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O plus E VFX映画時評 2023年4月号

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』

(ユニバーサル映画/東宝東和配給)




オフィシャルサイト[日本語][英語]
[4月28日よりTOHOシネマズ六本木他全国ロードショー予定]

(C)2023 Nintendo and Universal Studios


2023年4月5日 TOHOシネマズ六本木[完成披露試写会(東京)]

(注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)


さすが世界的人気キャラ, 圧倒的な集客力

 今更改めて紹介する必要がない人気キャラと仲間たちが登場するフルCGアニメ映画である。世界中で知らない人がいるのかと思うほどの知名度のはずだが,意外にも映画化は殆どされていなかった。この映画が今春公開されることを知ったのは,昨年の夏から秋にかかる頃だったが,当欄としてまず気になったのは,配給ルートと制作スタジオだった。キャラクタービジネスで競合するだろうから,まずディズニーやピクサーはないだろう。ゲーム機販売でライバル関係であるため,ソニー・ピクチャーズの可能性も低い。となると,残るはユニバーサルかワーナーだが,テーママークでの展開を考えると,配給ルートはユニバーサルに違いない。そう思ったのだが,少し調べてみれば,既にユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)内には,2021年春にアトラクション「スーパー・ニンテンドー・ワールド」がオープンしていた。それなら,映画化のパートナーもユニバーサルで当然だ。
 となると,次なる関心時はCG担当スタジオである。ユニバーサル傘下なら,「ミニオンズ」でブレイクしたイルミネーションと,『ボス・ベイビー』シリーズのドリームワークス・アニメーションの2つの可能性がある。後者の想定観客年齢層が少し上で,シニカルなタッチを得意としていることを考えれば,前者だろうと予想した。結果はまさにその通りで,イルミネーションが担当だった。ディズニーに対抗してCGアニメをヒットさせるには,マリオとイルミネーションは最強のコンビだと言える。今やCGアニメなどどこでも制作できるのに,なぜ担当スタジオを気にしたかと言えば,今後シリーズ化して成功させるには,想定観客層や映画としてのテイストが大きな役割を果たすからである。
 試写会に行って,少し驚いた。これまでのCGアニメの試写会とは熱気がまるで違う。メジャー系の試写は大阪で観ることが多いのだが,本作は日程が合わず,東京での完成披露試写会で観る機会を得た。大阪だと実写映画の人気シリーズに比べると,CGアニメの試写は観客がぐっと減るのに,本作はほぼ満席状態だった。東京と大阪の母集団の違いを考慮しても,この混雑度と上映前の熱気の違いは説明できない。昨年,同じTOHOシネマズ六本木で観た『ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ』(22年7・8月号)とも雲泥の差だ。しかも,若い年齢層だけでなく,熟年層の比率がかなり高い。皆さん,人生のどこかでこのゲームに接した想い出があるので,日頃試写会に足を運ばない管理職までもが,どんな映画になっているのか気になって,確認に来たのだと想像した。マリオの知名度は世界的だから,これはかなりのヒットになるなと予想できた。果たせるかな,既に4月5日に公開された米国ではメガヒットとなり,今年公開された映画の興収No.1となっている。世界興収が1000億円を突破するのもまもなくのようだ。
 良い機会だからと,元のゲームソフトのタイトル数を数えてみることにした。Wikipediaによると,1985年9月に任天堂ファミリーコンピュータ(ファミコン)用の「スーパーマリオブラザーズ」が発売されて以来,「スーパーマリオシリーズ」と呼ばれる新規商品だけで22タイトル,リメイク作品で11タイトルもある。ファミコンに始まり,スーパーファミコン,ゲームボーイ,NINTENDO64,DS,Wii等々,新たなゲーム機が出る度に,そのキラーソフトとして作られて来たから,この数になる訳だ。スピンオフ扱いの「マリオカートシリーズ」「マリオパーティシリーズ」「ペーパーマリオシリーズ」「マリオ&ルイージRPGシリーズ」等は別だというから,それを含めた作品数は,もう数える気がしない。筆者のように子供に買い与えて一緒に遊んだ世代から,幼児期に自ら体験した世代,大人になってからもプレイし続けた人種まで,人生の様々な局面で接した人が,今回の映画化を気にしたに違いない。そのすべての年齢層を満足させる映画となると,さぞかし企画が難しかっただろうと思われる。


過去の失敗がトラウマになったのか?

