O plus E VFX映画時評 2025年11月号
(注:本映画時評の評点は,上から![]()
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先月号から,メイン記事を書く前に評点と短い感想のみを示しておき,後でゆっくりフルサイズの解説記事を書くと宣言した。とは言うものの,約1週間強で終えるつもりだったが,3週間近くも経ち,月末になってしまった。言い訳も含め,その理由を説明しておこう。
本シリーズの過去作を余り高く評価していなかったため,各作品でのプレデターの活躍ぶりがあまり記憶に残っていなかった。ところが,前評判に違わず,本作が秀逸である上,全くの新路線であったため,過去作でのプレデターの登場の仕方や能力や武器類を調べて,本作との違いを整理したくなった。そのため,過去作を点検するのに,かなりの時間を費やしたのである。
この間に,11/14公開分だけでなく,11/21公開分の論評欄の一般作品の執筆を先行させたので,さらに遅れが累積した。加えて気になったのは,11月15日(土)の午後(現地時間)に米国加州バーバンク市のWalt Disney Studios内で開催されたVES(Visual Effects Society)共催の3D上映会である。全編の3D上映の後,VFXチームの要人たちがパネリストとして登場し,技術的な細部を解説し,さらに会場からの質疑応答に応じるコーナーも設けるとのことだった。会場参加者もVFXのプロたちであるから,本作はVFX業界内でかなり注目されていたことになる。さすがに日本から現地参加する余裕はなかったが,この質疑応答部分だけでもネット中継されれば,その内容を書き加えたいと考えた。残念ながら同時中継はなかったので,後日,その内容がネット記事になるこを期待したが,本日までにその投稿はないので,諦めて本稿に着手することにした。
その一方,嬉しいことに劇場公開後にSFXやVFXシーンのメイキング映像(Behind the Scenes)が次々と公開された。嬉しくなるようなシーンばかりで,あれもこれも盛り込もうと構成を変えている内に,さらに時間がかかったのである。本作は予想以上の興行成績を残したため,既に続編の製作とダン・トラクテンバーグ監督の続投が決定している。となると,シリーズ全体における本作の意義をきちんと語っておく必要があると考え,当映画評独自の視点からの整理と解説に注力することにしたのである。
【シリーズ過去作の整理】
「プレデター」の名を冠した過去作は6本で,『エイリアン』シリーズとのクロスオーバーの両雄対決が2本あり,計8本である。
①『プレデター』(87年6月公開)[以下,日本国内の公開/配信開始月]
[原題]Predator,[監督]ジョン・マクティアナン
[主人公]アラン・シェイファー(アーノルド・シュワルツェネッガー)
[時代と場所]公開時の年代。中米のバル・ベデル共和国のジャングル。
[概要]当時人気絶頂のシュワの魅力をウリにしたアクション映画として登場。CIAに招集された6人の特殊部隊が現地ゲリラ部隊から政府要人を救出する作戦中に,高い戦闘能力と高度な技術をもった好戦的な異星人に襲撃され,これを撃退する。「Predator」は「捕獲動物」の意。
②『プレデター2』(91年1月公開)
[原題]Predator 2,[監督]スティーヴン・ホプキンス
[主人公]マイク・ハリガン(ダニー・グローヴァー)
[時代と場所]近未来の1997年。米国LA市内。
[概要]LA市警察とDEA麻薬捜査官がコロンビア人のギャングを追う中で異星人の捕獲者に遭遇。1体を仕留めたが,地下に宇宙船があり,多数のプレデターが出現する。目的を果たした宇宙船は地球から去る。プレデターの能力やハイテク装備類は①よりかなり進化していた。
③『エイリアン VS.プレデター』(05年1月号)![]()
