋭くえぐる描写,上記3人の演技合戦に注目した。目を引いたのは,主演のJ・フェニックスの風貌だ。かつて,精悍で,がっしりした体格であったのに,今ではすっかり貧弱な体つきになり,皺だらけの卑しい顔つきになっていた。それだけに,この主人公の感情表現には,鬼気迫る感があった。ただし,見応えはあっても,やはりこの監督の映画は,どうにも好きになれない。
 ■『相棒シリーズ X-DAY』:題名は『相棒 X-DAY』ではない。途中に「シリーズ」が挟まっているように,人気シリーズの傘の下で作られたスピンオフものである。前回のスピンオフは,鑑識官・米沢守を主役に据えたものだったが,本作では,TVシリーズにも登場する武骨な熱血刑事・伊丹憲一(川原和久)が,サイバー犯罪捜査官・岩月彬(田中圭)とタッグを組んで事件を追うという設定だ。対照の妙をアピールしたいのだろうが,このコンビは似合わないし,主役を張るには無理がある。相棒とも言い難い。大看板の杉下右京(水谷豊)や2代目相棒の神戸尊(及川光博)もしっかり登場するというので期待したのだが,やっぱり申し訳程度の登場だった。TVシリーズは長寿だが,劇場用映画はまだ2本なのに,スピンオフを同じ2本も作り,便乗商法をやり過ぎだ。とはいえ,大型経済犯罪やサイバー犯罪をテーマにするという積極姿勢は買える。
 ■『アンナ・カレーニナ』:これまでに何度,舞台演劇化,映画化されたことだろう。 原作は,言うまでもなく,ロシアの文豪トルストイの代表作である。道ならぬ恋に身を焦がし,やがて死を選ぶ主人公アンナを演じるのは,キーラ・ナイトレイ。毎度のことながら,貴婦人役が実によく似合う。彼女に関しては,色々な役をやらずに,当分はこのはまり役だけでいいかと思う。監督は,彼女を『プライドと偏見』(05)『つぐない』(07)に起用したジョー・ライトだから,彼女の魅力は熟知している。共演は,美男俳優のジュード・ロウというので,彼と恋に落ちるのかと思いきや,クールな政府高官の夫役だった。彼に負けず,恋人の青年将校ヴロンスキー役のアーロン・テイラー=ジョンソンもなかなかのイケメンだ。最初の内は,セリフが英語で,コメディタッチの軽快な描写に違和感を覚え,正統派のロシア史劇でないことを残念に思ったが,次第にミュージカル風でケレン味たっぷりの演出に惹き込まれた。こんな気まま女性のお相手は大変だろうなと思いつつも,その美貌とワインレッドのドレス姿には見惚れた。アカデミー賞衣装デザイン賞受賞は当然の結果である。
 ■『関西ジャニーズJr.の京都太秦行進曲!』:表題からすぐ分かるように,若手アイドル達のプロモーション映画で,しかも地域限定のご当地作品だとすると,彼らの追っかけファンが主対象だ。それを松竹は,現代版『蒲田行進曲』だという。誇大広告だと思いつつ,騙されたつもりで試写を覗いたら,これが意外に面白かった。アクション・スターを目指す設定で,その稽古風景や撮影所内の様子がリアルに描かれている。こういう楽屋ネタを堂々と表に出す作品だと,日頃恵まれないスタッフ達も気合いが入るのだろう。期待していなかった分,屈託のない青春物語に好感が持てた。監督は,松竹社員の本木克英。与えられた低予算企画を,それなりに面白く作る腕は大したものだ。
 ■『ヒッチコック』:題名通り,サスペンス映画の巨匠アルフレッド・ヒッチコックの伝記ドラマである。もう少し正確に言えば,代表作『サイコ』(60)のメイキング・ストーリーであり,愛妻アルマとの夫婦愛を描いたヒューマン・ドラマだ。ヒッチコック監督を演じるアンソニー・ホプキンスが余り似ていないのが残念だが,あれだけ個性的な容貌,体躯の持ち主はそうそういないから,無理は言えない。ヴェラ・マイルズを演じるジェシカ・ビール,ジャネット・リーを演じるスカーレット・ヨハンソンも魅力的に描かれているが,アルマ夫人役のヘレン・ミレンはさらにチャーミングだ。なるほど,ヒッチコックの名声の陰には,この賢夫人の理解と協力があったのだと分かる。本作を観た後は,『サイコ』のあの名場面をじっくり再確認したくなること必定だが,仕事上のパートナーでもあった夫人アルマ・レヴィルのことをもっと知りたくなった。
 ■『君と歩く世界』:だいぶ前に観たので,いざ本号で記事を書く段になって,この凡庸な表題からはすぐに内容を思い出せなかった。ただし,映像の1カット,とりわけヒロインの姿を一瞥しただけで,克明にこの映画のインパクトを思い出す。マリンランドのシャチの調教師だった女性ステファニー(マリオン・コティヤール)は,事故で両脚をなくし,人生に絶望するが,やがて粗野で不器用なシングル・ファーザーのアリと出会い,生きる希望を取り戻すという人間ドラマである。彼女の両脚がないシーンが頻出する。勿論,VFXの産物だが,技術的には新味はない。ステファニーが主役のはずが,後半はアリを演じるマティアス・スーナーツの存在感が圧倒的で,いつの間にか主役の座を奪っている。監督は,フランスの名匠ジャック・オーディアール。多くを語らず,希望を与えるエンディングが見事だ。