 映画化は過去に2度なされている。最初は1986年7月に松竹系で公開された『スーパーマリオブラザーズ ピーチ姫救出大作戦!』で,典型的な国産の2Dセル調アニメだ。そんなアニメがあったことは,かすかな記憶があるが,余り話題にならなかったようだ。2作目は1993年5月公開の『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』で,米国製の実写映画らしいが,今回調べるまでこの映画の存在を知らなかった。多少の古典的特撮は使われていたようだが,本格的CG利用の形跡はない。超大作だった『ジュラシック・パーク』(93)の公開がその翌月であったことを考えれば,まだCGで冒険する気になれなかったのも頷ける。興行成績は日米とも低調で,大コケの失敗作であったようだ。これに懲りてトラウマになったのか,それ以降30年間も映画化が実現しなかった訳である。
 1996年6月発売のNINTENDO64用の「スーパーマリオ64」でゲームソフト自体の3D-CG化はなされていた。各キャラの3Dデザインも完成していたはずだから,『トイ・ストーリー』(95)の成功を見て,フルCG映画の企画があっても良かった気がするが,噂すら聞かなかった。ビデオゲームでは飛ぶ鳥を落とす勢いであったFFシリーズのCG映画化作品『ファイナルファンタジー』(01年9月号)の興行的不成功も影響したのかも知れない。
 ゲームキャラとしてはライバルの「ソニック」は,既に「実写+CG」の『ソニック・ザ・ムービー』シリーズで劇場用映画の地歩を築いている。任天堂のゲームキャラの映画化は,同じく「実写+CG」の『名探偵ピカチュウ』(19年Web専用#2)が先に成功を収め,続編の製作も本格始動したようだ。そんな背景の中で,大本命のマリオシリーズの再映画化も機が熟してきたのだろう。ただし,マリオ,ルイージ,ピーチ姫は人間という設定であるから,人間の俳優に,CG製のドンキーコング,ヨッシー,クッパらが絡むというのは,いかにもバランスが悪い。それなら,鬼門であったフルCG映画に挑戦しようということになったのかと想像する。


物語は平凡だが, 大画面を意識して縦横に活躍

 ようやく本作の中身の解説に移ろう。監督はアーロン・ホーバスとマイケル・イェレニックで,脚本はマシュー・フォーゲルとなっているが,いずれも初めて聞く名前だ。監督の2人は,アニメーター出身の30代の若手で,子供の頃からマリオシリーズで遊んだ世代だそうだ。M・フォーゲルは『ミニオンズ フィーバー』(22年Web専用#4)の脚本家の1人だった。人選はイルミネーションの意向のようだが,本作の製作会社はイルミネーション+任天堂で,日米共同製作の扱いである。プロデューサーにはイルミネーションの創始者クリス・メレダンドリとマリオの生みの親・宮本茂氏の名前がある。通常のフルCG映画と比べても,本作はこの2人の意向が強く反映されているようだ。
 主役がイタリア人の双子の兄弟マリオとルイージであることは言うまでもないが,本作ではブルックリンに住む配管工のイタリア系米国人という設定である(写真1)。2人はマンホールの水漏れ修理のため地下で作業していたが,謎のパイプに吸い込まれる。マリオはピーチ姫が統治する「キノコ王国」に,ルイージはクッパ王が支配する悪の「ダークランド」へとワープし,2人は離れ離れになってしまう。悪役がクッパであることは定番だが,彼がピーチ姫との結婚を望み,拒否されればキノコ王国を破壊するという。マリオはジャングル王国のドンキーコングの協力を得て,ルイージを探し出して救出する冒険に乗り出すとともに,クッパの野望を阻止する重責も担うという物語となっている。


写真1 お馴染の配管工の兄弟。双子にしては,少しルックスを変え過ぎか?