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[原題]Alien vs. Predator,[監督]ポール・W・S・アンダーソン
[主人公]アレクサ・ウッズ(サナ・レイサン)
[時代と場所]2004年,南極のブーヴェ島の地下遺跡
[概要]南極の熱反応を調べる調査隊が地下遺跡を見つけた。それはかつてプレデターがエイリアンと戦う闘技場だった。蘇ったエイリアンが調査隊を襲い,生き残った人間と宇宙から来たプレデターが共闘してエイリアンを倒す。初めて女性の主人公が戦うのを新鮮に感じた。
④『AVP2 エイリアンズ VS.プレデター』(07年12月号)![]()
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[原題]T Aliens vs. Predator: Requiem[監督]コリン&グレッグ・ストラウス
[主人公]ダラス・ハワード(スティーヴン・パスカル)
[時代と場所]上記③の少し後で,プレデターの宇宙船内と米国コロラド州の町
[概要]③のプレデターに寄生したエイリアンの幼体から混血の「プレデリアン」が生まれて増殖し,小型宇宙船が地球上に墜落して町を襲う。宇宙からはエイリアン駆除のプレデターが送り込まれ,町を守る保安官達,プレデリアンとの三つ巴の戦いが展開する。
⑤『プレデターズ』(10年7月号)![]()
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[原題]Predators,[監督]ニムロッド・アーントル
[主人公]ロイス(エイドリアン・ブロディ)
[時代と場所]時代は不明。謎の惑星上のジャングル。
[概要]8人の地球人がプレデター達の惑星に連れ去られ,狩猟活動の標的となっていた。プレデターは,大小いくつかの種族が登場する。死闘の末,生き残った主人公らは宇宙船を奪って地球に戻る。
⑥『ザ・プレデター』(18年9・10月号)![]()
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[原題]The Predator,[監督]シェーン・ブラック
[主人公]クイン・マッケナ(ボイド・ホルブルック)
[時代と場所]公開年の2018年。メキシコと米国内は軍の秘密基地や宇宙人研究所等。
[備考]メキシコで主人公に捕獲された逃亡者プレデターは米国内の秘密基地から脱走するが,別の強力な追跡プレデターに抹殺される。主人公らは激闘の末,宇宙船を大破させ,宇宙に戻らせなかった。登場するプレデターはさらに進化し,作品としてのVFX活用度も増えた。
⑦『プレデター:ザ・プレイ』(22年8月配信開始)
[原題]Prey,[監督]ダン・トラクテンバーグ
[主人公]ナル(アンバー・ミッドサンダー)
[時代と場所]1719年,米国中西部ロッキー山脈の東のグレートプレーンズ(大平原)
[概要]Disney+配信の映画。初めて300年前の過去を描いている。④に続いて女性主人公。コマンチ族の若い女性戦士が森でプレデターと遭遇する。密猟者,バッファローやグリズリーも登場する中,彼女はプレデターを倒し,頭部を持ち帰って部族長となる。
⑧『プレデター:最凶頂上決戦』(25年6月配信開始)
[原題]Predator: Killer of Killers,[監督]ダン・トラクテンバーグ
[主人公]ウルシャ(リンゼイ・ラバンシー)
[時代と場所]841年の北欧のバイキング,1619年の日本の戦国時代,1942年の第二次世界大戦中の米軍,プレデターの惑星にある闘技場
[概要]これもDisney+配信で,初のCGアニメ作品。監督は続投。それぞれの時代でプレデターを倒した3人の勇者が,仮死状態にされてプレデターの惑星に運ばれ,闘技場内で戦う「頂上決戦」が描かれている。CGアニメとしての画質はさほどでなかったが,プレデターは勇猛でCGの特質を効果的に利用していた。
