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O plus E誌 2008年11月号掲載
 
 
 
レッドクリフ Part I』
(東宝東和
&エイベックスエンタテインメント配給 )
 
  (C) 2008 Three Kingdoms Ltd. (C) Bai Xiaoyan
  オフィシャルサイト[日本語][中国語]  
 
  [11月1日より日劇1ほか全国東宝洋画系にて公開予定]   2008年9月4日 TOHOシネマズ梅田[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  白鳩が導くCG紙芝居,ジョン・ウー流の三国志絵巻  
 

 今月は秀作が多いが,この映画から語ることにしよう。カタカナ表題で,ハリウッド製山岳アドベンチャーかと思わせるが,「赤壁」と書けば分かるだろうか。群雄割拠,波乱万丈の「三国志」の中でも名高い「赤壁の戦い」を描いた中国製歴史映画だ。ならば漢字で書けば良いのに,なぜ日本の配給会社は懲りもせず,中国映画に英語名やそのカタカナ表記を使いたがるのだろうか。
 少し蘊蓄を傾けるなら,漢王朝の終了後,魏・呉・蜀が天下を三分した時代の正史が,本来の「三国志」である。その後,英雄や豪傑の活躍を描いた通俗小説「三国志演義」が明の時代に書かれ,アジア諸国で人気を博した。吉川英治の大衆小説や,それを漫画化した横山光輝の長編コミックは,この「演義」を日本流に大幅に翻案したものである。一方,近年の北方謙三や宮城谷昌光の「三国志」は,「正史」をもとにした新解釈の著作である。
 本作品もその「演義」の系譜を引くもので,総製作費は100億円という。ハリウッドなら普通でも,中国映画としては破格の金額だ。キャスト&スタッフの大半は中国人だが,製作費のかなりの部分は日本からの出資のようだ。それで上映権の自由度もあるのだろうか,代表的シーンが10月14日放映のNHK総合TV『その時 歴史が動いた』に使われていた。一般公開の2週間以上前のことである。
 海外資本の中国映画大作というと,チャン・イーモウの『HERO』(03年9月号)やチェン・カイコーの『PROMISE』(06年3月号)など,大味な失敗作を思い出す。それまで低予算で清楚な佳作を生み出した名匠たちが,慣れない大作に臨むと,かくも無残な結果になるのかと嘆息したものだ。現代中国の経済政策のようである。さて,本作品の監督は『フェイス/オフ』(97) 『M:I-2』(00年7月号) のジョン・ウーだ。香港映画『男たちの挽歌』シリーズで名をなし,ハリウッドに乗り込んでからの活躍も目覚ましい。彼なら大作負けせず,躍動感溢れる「三国志」を描けるだろうとの期待が膨らんだ。そして,その期待通りの力作だった。
 この「赤壁の戦い」は,蜀の劉備と同盟を結んだ呉の孫権が,魏の曹操の大軍を迎え撃つ劇的な戦いである。本作品の主役は,孫権軍の知将・周瑜(しゅうゆ)で,『インファナル・アフェア』(02)のトニー・レオンが演じる(写真1)。その周瑜に勝るとも劣らぬ重要な役柄は,劉備の軍師・諸葛孔明で,『LOVERS』(04年9月号)『Sweet Rain 死神の精度』(08年3月号) の金城武がこの大役に抜擢された。凛々しく,知略溢れる天才軍師を見事に演じている(写真2)。彼の代表作となると同時に,若い世代には「諸葛孔明=金城武」のイメージが定着することだろう。  

 
   
 
写真1 中国の美男俳優となると,やはりこの人   写真2 凛々しく知的で,実にいい役どころ
 
 

 
   他の多数の登場人物の中で一際目を引くのは,周瑜の妻で絶世の美女として知られる小喬で,台湾のトップ・モデル,リン・チーリンが選ばれ,これが映画デビューとなる。演技はともかく,宝塚スターのような華やかさと気品を併せもっている(写真3)。劉備と曹操はもとより,孫権の妹・尚香,劉備軍の将軍・趙雲,豪傑の関羽や張飛にも個性的な名優たちがキャスティングされている。日本からは周瑜配下の武人・甘興役に中村獅童が参加しているが,存在感のある良い演技を見せている。
 
   
 
 

写真3 気品溢れる台湾のトップ・モデル。うん,この美女なら人妻でも奪いたくなるな。

   
   本作品は「赤壁の戦い」だけに絞った映画だが,それでも前半は時代背景や多数の人物の紹介に費やされ,ジョン・ウーにしてはスローで,格調高い語り口だ。ところが,劉備・孫権の同盟が成立し,曹操の大軍(写真4)が押し寄せる頃から,物語はギアチェンジし,テンポとテンションが一変する。クライマックスは,曹操軍を迎え撃つ陸戦で,諸葛孔明の奇策「九官八卦の陣」(写真5)による戦いである。抜群に面白く,「さすが,ジョン・ウーだ」と唸るシーンが続く。まるでビジュアルな講談であり,CGを駆使した動く紙芝居のようだ(ちなみに,紙芝居は諸葛孔明の発明品である)。
 本作のCG/VFXの主担当はOrphanage社で,他にCafe FX,Pixel Magic,Tippet Studio等の名が並ぶ。言うまでもなく,大軍の戦士はCG製であるし,2000隻が登場するという船の大半もCGで作られている(写真6)。その他随所にハリウッド製のVFXが登場し,前後編合わせて1000シーンを超えているようだ。
 次なる興味はこの監督定番の白い鳩だが,どこで登場するのかと思えば,遠慮会釈なく何度も登場する。最後は,諸葛孔明の手を離れたCG製の白鳩が,大規模水軍をフライスルーして曹操軍の本陣まで誘う案内役まで務めてくれる。これにてPart Iはオシマイ,お目当ての海戦はPart IIを観てのお愉しみ,という訳だ。巧みな予告で,今からPart IIが待ち遠しい。       
 
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写真4 今や当たり前でも,大軍勢の表現はCGの出番   写真5 亀の甲からヒントを得た「九官八卦の陣」
 
 

 
 
 
 

写真6 軍艦2隻と船8隻を実物大で作り,2000隻の船団の残りはCG製。周りの景色の大半もデジタル合成。
(C) 2008 Three Kingdoms Ltd. (C) Bai Xiaoyan

 
   
  (画像は,O plus E誌掲載分から追加しています)  
   
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