 英語版の声の出演者に,マリオ役にクリス・プラット,ピーチ姫役にアニャ・テイラー=ジョイという人気俳優を配している。クッパにジャック・ブラック,ドンキーコングにセス・ローゲンという個性派俳優の起用も頷ける。唯一,ルイージ役のチャーリー・デイだけ馴染みがなかったが,助演級の俳優で,声の出演も多いようだ。この映画の完成披露試写は日本語吹替版での上映だったが,すべてプロの声優による吹替えで,人気俳優の起用はなかった。日本では,俳優の人気で集客する必要はないということだろう。
 これまでの「スーパーマリオシリーズ」の主要キャラがそっくり登場し,その役割も予想通りで,全くファンの期待を裏切らない。ハッピーエンドであることは言うまでもないが,元がアドベンチャーゲームらしい場面の移り変わりで,しっかりマリオたちの危機も,バトルやチェイスも組み込まれている。その半面,映画らしいスケールの大きさのスペクタルもなければ,サプライズもなかった。詳しくは後述するが,大作映画らしい面白さは感じなかった。
 以下,当欄の視点からの分析とコメントである。
 ■ まずは,「キノコ王国」の景観からだ。ゲームで見かけるほのぼのとした王国で,丘の上にピーチ姫の城がある。映画の大画面で見映えがするよう,しっかり高精細にモデリングし,レンダリングされている(写真2)。かなりキノコが多いという印象を受ける。各キャラクターは何の違和感もなく,ほぼ任天堂が発行する「キャラクター図鑑」通りである。27年前に3D-CG化が完了しているのだから当然で,『ATOM』(09年11月号)や『I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE』(15年12月号)のような3Dモデリングでの苦労や違和感はない。当初は双子のマリオとルイージは色の違いだけであったが,ある時点からルイージがやや面長で少し背が高いという設定になってしまい,今はそれで定着している。ピーチ姫やキノピオはほぼゲーム通りの印象だが(写真3),クッパやドンキーコングは皮膚表面の精細度が上がっている(写真4)


写真2 キノコ王国にはピーチ姫の城がある

写真3 城の中を歩くピーチ姫とキノピオ

写真4 お馴染みのクッパは,かなり描き込んだ迫力ある悪役

 ■ 静止画でじっくり見れば,マリオのデニムのつなぎや,ピーチ姫のレース地のブラウスはかなり手の込んだ高精細な描画だと気づく(写真5)。金属の光沢感,照明の使い方,火炎の描写は,元々イルミネーション・スタジオがもっとも得意とするところだ(写真6)。いずれも,映画ならこれくらいの豪華さは当然だと言える出来映えだ。欠点はないが,大きな驚きもない。


写真5 マリオのつなぎとピーチ姫のブラウスの高精細な描画に注目

写真6 光沢感や火炎の描写はイルミネーション社の得意技

 ■ マリオはワイド画面や3D空間を使って,縦横に動きまわる。さすが劇場用映画と思えるレベルだ。この試写会は2D上映だったが,立体視を想定して作られていると感じるシーンが数多く見られた(写真7)。3D上映版もしっかり用意されているので,できることならIMAX3Dの大きな画面で見ることを勧めておきたい。ゲーム機としては「ニンテンドー3DS」があるが,立体感,臨場感のレベルは圧倒的に違うはずだ。


写真7 3D効果の高いシーンが,続々と登場する

 ■ アクションやチェイスシーンもしっかり組み込まれていて,「マリオカート」ファンには嬉しいシーンも登場する(写真8)。それでも,アクションシーンには派手さはなく,大作映画としてはやや物足りなかった。ずばり言って,これは大人が楽しめる映画ではない。CGセットデザインも音楽も悪くなく,大きな欠点はないのに,面白く感じないのは,お子様映画風にまとめ過ぎたからだ。ストーリー性が希薄な上に,意外性が全くない。万事が優等生で,卒のないマリオ世界のイメージを壊さないようにとの配慮が強過ぎたからだと思う。冒険映画でありながら,映画としての冒険はしなかったと言えようか…。映画終了時に年配の観客から聞こえた声は,「まあ,頑張った甲斐はあったな」であった。マリオの奮戦ぶりのことで,この映画はまあこの程度のものでしょうとの意味である。子供に同伴する大人にも満足感を与えるには,もっと大作映画らしい豪華さ,過激さが欲しい。復活の第1作目はメガヒットとなったが,この内容を確認した大人は次作からは映画館に戻って来ないだろう。シリーズ化して成功させるには,映画ならでは新しいキャラクターを登場させ,ワクワクさせるストーリー展開が必要だと思う。そうなって欲しいゆえの苦言である。


写真8 「マリオカート」ファンが感激する豪華な走行シーン
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