以上の8作品で,当映画評が紹介したのは③〜⑥の4本だが,高評価を与えていないのがお分かりだろう。徐々にCG/VFXの利用度も増えたが,当欄のメイン記事の平均からすると物足りなかった。
個人的には,①は平均的なアクション映画としてTV放映とレンタルビデオで観ていた。②は③の試写前にレンタルビデオで点検した。また⑦⑧は余裕がなく未見であったが,本作を機にネット配信動画をダウンロードし,早送りでざっと眺めた。両作とも何百年も前の地球にプレデターが出現していたという設定が印象的だった。絶賛するほどの出来映えではないが,監督のD・トラクテンバーグはSFアクション映画のエッセンスをよく理解している才能ある監督だと感じた。
【本作の物語展開】
上記の⑦⑧で新機軸を打ち出したD・トラクテンバーグの3作目であり,彼はプレデター・シリーズの全く新しい路線の船出だと語っている。
物語はプレデターのヤウージャ族の住む惑星から始まる。若い小柄なデクは,屈強で一族の長である父ニョール(写真1)に認められたいため,最悪の地(バッドランド)であるゲンナ星に棲む不死身の怪物カリスクを捕獲する手柄を立てようとしていた。しかし,冷酷で非情な父は見込みのないデクを見限り,兄クウェイにデクの殺害を命じたが,彼は遠隔操作で輸送船を起動し,デクを乗せてゲンナ星に向けて送り出した(写真2)。命令に背いたことに激怒した父は兄をその場で殺してしまった。デクにはなす術がなかった。
ゲンナ星に到着した輸送船は岩にぶつかって不時着した。岩と砂地だけのヤウージャ星に比べて,ゲンナ星には森林や川や湖も存在した。輸送船を出たデクは,森で数々の動植物に襲われた。何とかこれを乗り切ったデクは,突然,女性のティアに声をかけられた。彼女はウェイランド・ユタニ社が開発したアンドロイドで,カリスク捕獲チームを率いてこの星に来たが,屈強なカリスクに破れてチームは壊滅し,ティアも下半身を失っていた(写真3)。カリスク追跡で協働することになり,デクはティアを背負って野山を歩く(写真4)。その途中に原住民の小型動物と合流し,ティアはそれを「バド」と名付けた。
ティアと同型アンドロイドで姉妹のテッサもカリスクに破れて機能不全になっていたが,ユタニ社が遠隔修復して再起動した。テッサはデクらの行動を追跡し始め,不時着したデクの宇宙船から武器を奪い,新たなユタニ・チームを呼び寄せた。一方,ティアの助けを借り,デクはカリスクを引き寄せ,カリスクの頭部を切断に成功したが,カリスクはすぐに頭部を再生してしまった。そこにユタニ・チームが到着し,デクとカリスクを拘束し,同社の基地で彼らに身体分析実験を始めた。
ティアの助けでデクは基地から脱出したが,バドがカリスクの子供であることを知って,デクはティアとカリスクをユタニ基地から救出することにした。果して,デクはテッサやユタニ・チームと戦って生き延び,戦利品を得て故郷のヤウージャ星に戻ることができるのか……。
なるほど期待以上の出来映えだと感じさせる秀作であった。既にお分かりのように,すべて地球を離れた宇宙空間の他の惑星で起こる出来事である。SF映画としては珍しくないが,地球人どころか,全く普通の人類が登場しないというのは珍しい。プレデターとしてのヤウージャ族は本来「捕獲者」であるが,ゲンナ星におけるデクは,「狩る側」である前に「狩られる側」であることも新機軸である。映画としては,デクとティアのバディものとして描かれているのに好感がもてた。
既にネット上では好意的な評価が多く,新路線を喜ぶファンで溢れている。この映画はマスコミ試写でなく,公開日の昼過ぎに自宅近くのシネコンで観た。その劇場にはIMAX上映がなかったが,これから観る読者にはIMAXか同等の大きなスクリーンで観ることを勧めたい。もう一度観たくなった場合は,尚更である。3D上映もそれに相応しい付加価値があると思う。
【監督,主要登場人物とキャスティング】