 ■『ホーリー・モーターズ』:「小説でも映画でも,難解な作品というのは,創作者の表現が拙いだけで,読者/観客がその分かり難さに迎合したり,有り難がる必要はない」というのが筆者の持論である。この映画は,単にその範疇に入る訳ではない。主人公(ドニ・ラヴァン)が,物乞いの女,殺人者から平凡な父親まで,11人の人生を演じ分けるが,いわゆるオムニバス形式とは少し違う。富豪の銀行家が,様々な人物に変身する長い1日という設定だ。監督・脚本は玄人好みのレオス・カラックスで,これが13年ぶりの長編作品である。白いリムジンが印象的で,映像表現は巧みだ。その上,テーマは十分理解できるのに,なぜ素直に入り込めないのだろうか? 芸術作品に創作者のメッセージが込められるのは当然だが,本作は監督が語りたいことを詰め込み過ぎだ。過ぎたるは及ばざるがごとしの一例である。
 ■『コズモポリス』:相似形とは,こういうことを言うのだろう。上記『ホーリー・モーターズ』同様,本作でも白い大型リムジンが全編で登場する。そのオーナーは若くして巨万の富を築いた投資家で,やはり長い1日の中だけの出来事だ。いずれも昨年のカンヌ国際映画祭の出品作品だから,観客は奇妙な作品を2本観て,さぞや頭が混乱したことだろう。違いはと言えば,『ホーリー……』は場所不明だが,こちらは明確にNYが舞台となっていて,主人公が後半,破滅して行く様を描いていることだろうか。主演は,『トワイライト』シリーズのロバート・パティンソン。凛としたセレブ役が良く似合う。監督は奇才デイヴィッド・クローネンバーグなので,分かりやすい映画は期待していなかったが,それにしても不可解な映画だ。とりわけ,最後に登場する暗殺者(ポール・ジアマッティ)と主人公の会話には辟易する。
 ■『舟を編む』:原作は,三浦しをん作の同名小説で,昨年の本屋大賞受賞作である。『博士の愛した数式』(06)『告白』(10)『天地明察』(12)等,過去9年間の同賞受賞作は,8本(内1本は今夏に公開予定)が映画化されるというモテぶりだ。長期間かけて辞書編纂に携わる出版社員たちの苦闘がテーマだが,こうした地道な仕事が,受賞と映画化で注目を浴びるのは喜ばしいことだ。監督は,『川の底からこんにちは』(10)の石井裕也。主演は松田龍平で,その名も馬締(まじめ)光也なる生真面目な人物を演じる。助演で存在感を示す個性派だが,本作の主演ぶりも合格点を与えられる。彼が一目惚れするヒロイン役の宮崎あおいは,可もなく不可もなく,余り印象に残らなかった。先輩社員を演じるオダギリジョーのチャラ男ぶりの方がキマっていた。個人的には,約24万語を収録する「大渡海」で,俗語・若者言葉を積極的に取り入れようという基本方針に賛同できない。20年弱もかけて完成させる大辞書なら,そんな言葉はすぐ古くなってしまうではないか。
 ■『カルテット! 人生のオペラハウス』:オスカー俳優ダスティン・ホフマンの監督デビュー作である。シンプルな表題は,『コーラス』(04)『オーケストラ!』(09)等のフランス映画と混同しがちで,すぐ忘れてしまいそうだ。本作は,元音楽家たちが暮らす老人ホームの様子を描いた英国映画で,マギー・スミスを筆頭に,トム・コートネイ,ビリー・コノリー,ポーリーン・コリンズらが出演する。老人中心の『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』(13年2月号)の音楽版だと覚えておけば好い。それにしても,最近は老人映画が多い。勿論,笑いと涙の人生讃歌であり,しっかりと満足の行くエンディングで締めてくれる。D・ホフマン監督は,名優たちに遠慮したのか,演出は凡庸だ。監督第1作は,もっと気楽に指示できる若手俳優の青春映画から始めた方が良かったのではないかと感じた。
 ■『ペタル ダンス』:先月号の『すーちゃん まいちゃん さわ子さん』で,「等身大の女性像を描き,女性観客を狙った企画は分かるが,映画にするだけの題材だろうか?」と評したが,本作も全く同じ思いだ。本作の女性達は4人で,大学時代から友人である女性2人(宮崎あおい,安藤サクラ)が,自殺を図ったというもう1人の友人(吹石一恵)に6年ぶりに会いに行く旅が題材で,失業中の若い女性(忽那汐里)がその旅の運転手として加わる。演出は凡庸で,「これだけの女優を使って,贅沢というか,いや実にもったいない」なる感想も『すーちゃん…』と全く同じだ。単に筆者の理解力がないか,感性が欠如しているだけかも知れないが。
 ■『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』:先月号の『偽りなき者』と同様デンマーク映画で,主演も同じくドイツ人男優のマッツ・ミケルセンだ。18世紀後半にデンマーク王室で実際にあったスキャンダルと処刑をもとにしている。上述の『アンナ・カレーニナ』でキティ役だったアリシア・ヴィカンダーが,本作ではカロリーネ王妃を演じているが,その美しさはキーラ・ナイトレイのアンナにも負けていない。絢爛豪華さ,禁断の恋,堂々たる物語も,一歩も引けを取っていない。国王の侍医が摂政として権力を振るう物語だが,なるほど僧侶,宦官,側用人が政治の実権を握った数々の史実も,こういう感じだったのかと納得する。素晴らしい作品であり,M・ミケルセンは名優であるが,この主人公には相応しくないと感じた。どう見ても,あの顔は労働者階級のそれであり,ここはもう少しノーブルさと貫録を併せ持った男優を配して欲しかったところだ。
 
   
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