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O plus E誌 2002年9月号掲載
 
 
『Returner リターナー』
[+山崎監督インタビュー]
(東宝配給)
 
 
    
 オフィシャルサイト日本語 2002年7月18日 東宝本社試写室 
 [8月31日より全国東宝系にて公開中]   
     
 (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。) 
  
 2作目は『マトリックス』意識したSF&アクション 
   2年前の夏,「日本にもこんな素晴らしいVFX作品を作れる監督がいたのか!」と驚き,大きく取り上げた『ジュブナイル』(2000年7月号参照)の山崎貴監督の待望の第2作目だ。
 大陸のマンホール育ちの孤児で,日本に渡って「リターナー」(ブラック・マネーを取引現場で強奪し,依頼者に戻す仕事人)となったミヤモトを演じるのは,台湾生まれの金城武。『スペース・トラベラーズ』(00)以来2年ぶりの日本映画出演だ。彼の復讐相手でアジア・マフィアの幹部の溝口役に岸谷五朗。その戦いの最中に2084年の未来から突如降ってきた少女ミリに『ジュブナイル』の鈴木杏。山崎監督のお気に入りのようだ。他に,ミヤモトの母親的存在で裏社会に通じた情報屋・謝を樹木希林が演じ,いい味を出している。
 映画は,ミヤモト対溝口の復讐戦アクションに,ミリのタイムトラベルと宇宙生物とのコンタクトのSF的要素を絡めている。地球侵略戦争に破れ宇宙生物に支配されている未来から,最初の宇宙生物ダグラ抹殺の指命を帯びて2002年にやって来た14歳の少女ミリは,ミヤモトを丸め込み,3日間の期限内に目的を果たそうとする。ところが,伝えられた歴史とは違い,瀕死の宇宙生物には地球侵略の意図はなく,故郷に帰りたがっていた。というのが,ストーリーのあらましだ。
 当初ミリが主人公で「未来社会から来た少女が,宇宙人をやっつけに行く話」から,ミヤモトを中心に「溝口に敵討ちしようとしたら,少女が降ってきてとんでもないことに巻き込まれる」という物語に変更されたという。なるほど見かけ上は金城武と彼のアクションをウリにしているようだが,観賞後の印象はもとの脚本通り,タイムトラベルしてきた少女が主人公で,宇宙生物に接する優しさなどは『ジュブナイル』,ひいては『E.T.』を思い出させる山崎流のストーリー展開だ。
 黒いコートの裾を颯爽と翻している金城武のポスターからは,誰しも『マトリックス』を思い出す。弾丸の静止,壁を横伝いに走るアクション…,途中で金城武がキアヌ・リーブスに見えてきた。ここまで来ると,パロディというよりオマージュと言うべきだろうか。映画の表題,タイトル・シーン,タイムトラベルという設定は『ターミネーター』を彷彿とさせるし,『E.T.』『未知との遭遇』『メン・イン・ブラック(MIB)』『トゥルー・ライズ』『M:I-2』から007シリーズまで,色々な映画の名場面がちりばめられている。映画ファンを意識したサービスというより,作り手が楽しんでいるのかも知れない。
 ご自慢のVFXシーンは,『ジュブナイル』の300カットに対して260カットに減ったが,各カットは1.5〜2倍というから分量的には十分だ。ハリアー戦闘機やジャンボ機の質感,未来社会の戦闘シーン等は日本映画では最高水準で,『ピンポン』よりはずっと見応えがある。ただし,宇宙生物ダグラやその母船などは,画質も造形も『ジュブナイル』のボイド人に似ているなと感じる。製作費やスタッフの数を比べると酷かも知れないが,この2年間の世界のVFX技術水準の進歩を考えると,トップレベルとは少し差は開いたかなという印象も受ける。
 個人的には『ジュブナイル』の方が好きだが,アクション映画としても成功していると思う。映像のスケールが日本映画の枠を超えていると感じるのは,屋外セットやロケを多用しているのと,この監督が自在にVFXを駆使できるためだろう。韓国映画に負けない日本映画の健闘ぶりを見せてくれる。その半面,同じ入場料で本物のハリウッド流アクションやSFと真っ向から勝負したら,やはり苦戦するだろうなとも思う。そう考えて少し点数を辛めにしたが,山崎監督には是非スクラッチで勝負できる映画を目指し続けて欲しいものだ。
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 [山崎監督特別インタビュー] 
 人を殺すシーンもやりたかった 
 
