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O plus E誌 2012年4月号掲載
 
 
 
 
『ジョン・カーター』
(ウォルト・デイズニー映画)
 
 
      (C) Disney Enterprises, Inc.

  オフィシャルサイト[日本語] [英語]  
 
  [4月13日より全国3D・2Dロードショー公開予定]   2012年3月13日 ディズニー試写室(東京)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  古典的スペースオペラの100周年記念3D映像化  
  先月号の反動で,今月はメイン欄は2本だけである。短評欄には今年のアカデミー賞各部門を賑わした佳作が並ぶ中,この2本は屈託のないファミリー向けSFアドベンチャーで,共に原作はSF史の初期に名を残す小説を,目一杯最新のCG技術を駆使して映像化した3D作品となっている。まずは,メディアへの露出度でも大作感が漂う『ジョン・カーター』から取り上げよう。
 表題は,勿論主人公の名前なのだが,この珍しくもない名前では原作をすぐには思い出せなかった。原作者がエドガー・ライス・バローズと聞けば,「団塊の世代」前後のSFファンなら,1960年後半に刊行された「火星シリーズ」を思い出すことだろう。そう,ジョン・カーターとは同シリーズの主人公であり,本作は第1巻「火星のプリンセス」の映画化なのである。
 アポロ計画が進行し,映画『2001年宇宙の旅』『猿の惑星』(いずれも1968年)が公開された60代後半は,まさに宇宙ブーム,SFブームの真っ只中だった。書店店頭には,創元推理文庫の美しいカバーの「火星シリーズ」が並んでいたのを今でも覚えている。当時の文庫本でカラーのカバーが付いたものは珍しく,幻想的な美女や宇宙船を描いた同シリーズはことさら目を惹いた。その頃執筆されたシリーズだと思っていたのだが,邦訳の出版が1965年だっただけで,原作の刊行年は1912年であり,今年が100周年なのである。
 高校生の頃から「SFマガジン」を愛読していた筆者は,正直言って,この「火星シリーズ」は全く面白いと感じなかった。「スペースオペラ」と称していたこの種の宇宙ものは,舞台が宇宙になっただけの陳腐な活劇であり,何の科学的説明も,壮大な世界観も,シニカルな文明批判もなかったからである。ところが,本作の予告編を観ただけで,これはCGで映画化,流行の3Dで上映するのに恰好の題材だと再認識した。本作の宣伝には,ジョージ・ルーカスやジェームズ・キャメロンの言葉を引用し,SWシリーズや『アバター』に影響を与えた伝統的原作を謳い文句にしているが,映画としては,むしろSWシリーズの造形力を大いに意識し,『アバター』が採用した技術を駆使したものである。前置きが随分長くなったが,筆者のこの体験から予想した通りの映画,それ以上でもそれ以下でもない出来映えだった。
 監督は,Pixarの秘蔵っ子,アンドリュー・スタントン。フルCGの『ファインディング・ニモ』(03年12月号) 『WALL・E/ウォーリー』(08年12月号)の監督経験はあるが,実写映画はこれが初監督作品である。てっきり,Pixarスタジオのスタッフを引き連れての実写映画初挑戦かと思ったのだが,CG/VFXは,Double Negative,Cinesite,MPC等の英国勢が担当している。英国や欧州を舞台にした作品だけでなく,ついに宇宙ものまで彼らの軍門に下ったかという印象だ。
 主役のジョン・カーターとヒロインのデジャー・ソリスには,テイラー・キッチュとリン・コリンズ。ともに『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』(09年9月号) に出演していた俳優である。T・キッチュはこれがブレイク作となるだろうが,L・コリンズでは地味過ぎる。バルスーム星のプリンセスには,文庫本表紙通りの,もう少し美形を配して欲しかったところだ。
 映画の冒頭で,「バルスーム=火星」だという説明があり,いきなり写真1のような建築物の映像へと入る。試写は2Dでしか観ていないが,かなり3D上映を意識した構図とカメラワークだと分かる。舞台は宇宙でも,文化的には地球の中世レベルという前提を生かし,壮大だがレトロな感じも出している。続いて,腕が4本ある緑色人のサーク族(写真2)や,6本足の犬(キャロット)のウーラが登場する(写真3)。悪くない造形だ。身長3m弱というサーク族は生身の俳優が演技し,CGモデルにMoCapデータを当て嵌めている(写真4)のは,『アバター』と同じ使い方である。造形的に素晴らしいと感じたのは,各種飛翔物体だ。鳥のようでもあり,イナゴやバッタを思わせるデザインもあり,こちらもレトロな感じが出ている(写真5)。このクリエーター達に座布団2枚進呈だ。
 
   
 
 
 
 
 
写真1 惑星「バルスーム」。実は火星で,いきなりこんなシーンから始まる。勿論,3D上映を意識した構図とカメラワークだ。
 
   
 
写真2 4本の腕をもつ緑色人「サーク族」
 
   
 
写真3 これが火星の犬のウーラ
 
   
 
 
 
 
 
写真4 戦士タル・ハジェス(上)はトーマス・ヘイデン・チャーチが,若い女性ソラ(下)はサマンサ・モートンが演じている
 
   
 
 
 
 
 
写真5 レトロな感じを出しつつ,結構斬新なデザイン
 
   
   これまでのSFやファンタジー大作へのオマージュが感じられるが,川下りは『ロード・オブ・ザ・リング』 (01)風(写真6)で,大軍同志の激突もしかりである。この辺りからの物語展開は,まさにバローズ調の大味な活劇の枠から脱していなくて,少々退屈だった。試写室の隣席には片岡鶴太郎氏がいたが,彼も身を乗り出して観る様子もなく,やはり退屈そうに見えた。  
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写真6 川下りは『ロード・オブ・ザ・リング』風の演出。撮影風景(上)と完成映像(下).
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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