監督のダン・トラクテンバーグは,1981年米国ペンシルベニア州フィラデルフィア市生まれで,同市のテンプル大学で映画学を学んだ。CM製作や数本の短編製作の後,長編デビュー作は『10 クローバーフィールド・レーン』(16年6月号)であった。今回経歴を見るまで,当欄で紹介していたことを忘れていた。宇宙からの侵略者による大規模停電時の出来事を描いた密室もの映画で,サスペンス・スリラーとしての出来映えを結構褒めていた。
若い頃から『スター・ウォーズ』シリーズや『エイリアン』シリーズを繰り返し眺め,SFホラーやSFアクション映画にのめり込んだ映画歴は,同作の後のプレデター3作で遺憾なく発揮されている。例えば,デクがティアを背負って歩く姿は,SWシリーズで大猿のチューバッカがC3POを背負って行動するシーンから思いついたという。ティアやテッサの製造元のウェイランド・ユタニ社というのは『エイリアン』シリーズの悪名高いアンドロイド製造会社である。
思えば『10 クローバー…』やその前作の『クローバーフィールド/HAKAISHA 』(08年4月号)の製作はJ・J・エイブラムであり,彼がD・トラクテンバーグを見出して,監督デビューさせたのであった。エイブラム自身は『M:I』シリーズ数作の製作を担当した後,『スター・トレック』(09年6月号)『同 イントゥ・ダークネス』(13年9月号)の監督・製作で,SF映画界での地位を確立し,SWシリーズの新3部作(EP7〜9)を託された。全体の製作に関わった上に,自らは『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(15年12月号)『同/スカイウォーカーの夜明け』(19年Web専用#6)の監督・脚本も担当した。いきなり彼のレベルには達しなくても,トラクテンバーグも本作の成功により,同じような道を歩むのではと期待したい。
さて,登場人物のキャスティングに移ろう。物語としての主人公はプレデターのデクだが,プレデター役は全員素顔が見えない。まともに俳優の顔が見えるのは,ティアとテッサの一人二役を演じるエル・ファニングだけである。先に『マイ・ボディガード』(04)でブレイクしたダコタ・ファニングの実妹であり,姉と同様,子役として多数の映画に出演した。『SUPER 8/スーパーエイト』(11年6月号)『マレフィセント』(14年7月号)『同2』(19年Web専用#5)等の大作への出演により,姉を超える若手女性俳優の売れっ子となった。『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN 』(25年2月号)のボブ・ディランの恋人役で随分大人の女優になったなと感じたが,本作の演技で人気はさらに急上昇することだろう。
劇中では,ティアとテッサの基本性能は同じで,姉妹扱いの同型アンドロイドだが,ティアは明るく,行動的で前線で活躍し,テッサは落ち着きがあって分析能力があり,補助・戦術支援役として描き分けられている(写真5)。観客の大半は,任務に忠実で敵役のテッサよりも,ティアの方が愛らしく,デクと行動を共にするティアの方を愛しく感じることだろう。そう思わせる演じ分けは,かなりの演技力だなと感じた。
デク役のディミトリウス・シュスター・コロアマタンギは,ニュージーランド人の男優で,母はサモア人,父はトンガ人の血筋である。TVドラマ出演で人気を得たが,映画出演はまだ同国での『レッド,ホワイト,アンド・ ブラス』(23)があるだけだ。2本目にハリウッド大作の本作に抜擢されるとは,大幸運児である。素顔は見えなかったとはいえ,全編でほぼ出ずっぱりで,かなりの演技力を見せたので,シリーズの続編の他にも一気に出演作が増えるものと思われる。父ニョール役のルーベン・デ・ヨング,兄クウェイ役のマイク・ホーミックも同じくニュージーランド人で,それぞれヘビー級のキックボクサー&レスラー,バスケット・ボール選手である。2人とも2m超の現役スポーツ選手で,彼らを選んだのは,デク役のコロアマタンギを小柄に見せるためだったと思われる。また全員がニュージランド人であるのは,本作の撮影場所の大半が自然豊かな同国であったからだ。