こちらが調布のスタジオまでお訪ねするはずだったのに,お越しいただいてすみません。
山崎TV放映用の『ジュブナイル』の編集の帰りで,こっちの方が自宅に近くて良かったんです。
これからの日本映画界を支える大監督を呼びつけるなんて,この映画評もスゴイなー(笑)。
山崎で,映画はどうでしたか?
面白かったですよ。最初のアクション・シーンの迫力がすごいですね。カッコイイです。
前作で「日本のジェームス・キャメロン」と称賛しましたが,これからは「日本のジョン・ウー」にしましょうか。もっとも,彼の最新作は冴えないから,嬉しくないかな(笑)。
『ジュブナイル』の続編を予想していたのですが,いい意味で裏切られましたね。
 
「人を沢山殺したかったんです」
山崎最初はそのつもりだったのですが,対象年齢をもうちょっと上にしたんです。人を沢山殺す作品も作りたかったんで(笑)。
アジア・マフィアを登場させたり,「リターナー」という設定もそのためですか?
山崎日本の中で銃を扱う役には限りがありますからね。違った作風のものをやらないとイメージが固定されちゃうし,新人のうちに色々なジャンルをやってみたいんです。「リターナー」には,ミリが時間を超えて戻ってくるという意味も入っているんです。
タイムトラベルものという点では『ジュブナイル』と共通していて,山崎監督の得意パターンになりそうですね。
山崎それは,これからもずっと絡めて行くか,全くやめるかのどちらかです。ただ,タイムトラベルはストーリーを設定しやすい,というのはありますね。
VFXの活躍の場も増えますよ。
配役は最初から決まってたんですか?
山崎鈴木杏ちゃんは最初から頭にありました。別の可能性も探りましたが,あの歳で演技もずば抜けていたので,結局彼女しかないと。金城君はチャイニーズ・マフィアということで出て来た名前です。あれだけの銃撃戦だと,日本人にピッタリの俳優はいませんから。
鈴木杏ちゃんは,少しふっくらしましたね。
この映画の杏ちゃんを観て,『野性の証明』の薬師丸ひろ子を思い出してしまいました。ちょっと古いかな?(笑)
山崎そう言われたのは始めてですが,似てるかもしれませんね。あの頃の薬師丸ひろ子も同じくらいの年齢だったでしょう。
 
