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O plus E誌 2002年7月号掲載
 
 
『ピンポン』
(アスミックエース作品)
 
 
       
  オフィシャルサイト日本語   2002年5月14日 映画美学校試写室  
  [7月20日渋谷シネマライズ他にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  前宣伝ほどVFXの威力を感じない  
   一方,こちらは名作コミックの映画化で,『タイタニック』のVFXに参加した日本の第一人者曽利文彦の初監督作品,映像化不可能と言われた壮絶な卓球シーンを完全映画化,という触れ込みだった。大いに期待し,一昨年の『ジュブナイル』と同様に特別インタビューを申し入れようかと意気込んだ。結論を先に言うなら,試写会半ばでその高揚感は消えてなくなり,日本映画の実力を感じさせられる結果に終わった。
 原作は,「ビッグコミック・スピリッツ」に連載された松本大洋作の同名のコミックだ。脚本と主演は,それぞれ昨年『GO』で日本アカデミー賞の脚本賞と主演男優賞を受賞した宮藤官九郎と窪塚洋介という若手注目株である。
 幼なじみの親友で卓球少年のペコこと星野裕(窪塚洋介)とスマイルこと月本誠(ARATA)を中心としたスポーツドラマで,インターハイに臨む高校卓球部員たちの物語だ。2人の他に,卓球部コーチの小泉(竹中直人),卓球場タムラの経営者オババ(夏木マリ),ライバル高校の主将・ドラゴンこと風間竜一(中村獅童),アクマこと佐久間学(大倉孝二)らが脇役として登場する。
 撮影は『ヴィドック』『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』と同様に,ソニー製HD24Pカメラによるフィルムレスのデジタル撮影で,ポストプロダクションで約300シーンにCGによるVFXが加えられたという。その威力を感じたのは,冒頭でペコが川に飛び込むシーンでのマシンガン撮影だけだった(写真1)。ペコを静止させておいてカメラがぐるっと回り,そのまま斜め上に引いて橋の上空まで達するカメラワークは見応えがあった。勿論,静止部分では窪塚洋介はブルーバックのスタジオ内で宙吊りで,カメラを引いた高い位置でのペコはCGだろうが,ここはその繋ぎ目を感じさせないいい出来だった。
 
     
 
写真1 『マトリックス』を思わせるマシンガン撮影の1コマ 写真2 アップで捕らえた卓球の玉とラケット
写真3 クライマックスのジャンプシーン 写真4 バタフライ・ジョーの背中の羽根はCG
 
     
   感心したのはここだけで,他は期待したほどVFXの威力を感じさせてくれなかった。タレントが演じる卓球の試合のピンポン玉はCGで,他のコートの試合はほとんど卓球部員による実演だろう。場内観客も,エキストラ500人をデジタル・コピーして使っている。さらに,写真2のような超アップのシーンはCGで,クライマックスのジャンプシーン(写真3)はデジタル合成,バタフライ・ジョーの羽根(写真4)はいかにもCGだ。ただし,この程度のVFXで映像化不可能を可能にしたというのは僭越だ。『フォレスト・ガンプ/一期一会』(94)の卓球シーンより数段上というが,最近ならこのレベルは当たり前で,そんな昔と比べる方がおかしい。
 VFXは事前宣伝ほどは大きなウリでないとしても,映画全体の出来栄えも今一つだった。きっと原作に忠実なのだろうと感じたが,映画単独で見ると高い評価は与えられない。前述のマシンガン撮影以外はカメラワークも特筆に値せず,音楽も記憶に残らない。何となくまとまりの悪い作品という印象だけが残った。
 
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  映画的な原作に映画が負けている  
 
この監督には,南カリフォルニア大学を訪問した折,留学中の彼と出会っているんです。彼が『タイタニック』に参加する少し前です。
だから余計に期待が大きく,厳しい評価になったのですね。この映画は大作じゃないけど,普通の青春ドラマですよ。
青春ドラマなら,女子ボート部を描いた『がんばっていきまっしょい』(99)のような瑞々しさが欲しかったし,スポーツもののVFX描写をウリにするなら,『少林サッカー』(5月号参照)のような極端な描写での躍動感が欲しいですよ。
私は,窪塚君は難しい役をよく演じていたし,竹中直人もいつものくどさは少なく好演だと感じました。この映画のタッチが合わないなら,きっと原作も嫌いなんじゃないですか。
そう思って,原作全5巻(小学館刊)を買って読んでみました。なるほど,この手の絵と話の展開は私には苦手で,連載ならまず読まないマンガです。でも,これは名作というだけあって,結構ハマってしまい,すぐ全巻読んで感激してしまいました(笑)。
映画は,原作に忠実じゃないんですか?
忠実ですよ。構図も人物のセリフや表情も。ペコ,ドラゴン,アクマ,チャイナはイメージ通りのキャスティングです。映画だけなら不自然に感じたスマイルも,見比べるとよく原作の味を出していました。
この絵だと,バタフライ・ジョーとオババが似てませんね。
ジョーは柄本明あたりの方が似合ったけど,竹中直人だと別の人格で,それはそれでいいですね。オババの方はミスキャストで,夏木マリじゃ若くて美人過ぎますよ(笑)。そもそもセリフが少なく,映画的な描写を意識したコミックなのですが,それを忠実に映画化したのでは,原作を超えることはできません。
コミック・ファンには物足りなく,映画ファンにも不満足というわけですか。
ただ原作をなぞっただけのコピーという感じです。映画は独立した作品として観客を満足させられるものでなくては,映画化の意味がありません。最大のポイントであるはずの卓球の試合は,原作の方がずっと迫力を感じます。この映画はそこが弱すぎます。CGを多用するなら,もっと劇的な動きにして映画の長所を活かさないと,劇画に負けてしまいます。
素材はいいのに,脚色が弱いんですね。
そうだと思います。この手の映画は,脚本と監督が同じ人物でないと快適なタッチが出せないのに,その脚本自体も工夫が足りません。
確かに,卓球観戦の観客もダラダラしていて緊迫感に欠けました。エキストラのギャラをケチったんですね,きっと(笑)。
当初の評価はだったのですが,私のように映画を観てから原作を買い,それで感動する人間もいますから,それを誘発したという意味で+をオマケしておきましょう。
 
   
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