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O plus E誌 非掲載
 
 
 
 
『SUPER 8/スーパーエイト』
(パラマウント映画)
 
 
      (C) 2011 PARAMOUNT PICTURES

  オフィシャルサイト[日本語] [英語]  
 
  [6月24日よりTOHOシネマズ 日劇ほか全国ロードショー公開中]   2011年6月25日 TOHOシネマズ 二条  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  大衆の満足度を計算した,無難で冒険のない一作  
  もうこれで同じパターンが,何作目だろうか? スピルバーグ作品となると,ほとんど事前情報がなく,撮影が終わってもなお秘密のベールに包まれていて,小出しされた僅かなネタが噂として広まる。そして公開直前に大量のTVスポットが流れ,待望の大作というムードが高められる。特に,米国での夏映画シーズン真っ只中の6月公開の作品にそれが顕著な感がある。『A.I.』(01年7月号)や『宇宙戦争』(05年8月号) がそうだったし,人気シリーズ久々の続編『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(08年7月号)も,このじらし作戦が採用されていた記憶がある。
 名前だけで客を呼べるS・スピルバーグ作品ならではの宣伝作戦だ。興行的に成功しなければ,その後の良い作品も作れないから,秘密主義で好奇心を煽るやり口そのものは理解できる。問題は,作品の出来が,煽った分に見合うだけの満足度を与えられるかだ。上述の『宇宙戦争』は,その期待を見事に裏切った凡作で,「金返せ!」のセリフも飛び出しかねないブーインクものだった。本作も同じ宇宙人到来ものというから,『E.T.』(82)のようなヒットとなるか,『宇宙戦争』の二の舞か,期待と虚仮威しを心配する気持ちが交錯する。
 米国空軍が管理する秘密基地「エリア51」が関係した物語であることは事前に明かされていた。1947年に起きたロズウェル事件に関係し,落下したUFOや異星人が回収されたとの噂のあの基地で,今までに何本もの映画に登場している。S・スピルバーグの本作のパートナーは,『クローバーフィールド/HAKAISHA』(08)のプロデューサー,J・J・エイブラムスというから,こちらも負けず劣らず,「じらし作戦」での成功者だ。『未知との遭遇』(77)『E.T.』の監督と『クローバーフィールド…』の製作者のタッグなら最強だと思ったが,本作での役割は逆で,スピルバーグが製作,J・J・エイブラムスが脚本・監督だった。『M:i:III』(06年7月号)『スター・トレック』(09年6月号)のメガホンもとっているから,大作の監督経験も十分だ。いずれにせよ,どんな異星人や宇宙船を見せてくれてくれるかが楽しみだった。
 舞台は1979年の米国オハイオ州の田舎町で,自主映画作りを始めた少年少女たち6人が主人公である。「SUPER 8」は「エリア51」に関連した施設か作戦名かと思わせるが,これはコダック社の8mmフィルムの名称である。60年代から70年代のホームムービー全盛時代の主力製品で「スーパー8」と表記されていた。日本では,富士フィルムが対抗商品の「シングル8」で売り上げを伸ばしていたという記憶がある。映画用35mmフィルムは高価なので,インディペンデント系の作品には16mmフィルムも多用されていたが,少年少女たちには1979年でも自宅にあった8ミリカメラが精一杯だったというわけだ。ホームムービー市場は,1980年代に後半にVHS-Cや8ミリビデオに取って代わられ,フィルムは次第に姿を消す。
 8ミリ映画作りに没頭する少年たちが主人公という設定には,しかるべき由来がある。S・スピルバーグ自身が子供の頃から多数の8ミリ映画作品を生み出したことは有名だが,エイブラムスと『クローバーフィールド…』の監督のマット・リーヴスの2人も負けず劣らずの映画少年で,8ミリ映画の映画祭で名をはせていたという。そんな2人が,スピルバーグの古い8ミリ映画の編集作業を依頼されたのが,この業界に本格的に足を踏み入れるきっかけだったという。即ち,この映画に登場する少年たちは,彼らの昔の姿なのである(写真1)
 
   
 
写真1 自宅から持ち出した8ミリカメラでの撮影風景
 
   
  少年少女たちもほとんど新人ばかりで,その父親たちにも名のある俳優は登場しない。ただし,ヒロインの少女アリスを演じるエル・ファニングは,ハッとするような美少女(写真2)で,将来は悪女役が似合うだろうと思わせる存在感があった。ダコタ・ファニングの妹だというが,姉以上に大女優になる雰囲気を漂わせている。『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(2009年2月号)で,老人のブラッド・ピットの相手をしていた少女を演じていたらしいが,そうとは識別できなかった。現在13歳だが,この年齢の2, 3歳は大きく成長し,女らしくなる時期ではある。
   
 
写真2 存在感のある美少女。将来が楽しみ。
 
   
  ネタバレになるので詳しく書けないが,物語は『E.T.』に近い基調で進行し,『クローバーフィールド…』のタッチでモンスターを出し惜しみし,最後は『未知との遭遇』のフレーバーを振りかけてある,とだけ言っておこうか。CG/VFXの主担当はILMで,その実力がいかんなく発揮されているシーンも少なくないのに,当欄としては,そのスチル写真が一切公開されないのが残念だ。
 前半の見せ場は,貨物列車の衝突事故である。既にこの部分で,エイリアンの巨大なパワーが発揮されていることが分かるが,それにしてもこの脱線転覆の描写は凄まじい。勿論,CGパワーが炸裂して,列車が激しく宙に舞うが,ちょっとやり過ぎの感もある。事故後の現場を見せる巨大セットもVFXでしっかり補完されている。後半のエイリアンや宇宙船の画像を公開したくないのは理解できるが,せめてこの脱線転覆シーンくらい出し惜しみしなくてもいいじゃないかと思う(写真3)
   
 
写真3 提供された事故関連の画像は,後方の火炎が見えるこれだけ
 
   
  宇宙から到来したと思しき謎の物体(写真4)も,ほんの少しお披露目されるだけだ。この物体がもっと活躍した方が面白かったと思う。後半のクライマックス部分に至っては,提供されるのは空を見上げる写真ばかりだ(写真5)。勿論,入場料を払った観客にはしっかり見せてくれる訳だが,前半の激しさの割に,終盤は少し控えめで,最近の大作映画としては大人しい方だ。結末の出来は,B級SFの『ノウイング』(09年7月号)と似たようなレベルで,さほどの驚きも感動もない。
   
 
写真4 異星から到来したと思しき謎の物体
 
   
 
 
 
 
 
写真5 空に何があるのかと期待させる,思わせぶりなシーンばかり
(C) 2011 PARAMOUNT PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.
 
   
   少年少女たちの冒険物語としては,ちょっと『スタンド・バイ・ミー』(86)を彷彿とさせるものがある。後半の父と子の絆を描く部分は,ハリウッド映画の方程式通りで,相変わらずちょっとクサイが,お決まりだから仕方がない。まずは万人受けする無難な作りであり,熱烈映画ファンとしては物足りないが,年に数本しか映画を観ない観客には,これでいいだろう。
 この映画の満足度を高めているのは,エンドロールの左半分に流れる短編映画だ。劇中で彼らが作っていたゾンビ映画の完成形だが,これは楽しかった。ソンビ映画の創始者ロメロ監督の名前がオマージュとして登場するので,映画通にもウケていた。
 
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