【旧作のプレデターとの主な違い】
シリーズの過去作と本作でのプレデターの描かれ方の共通点や違いを整理してみた。本作に登場するプレデターは「ヤウージャ族」とされている。この数年,コミックや小説中で“Yautja”なる表記が登場していたようだが,映画正史の中で明示的に種族名が登場するのは初めてである。ただし,「アパッチ族」「コマンチ族」のような感じで,他の対抗する種族が登場する訳ではない。「ウォーリアー」「ロストハンター」等は,職務としての役割であって種族ではない。今後の続編の中で対立する種族を登場させて,彼らの間での戦いを描く気なのかも知れない。
このニョール,クウェイ,デクといった固有名詞や家族関係が明示されているのも初めてであり,彼らは「ヤウージャ語」を話している。過去作では,叫びや唸りのような怪物としての声を発していただけなので,高度な文明をもつ生物に相応しい扱いである。この言葉は,本作のためにデザインされた言語であり,俳優は観客には意味不明の言葉を話していたのである。アンドロイドのティアは,言語翻訳能力があったので,デクとの会話ができ,バディ関係が成り立つというのもSFらしい妥当な筋書きである。
種族の長であるパワフルな父ニョールにひ弱なデクが疎んじられるという設定は,『ヒックとドラゴン』シリーズのバイキングの父子関係を思い出してしまった。ドラゴンの「トゥース」のお陰でヒックが成長するのと同じく,アンドロイドのティアがその役目を果すのも相似形である。もっとも父ニョールが手柄を立てたデクの姿を喜ぶのではハッピーエンド過ぎるので,そうならないエンディングに安心したが(笑)。
家族構成と言葉を話すだけでも十分な新機軸であるが,その一方でヤウージャ族のデクらは,「戦士としての狩猟文化」「弱者は狩らないという勇者としての誇りと倫理観」「身体能力が高く,接近戦を好む」等のプレデターの特性を継承していた。具体的な武器・装備も,以下が過去作と同等か少し変形した形で登場していた。
(a) アクティブ・カモフラージュ(光学迷彩):姿を透明化/ぼかす能力。第1作から登場していた。
(b) バイオマスク(戦闘ヘルメット):熱感知による強化視覚が組み込まれていて,HUD表示もできる
(c) プレデター・スピア(コンビスティック):伸縮する槍
(d) スマートディスク/投擲ブレード:自動的に軌道修正して敵を切り裂く切断兵器の改良型(写真6)
(e) プレズマキャスター:遠距離兵器である肩乗せのプラズマ砲(写真7)。今回は過去作よりも軽量型に見えた。
(f) ガントレット:左右の前腕を覆う多機能装備(写真8)。多種類の武器を制御でき,マップ表示や通信機能もある。
(f) リストブレード:上記の組み込まれている近接戦闘用の伸縮式の刃。前面や側面から飛び出す。
また,本作独自の新装備,新機能として,以下が登場した。
(g) プラズマソード:過去作でもプラズマ光で赤く発光する弓・矢が描かれたことがあるが,その改良版が本作にも登場した(写真9)。さらにその発展形として,エッジ部分が真紅に光る剣が接近戦のバトルで積極的に使われていて印象的だった(写真10)。
(h) 翼状シールド:新しい防具として羽の形をした楯が登場する。CGによる描画と思われる(写真11)。
(i) 拘束球:手榴弾のような球状物体だが,爆弾ではなく,敵に衝突するとワイヤー状の網をかけ,ショックを与えて捕縛する(写真12)。
(j) 現地素材による即席武器:輸送船に残した武器をテッサに奪われたデクが,ゲンナ星の生物の骨・殻・甲冑を使って,斧・槍・棍棒・刃として使う。ハイテク機器がウリだったプレデターが,こうした原始的武器を即席で作る適応力が印象的だった。
【特撮とCG/VFXの見どころ】
本作のVFXシーンは格別に多く,全編の90%以上でCG/VFXが使われているという。そりゃそうだろう。主人公のデクを中心にプレデター役の俳優の素顔は見えず,何らかのVFX処理が施されている。ゲンナ星でデクを襲うクリーチャー類はほぼCGの産物であるし,下半身なしのティアもVFX加工なしでは描きようがない。以下は,予告編やメイキング映像で公開されている中で,代表的シーンのみについて解説する。