   
 見せ場のジャンボ機はCG 
 
あちこちで,色々な映画を思わせるシーンがあって楽しかったです。
全体としては『マトリックス』を思い出しますよね。長いコートを着せたり,弾丸を止めたりするなら,いっそのけ反って弾を除けるマシンガン撮影もパロディとしてやって欲しかった(笑)。『シュレック』も,フィオナ姫にカンフー・アクションさせてましたしね。
山崎マシンガン撮影で時間を止めるより,むしろサイボーグ009風の加速装置をやりたかったんです。
それがミリが未来から持って来たソニックムーバーなんですね(写真1(a))。
ダグラの指は『E.T.』,兵士の中に小さなエイリアンが入っているのは『MIB』,宇宙へ帰るシーンは『未知との遭遇』,ジャンボ機が下からぬっと現われるシーンは『トゥルー・ライズ』を思い出しました。
山崎 あんまり『E.T.』は意識しなかったけど,全体的に『未知との遭遇』の感じはありますね。エイリアンが中にいるのは,『MIB』というより日本のロボット・アニメですよ。よく中に人間が入っていて,日本人なら分かる場面でしょう。
スミマセン。日本のアニメは不勉強でして(笑)。
山崎ジェンボ機のせり上がりも,『トゥルー・ライズ』(94)というより,戦闘へリの『ブルー・サンダー』(83)がずっと先にやってたんです。
これも不勉強で申し訳ありません。
戦闘機やジャンボ機が派手に変形しますが,あれは全部CGなんですか?
山崎静止している部分は,模型にテクスチャを貼った場面もありますが,ほとんど全てCGと考えてもらっていいです。海外ではテクスチャのためだけに模型を作ることがあるみたいですが、僕らはそこまではできないですね。その辺は事情の違いが出ますね。
ジャンボ機のCGはなかなかいい出来でしたね(写真1 (b))。でも,何でジャンボ機なんですか?
山崎宇宙人が常に偵察してるんだけれど,それを視覚的にステルスしているという意味を込めてるんです。何か事件があると必ずその場所にいるんだけれど,皆が不思議に感じない存在というか…。
そう言えば,何度も見かけて変だなーと感じてたんですよ。CGのエイリアンの感じは『ジュブナイル』とよく似ていますね。
山崎デザイナーが同じだし,マッピングする人も同じだから,そう感じるのかも知れません。まあ,僕のことですが(笑)。
風力発電用の風車もCGですか?
山崎あれは本物ですよ。ファンタジー的な場面として,ロケ地を随分探して千葉県にあったんです。
ハハハ,何か不自然でCGっぽく見えました(笑)。筑波の宇宙開発事業団(NASDA)の建物の壁面の文字が「NIOS」になっていたのは,デジタル処理で書き換えたんですね?
山崎そうです。名前をそのまま使えなかったので。
「国立宇宙開発研究所」でしたっけ。
その名前が嘘っぽいんですよ。今国立研究所はどんどん廃止されて,ほとんど独立行政法人になっているのです。もうすぐ国立大学も全部そうなります。
山崎 それは知らなかった。不勉強でした(笑)。
インタビューでこんな話題が出るのは,当映画評くらいでしょう(笑)。
 
     
 
 
 
 
(a) ソニックムーバーを作動させるとミリの体感時間は増幅され,20倍速く行動できる。時間差をつけるのにクロマキー合成を利用。カップと水はCGで表現。   (b) オイルリグに登場するジャンボ機のシーン。崖の上に作られた屋外セットの実写映像に,フルCGのジャンボ機とスタジオ内撮影の人物を合成。
写真1 メイキング・オブ・リターナーVFX
(c)2002 "Returner" Film Partners [提供:白組]
 
     
  手頃な本物がなかったから特撮で  
 
これまで日本映画にないスケール感が出せたのは,ロケを多用したせいでしょうか?
山崎 それはあると思います。スケールが大きく見えるロケ地をかなり探しましたから。
オイルリグでの対決シーンをクライマックスにしたのもいいですね。007みたいで(笑)。
山崎 日本だと波止場の倉庫なんかで終わりになりがちだけど,それは嫌だった。オイルリグは絵的に好きなんです。
『アルマゲドン』にも出て来ますね。
山崎 ハリウッドだと大抵本物で撮ってますね。日本になくて,海外を探してもらったらタイにあったんです。でも,写真を見るとショボかったので,そんなんじゃいいやとパッチワークになりました。全体像はミニチュアで,合成でCGの海の上に描いてます。中は姫路にある発電所を改造して使ったけど,窓を遮光するのに暗幕を2.5キロメートル分も使ったそうです(笑)。外は東京ヘリポートをデジタル処理で延長してあります。後ろに海が見えるアップのシーンでは,海の上にあるという高さを出すために,崖に実際にヘリポートの実物大セットを作ってもらいました(写真1(b)上)。
その一方で,ミヤモトの部屋や漢方薬局などは,日本的で随分細部にまで気を配って描かれてますね。『ジュブナイル』の神崎青年の実験室もそうだったけど,ミヤモトの部屋も負けずに汚い。山崎さんの独身時代はああだったのかと(笑)。
山崎 まだ独身ですが…(笑)。上條さんという美術の方に,工場の跡で人間味のない部屋をと注文したらああいう風に作ってくれたんです。結構好きで,僕も住みたいですけどね(笑)。
漢方薬屋もしっかり考証してありました。表の看板に京都の何とか「六神丸」と書いてあって,山崎さん若いのによく知っているなと(笑)。
山崎 そんなの知りませんでした。何ですか?
昔からある万病に効く漢方薬で,京都や富山の色々な会社で作っているようで…。
山崎 風情のある漢方薬屋を探したけど手頃なのがなかったので,外側はセットで作り,中身は廃業寸前の漢方薬屋さんから借りてきたんです。だから,瓶などの小道具は本物です。
DVDでは,是非そうしたセットやVFXメイキングを監督自ら音声解説して下さい。
     
