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O plus E誌 2012年5月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『タイタニック 3D』:15年前の初上映以来,何度も何度も観た映画なので,隅々まで覚えている。所詮は全く3Dを意識せずに撮った2D作品の3D変換版に過ぎないと分かっていて,再度3時間半の時間を割く気にはなれなかった。ところが,ジェームズ・キャメロン監督の「髪の毛1本までも徹底的に3Dにした」という言葉が気になった。『STAR WARS エピソード1/ファントム・メナス 3D』を評しておきながら,当欄としては,この3D化作品に触れずに済ませる訳には行かない。と自分に言い聞かせて,土曜日の夜,シネコンに足を運んだ。公開後2週間経っているというのに,結構な入りだった。3D化は再公開のきっかけに過ぎず,初めて観る若いカップルにとって,この極上のラブストーリーはまだ色褪せていない。時代の変化を感じたのは,むしろCG/VFXだ。当然ではあるが,フルCGで描いたタイタニック号もMoCapで表現した甲板上の人々の動きも,いま観ると貧弱だ。肝心の3D効果はと言えば,さすがに見どころはしっかり押えてあった。深海のタイタニック号探査,船首での2人のラブシーン,船内中央の大階段,船尾が直立しての沈没シーン,等々である。なるほど,丁寧に作られていて,『SW EP1 3D』よりは格段に上だが,大きなサプライズはない。一から3Dで制作するなら,氷山との衝突や浸水シーンは,もっと大迫力で描かれたと思う。改めて見直して,この映画の構図と編集の見事さを再認識したが,最高だったのは,やはりジェームズ・ホーナーの音楽だ。
 ■『ビースト・ストーカー 証人』:監督・脚本はダンテ・ラム,主演はニコラス・ツェー,ニック・チョンと言えば,『密告・者』(10)のトリオだ。前作同様,独特の頽廃感のある香港ノワールで,心に傷をもつ刑事が主人公,壮絶なアクション,先が読めないクライム・サスペンスという点でも同じである。ただし,今回の刑事役はニック・チョンではなくニコラス・ツェーで,ニック・チョンは凄腕の暗殺者,と役どころを入れ替えている。そこに女性検事役のチャン・ジンチューが絡み,それぞれに苦悩とトラウマをもつ3人の運命が複雑に交錯する。この絡みが少し分かりにくいが,表現力不足のためではなく,(詳しくは書けないが)そのもつれた関係の不可解さがラストで一気に氷解する。同じ人間関係を日本映画として描いたなら,緊迫感もなく,もっと野暮な作品になったことだろう。
 ■『Black & White/ブラック & ホワイト』:仕事でコンビを組む男性2人が,1人の女性(リース・ウィザースプーン)を巡っての恋の鞘当て合戦を繰り広げるラブ・コメディ。この題から,てっきり白人と黒人のコンビかと思ったら,白人2人(クリス・パインとトム・ハーディ)で,しかもCIAエージェントという想定だ。原題は『This Means War』だが,「白黒決着をつけようぜ」ということから,この妙な邦題になったようだ。全く屈託のないノーテンキな恋物語だが,最新ハイテク兵器を駆使したスパイ・アクション風の味付けがスピーディーで,娯楽作としては楽しめる。監督は『チャーリーズ・エンジェル』シリーズのマックG。となると,このヒロイン役は10数年前のキャメロン・ディアスが最適だったのだろうが,そうも行かない。さして年齢の違わないR・ウィザースプーンでも薹が立っていて,もう7,8歳若くないと苦しいなと感じた。
 ■『捜査官X』:舞台は1917年,中国・雲南省の寒村で,丸メガネのとぼけた風貌ながら,頭脳明晰な天才・捜査官シュウ(金城武)が,強盗殺人犯の変死事件を追う。邦題やポスターからは彼が主演かと思わせるが,実際には,彼に疑いをかけられる謎の男リウ役のドニー・イェンが主役だった。なるほど,ドニーが1枚看板では地味すぎるが,『レッドクリフ』(08&09)同様,金城武は準主役の方がいい味を出す。ただし,この邦題は作為的過ぎる。原題の『武侠』も無骨だが,後半はまさに武侠映画そのもので,ドニー・イェンのカンフー・アクションが冴え渡る。それでいて,単なる武侠ものに終わらず,メンタルにも結構重いテーマを描いている。静と動の対比,バランスも絶妙だ。『ラスト,コーション』(07)以来あまり見かけなかったタン・ウェイがリウの妻を演じ,その美貌も見どころになっている。
 ■『わが母の記』:文豪・井上靖が自らの家族との絆を描いた同名の自伝的小説の映画化作品で,『クライマーズ・ハイ』(08)など骨太の社会派作品が得意な原田眞人監督が脚本も担当している。主人公の小説家に役所広司と聞くと,『聯合艦隊司令長官 山本五十六』(12年1月号)『キツツキと雨』(同2月号)についで,「またか!よくぞ,立て続けに主演する時間があるな」と感心するが,本作が一番先のクランクアップらしい。海軍大将も老いた木こり役も好演だったが,この小説家が最も素晴らしい。豪華キャストだが,老母・八重(樹木希林),三女・琴子(宮崎あおい)が存在感のある演技で,見事なキャスティングだ。さすが原田監督,文豪の素顔を垣間見せつつ,痴呆老人の介護問題を考えさせ,1960年当時の日本の美しい風景も堪能させてくれる。日本映画も捨てたものじゃない。昨年のモントリオール映画祭審査員特別大賞を受賞しているが,それだけの値打ちは十分ある佳作だ。