■ まず,プレデターのルックスである。シリーズ各作でバリエーションがあるのは当然だが,いかにもプレデターだと分かる共通点もある。地球人類と同じ直立二足歩行で,第1作から全身が甲冑姿の怪物然とした戦士として描かれていたが,その後もそれが踏襲されていた(写真13)。頭部は基本的に戦闘ヘルメットを着用していて,センサーにも武器にもなり得ることは既に述べた。そのヘルメットからはみ出している長い後ろ髪,下部から見える口から下顎がかなり印象的だ。口には2対4本の鋭い牙があるが,下の2本が長く,大きく明けて四角形になる口はかなり醜悪だ。時々,ヘルメットを外した裸顔が登場していたが,顔全体も醜悪そのものである(写真14)。ヘルメットは実物,(プレデターとしての)裸顔は特殊メイクや被りもの着用であったが,時代とともに俳優は素顔で演技し,CG製のヘルメットや顔を重畳していることが増えてきた(第8作『最凶頂上決戦』はフルCG)。首から下は,大きめ肩甲骨カバーと前腕のガントレットは明らかに甲冑の強化部分あるが,その内側の戦闘スーツにはデザインも多様で,強度も差があるように見える。
■ 本作のプレデターで,父ニョールは常時へルメット着用しているが,種族長らしく,その頭部には鹿に似た立派な角がついている(写真15)。一方の息子デクは,ゲンナ星に着くと早々と戦闘へルメットを脱ぎ捨て,ヤウージャ族としての素顔で登場する(写真16)。自分は捕獲者でないので,戦闘モードではないという証しにそうしていたのかも知れない。写真17 のメイキング映像から分かるように,デク役のD・S・コロアマタンギは,素顔のままで演技し,CG製の顔を重ね書きしている。
■ ヤウージャ星とゲンタ星の景観に言及しておこう。前者は岩と砂の殺伐とした土地ばかりだが,同じような岩場は後者の一部にも存在した。何と,鮫が口を開けたような特異な形状の岩は,第8作『最凶頂上作戦』の終盤にも登場していた(写真18)。同作と本作は製作時期が重複しているので,トラクテンバーグ監督はこの岩の形で,両作は繋がっていることを意識させようとしたのだろう。デクのゲンタ星到着時から,川や湖の登場場面は何度か登場し,少し心が和む(写真19)。滝からデクが落下するシーンもあるが,当然CG描写であり,特筆するに値しない(写真20)。ジャングルは本シリーズの定番シーンだ(写真21)。今回は「狩られる側」とはいえ,ジャングル内で早速バトルが展開することで,正統な続編であると感じさせる筋立てである。基本的にニュージランド・ロケであるが,いずれもかなりVFX加工されていて,中にはフルCGかと思われるシーンも頻出する。
■ バッドランドに到着したデクとこの星にする敵対生物との戦いが前半の見どころである。森の中では,まず3本足の巨大生物「ルーナ・バク」に驚かされる(写真22)。手長猿のように木を伝って素早く動くが,かなり大きい。厄介で手こずったのは,枯れ木か蔦のように見える「インブレ・アングィス」だ。蛇のように動き,デクを襲う(写真23)。植物のように見せているのは擬態で,蛇のように巻き付いて首を絞めつけ,さらに口から噴射物を出す危険生物だった(写真24)。何とか仕留め,森を出て草原に出ると,宙から翼竜のような怪鳥「ヴァルチャー」が空から岩を投げつけてきた(写真25)。この飛行動物は地上の「毒生成物」(名前はない)を操り,獲物を動けなくして補食する。大きな紫色の実が多数育つ高さ60〜70cm程度の植物であるが,その隙間に鋭い刺があり,これが「麻酔針」の働きをするので,刺されると瞬時に動けなくなる(写真26)。さらに実が破裂して花粉を撒き散らすが,それにも強い毒性がある。