  VFXは映画を面白くするために使う  
 
ジャンボ機の変形はTVのスポットCMにも出て来ますが,他にご自慢のVFXシーンはどこですか?
山崎 まあ,ジャンボ機は上手く行きましたね。未来都市の市街戦のシーン(写真2)も削られそうだったけど,どうしてもやりたかったので粘って入れました。昼間のマザーシップは,レンダリングにグローバル・イルミネーションを使っているので,時間が100倍くらいかかりました。これは最新テクノロジーです。
写真2 未来都市での市街地戦闘シーン。壊れたビルは模型,戦闘機と兵士はCG
ミリが未来に帰ってゆく場面で,身体の一部が透明になって行く描き方は上手いですね。VFXが使える脚本家,監督ならではのシーンです。
山崎 あのシーンには派手なVFXは似合わないから,地味だけど手がかかっています。確かに脚本を自分でやっているとああいうシーンは組み込みやすいですね。
他のプロダクションも少し参加しておられるようですが,今回のVFXには白組からは19名。『ジュブナイル』からは数名増えたとはいえ,相変わらずこの数でこの分量は驚異的です。
山崎 フルタイムで働いていたのは10人程度です。それでも,今回は2Dに2人増えたので随分助かりました。
『スチュアート・リトル2』は約250名,『エピソード2』にいたっては500名以上も名前がありましたよ。
山崎 あちらは完全分業制なので人数は多くなりますが,日本だと1つのシーンを任せて,1人で仕上げまでやってもらう方が効率的です。
最近のハリウッド,欧州,豪州のVFXをどう思われますか?
山崎 技術は向上しているのに,使い方が少し下手になっていると感じます。お客はCGではなく,人や話を見に来るのだから,VFXがもっと面白さに貢献すべきです。そうでなければ,作っている人も可哀想です。
 
「ハリウッドは,VFXの使い方が下手になってます」
ILMが最近全くオスカーを取れないのも,そのせいですね。素晴らしい技術が駄作にばかり使われているから,どうしても印象が悪く,技術に与えられるべき視覚効果賞が取れません。あれだけの質と量を見せてくれるのですから,今度の『エピソード2』くらいは,もう少し高く評価してやってもいいと思うのですが。
山崎 『エピソード1』よりはいいけど,恋愛が上手く描けてませんね。VFXだけで評価されるなら,『パール・ハーバー』でされるべきでした。ILMは今まで賞を取り過ぎたから,他に票が流れるのかも知れません。
『ピンポン』『少林サッカー』は如何ですか?
山崎 監督をよく知っていますが,『ピンポン』の製作費はさらにきびしかったみたいで,例えばエキストラが足りないのでCGで描くという涙ぐましい努力をしています。その心意気に感動しました(笑)。『少林サッカー』は徹底してVFXを面白さのために使っていますね。CGの正統な使い方だと思います。
映画を面白くしないのならVFXの存在価値はないということで,今後も山崎作品はどれも面白い映画になることでしょう。期待しています。
長時間ありがとうございました。
   
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