 ■『HOME 愛しの座敷わらし』:荻原浩の小説「愛しの座敷わらし」の映画化作品で,東京から岩手に転勤した家族の物語である。主演・水谷豊,監督・和泉聖治のコンビは,人気の『相棒』シリーズと同じだ。杉下右京警部役で飄々とした独特の雰囲気を醸し出す水谷豊も,窓際の平凡な中年サラリーマンでは全くサエがない。登場人物は結局皆いい人ばかりで,伝説の「座敷わらし」に導かれ,当初崩壊しかけていた家族も絆を取り戻し,メデタシメデタシ……。という訳だが,物語も演出も,余りにも安直で平凡であり,全編で緩い。座敷わらし登場シーンのVFXまで,チープそのものだ。いくら『相棒』シリーズがヒットしたからとはいえ,こんな作品が続いたのでは,映画館に客を呼べまい。
 ■『ポテチ』:こちらは伊坂幸太郎作品を中村義洋監督&脚本での映画化で,舞台が仙台といえば,『アヒルと鴨のコインロッカー』(07)『ゴールデンスランバー』(10)と同じだ。たった68分の短尺なので,ハイテンポで駆け抜ける小気味いい語り口かと思ったが,『HOME…』以上に緩い映画だった。常連の濱田岳主演で,この表題なら,一風変わった奇妙な味のヒューマンものと予想すべきであった。物語は淡々と進行するが,緩過ぎて短さを感じさせない。これを癒し系というのだろうか? 最近の草食系の若者たちは,この緩さを好むのだろう。東日本大震災後の仙台でオールロケを敢行し,被災地への支援メッセージというが,これでは余り元気も出ない。濱田岳の個性は引き出しているが,この映画が『バトルシップ』と同じ入場料とは,どう考えても不合理だ。
 ■『キラー・エリート』:『ポテチ』と同じ配給会社,同じ公開日ながら,打って変わって,こちらは飛び切りのアクション・バイオレンスだ。緩さなど微塵もない。主演は,現代随一のアクション・スター,ジェイソン・ステイサム。禿頭族の星だけあって,ひたすらカッコ良い。本作では,引退した凄腕の殺し屋がかつての相棒を救うため現役復帰するという設定だが,いつもの風貌で,予想通りの役柄である。カーチェイスも銃撃戦も素手での格闘もありのアクション一辺倒だ。ビルの屋上間を飛び移ったり,飛び降りたりのサービスつきで,期待を裏切らない。原作は元SAS(英国陸軍特殊部隊)隊員の告白本で,実話だというが,相当脚色されていることだろう。共演のクライヴ・オーウェン,ロバート・デ・ニーロもしっかり存在感を発揮している。
 ■『貞子3D』:長い髪,白い着物姿の主人公・山村貞子は『リング』『らせん』シリーズに登場する人気キャラで,Jホラーが生んだスーパースターである。TV画面から這い出してくるその不気味な姿は,誰もが3D上映の大型スクリーンから飛び出させたいと思ったことだろう。その意味で,生まれるべくして生まれたスピンオフ作品である.時代に応じて,かつてのVHSの「呪いのビデオ」は消え,Web上のニコニコ動画のコンテンツ(呪いの動画)と化した。これを,PCやスマホの画面で再生するスタイルだ。さらには,街頭の大型壁面ディスプレイからも貞子が飛び出して来る。こうなると,もはや世界を震撼させたJホラー特有の「怖さ」は消滅し,全くのギャグかコメディーかと思わせる味付けである。終盤大量発生する貞子に至っては,ホラー映画でなく,これはエイリアンものかスパイダーパニックかと言いたくなる代物だった。CG表現に特筆すべきものはなく,3D効果の演出も低レベルだ。この映画は,マスコミ用試写会でなく,公開初日の夕方にシネコンで観たが,観客の大半は若い女性や小中学生だった。邦画の主要観客層である女子供のレベルに合わせたお手軽企画だが,彼らはこの似非ホラーを結構楽しんでいたようだ。ただし,このユニークなキャラを無駄使いして,こんな駄作を作っていていいのか? 邦画界の体たらくも,ついにここまで来たかと感じた一作である.
 ■『ファミリー・ツリー』:主演は,ジョージ・クルーニー。今年のアカデミー賞主演男優賞の有力候補で,惜しくもオスカーを逃したことは記憶に新しい。彼のこれまでの最高の名演との噂で,少し気合いを入れて試写会に臨んだが,そんなに畏まって観るべき堅苦しい作品ではない。主人公は,ハワイ・オアフ島に住む弁護士,カメハメハ大王一族の末裔で,広大な土地を有していている。交通事故で植物人間化した妻と2人の娘を抱えて奔走する姿は,設定はだいぶ違うのに,『マイレージ,マイライフ』(10年3月号) での演技を思い出した。2枚目半の肩の凝らない役柄も似合うという意味だ。脚色賞をとったように,重いテーマを軽妙な語り口で描き,観終った後には爽快感が漂う。同じ家族再生のテーマを描きながら,『HOME 愛しの…』とは,脚本で格段の差があると感じた。長女役のシャイリーン・ウッドリーは美形で,演技力もあり,今後注目すべき成長株だ。
 
  (上記のうち,『タイタニック 3D』『貞子3D』はO plus E誌には非掲載です)  
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