■ 草原では,象のような大きな耳と長い鼻をもつ大型草食動物が突進して来た(写真27)。この動物は驚いて突進しただけであり,敵対心はなく,危険ではなかった。これらはいずれも予期せぬ襲来であったが,デクが「狩る側」として探した「カリスク」は,見るからにモンスターであった(写真28)。首を切り落としても,すぐに元に戻る様はさすがにCGならではの演出である。当然,このモンスターが宿敵かと思ったが,後半でデクらがこの生物を救出する展開になるとは思いも寄らなかった。こうしたクリーチャー類は,いずれもCG描画としてさほど難しい対象ではないが,バラエティに富んでいて,デザイン的にもユニークであったことが,本作の成功要因である。
■ 全編を通じてVFX処理の最大の見どころは,下半身のないティアの描写である。片腕や片足の膝から下を失った人物ならば何例もあるが,下半身のない人物を長い時間登場させた映画など聞いたことがない。もっとも,普通の人間が事故で下半身を丸ごと失ったら,まず生きてはいられない。アンドロイドゆえの設定,SFファンタジーゆえの登場の仕方である。それでもこれだけ下半身なしのシーンが多いのは半端ではない。加えて,デクがティアを背負って歩くシーンが多くなると,照明の当て方や別撮りした背景映像との繋ぎ方にも細心の注意が必要となる(写真29)。遠距離からの構図では,軽い人形(写真30)を使って撮影したシーンもあったようだが,大半は実際にE・ファニングを背負って歩いたというから,デク役男優の負荷は大変なものだ。背負われている女優側も足を組んだり,伸したり,疲れるに違いない(写真31)。メイキング映像を観ると,まずスタジオ内での歩行練習時には女優の下半身はワイヤー吊りで支え,屋外シーンの撮影時にはブルーのタイツを着用してクロマキー処理している(写真32)。
■ 姉妹アンドロイドのテッサの覚醒・再起動シーンも短いながら,印象の残るVFXシーンだった。カリスクに倒され,機能停止して横たわるテッサをユタニ社が遠隔操作で故障箇所を検査・確認し,修理して再起動させる一連のシーケンスである(写真33)。まず左側から先端が尖った金属製の管が延びて来て,左耳から脳内に入り,破壊されている脳機能を検知し,修復する。その後,眼球を入れ替え,顔面の傷の手当てをする等の治療を行い,テッサを再起動させて意識が復活する。この間のテッサの頭部はすべてCG描画であり,数コマ単位でテッサの肌の色や陰影を照明条件に合う調整している。俳優本人の顔に戻るのは,再起動直後に顔を横向ける場面からである。このシーケンスは,さすがSF映画と思わせる素晴らしい出来映えだった。
■ そう言えば,テッサに率いられ,デクやカリスクを拘束したユタニ社のアンドロイド兵士チームは,人間風の顔立ちであった。「スミス」なる名前をもつアンドロイド役の男優はキャメロン・ブラウンと記されているが,他作品でスタント俳優を演じた程度で,名のある男優ではない。勿論,数十体の兵士はすべて同型であるので,同じ顔である。数十人が演技して顔だけ彼にすげ替えたのではなく,彼の動作をMoCapデータ化し,すべてCG製のアンドロイドとして描いたと考える方が自然である(写真34)。終盤の捉えられたデクの脱出シーン,デクがティアやカリスクを救出するシーンはそれなりのCG/VFXで描かれていたが,公開されている予告編,特報映像,メイキング映像のいずれにも含まれていなかったので,本稿では紹介できない。それ以外で目立ったのは,デクが大きな透明球のシールドにはじかれるシーン(写真35),洞窟の外に立つデクの勇姿の背景の幻想的なシーン(写真36)程度である。本作の甲冑や武器のデザイン&制作(写真37)はWētā Workshop,CG/VFXの主担当はILMとWētā FXで,その他Rising Sun Pictures, Trixter, Important Looking Pirates, The Yard VFX, Framestore等が参加した。
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