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O plus E誌 2001年9月号掲載
 
 
star purasu
『ファイナルファンタジー』
(スクウェア・ピクチャーズ製作/ギャガ-ヒューマックス配給)
 
(c)2001 FFFP
       
  オフィシャルサイト[日本語][英語   (2001年7月26日 ギャガ試写室)  
         
     
  世界のCG関係者が注目した話題作  
   言うまでもなく,国内だけで2,060万本,全世界で3,100万本以上を売ったというゲーム王国日本が誇る代表的ゲームソフトの映画化作品である。『トゥームレイダー』が実写+VFXの普通の映画だったのに対して,こちらは全編106分,一切実写も手書きも無しのフルCG映像だ。世界初のフルCG長編アニメは『トイ・ストーリー』(95)だが,この映画は,登場人物も背景も実写さながらの写実性を追及した記念すべき最初の試みである。「CGアニメ」というより,「デジタル映画」といった方が相応しい。
 ゲーム製作会社の雄スクウェアは,この映画製作のため1995年にスクウェアUSAを設立,ハリウッドで通用する作品仕上げるため,1997年5月に日米間の中間,ハワイ・ホノルルにCGスタジオを開設した。そのCGアーティスト,CGプログラマのスカウトのために,西海岸のクリエータ達の収入相場が高騰したという。キャラクタの動きには,ディズニー+ピクサー組が伝統的なアニメ製作手法を守っているのに対して,ほぼ全面的にモーション・キャプチャーが採用された。ゲームソフトでは既に日常的になっていたが,これを映画レベルに引き上げるのだという。その目処が立ったゆえに,この映画製作が本格的に加速される,という噂話が約2年前に伝わってきていた。
 原作・監督・製作は,スクウェア社の副社長,スクウェアUSA社長で,RPGゲーム「ファイナルファンタジー」シリーズの生みの親である坂口博信氏。ゲーム・プロデュースをしながら,CGで映画を作ることを夢見てきた人物だ。製作スタッフには,同社メンバーとハリウッド第一線のスタッフ達の名前が並ぶ。特に,アニメーション・ディレクターやVFXスーパバイザには『タイタニック』『マトリックス』『フィフス・エレメント』の関係者を集めたようだ。総製作費は約200億円。まさに,日米合作,ゲーム界と映画界が4つに組んだ大プロジェクトだ。世界中のCG関係者,エンターテインメント業界の注目の的となっていた。
 デモ・リールを見ただけで,その画質へのこだわりと情熱がひしひしと伝わってきた。22カ国から集められたCG製作スタッフはピークで200名,延べ300数十名,使用したPCは約1,000台というのもうなずける。人物もさることながら,背景のリアルさも素晴らしい。実写テクスチャを利用しているとしても,このクオリティには驚く。なぜ,実写撮影にCGキャラクタ合成せずにここまでやるのかと,疑いたくなるくらいだ。
 無重力状態以外,足が地に付いている場面での人物の動きは,すべてモーション・キャプチャーだという。登場人物1人1人に,想定する背格好のキャプチャー用俳優がついている。CG関係者なら,ハワイ州が映画産業誘致のため建設した特大スタジオでの収録風景だけでも一見に値する。ゲームソフトのシリーズも連続性・共通点はないので,映画化といっても特に下敷きとすべき原作があるわけではない。それでもファンならば,「これは,FFの世界だ!」と分かるらしい。この映画の米国公開と同じ7月に,10作目のRPG「ファイナルファンタジーX」が発売された。子供たちがプレイしている画面を後ろで見てみると,なるほどイメージはよく似ていた。
 
     
  祈願,日本での大ヒット  
   そんな期待の中,米国での配給元はソニー傘下のコロンビア映画で,全米2,649館(2,933スクリーン)という大作扱いで7月11日一斉公開された。初日から数日間,ボックス・オフィス成績は1位だったものの,その後の興収はパッとせず低迷している。この夏の大作揃いの中では,残念ながら惨敗といっていい結果に終わった。脚本は『アポロ13』のアル・ライナー。舞台は2065年の地球で,隕石とともに飛来した地球外生命「ファントム」により各都市は破壊され,滅亡の危機に瀕している。武力で彼らと戦おうとするハイン将軍率いる政府軍に対して,女性科学者アキ・ロス(声は『ムーラン』のミン・ナ)は,恋人の兵士グレイ(同アレック・ボールドウィン)とともに奔走し,恩師シド博士(同ドナルド・サザーランド)の協力を得て,地球を救う方法を見つけ出す,という設定だ。他には,『アルマゲドン』のスティーブ・ブシェミ,『M:I-2』のビング・レイムスなども声の出演をしている。ストーリーも盛り上げ方もハリウッドの水準をクリアしている。米国の映画専門誌や観客の評価は低くない。7月号以来紹介してきた夏の大作群のどれにも負けていない。それでいて,この興行的不振はどう解釈したらよいのだろう?
 まず考えられるのは,実写に近いとはいえ,いやアニメ風でなく実写に近いゆえに,まだ完全ではない人物の表情や動きに親しみが持たれなかったのではないか。ハードなSFとゲーム素材という印象からも,一般映画ファンに食わず嫌いされたと思われる。この点では,ブランド力を誇るディズニー・アニメには到底敵わない。実際,シド博士は出来は素晴らしいし,主演のアキにも力が入っているが(写真1),他の登場人物はシーンによって出来不出来の差が目立った。筋肉モデルを採用していない顔面の動き表現は,表情の乏しさがやや気になった。この無表情は,ゲーマー達は慣れていても,一般映画観客にはまだ違和感があるだろう。むしろ,模型の実写と比べても全く遜色ない大道具,小道具の質感表現,荒地や爆発シーンの表現が遥かに素晴らしかった。
 
     
 
写真1 CGでここまで描けるようになったとは!主役の女性科学者アキ・ロスと恩師のシド博士.
(c)2001 FFFP
 
     
   もう1つ,カメラワーク,カット割り,セリフとのバランスにも,やや違和感を覚えた。これもゲーム流儀なのかも知れないが,通常の映画の作り方と少し違っていることは確かだ。ジョークや遊びがほとんどなく,真面目一辺倒の作りも,アメリカ人好みではなかったのだろうか。スピルバーグの野心作『A.I.』(7月号参照)もアメリカで不振なのに,日本では大ヒットした。この映画も,日本のゲーマー世代が熱狂的に受け入れるかも知れないし,そうあって欲しいものだ。
 個人的には,映画のストーリーよりも,複合現実感を思わせる映像表現(写真2),特殊メガネ越しに見える敵の姿などの描き方が興味深かった。
 
     
 
写真2 未来にはメガネをかけずに複合現実感を達成.
(c)2001 FFFP
 
     
   ともあれ,CG史に名を残す記念碑的な本作品の分析は,この紙幅ではとても語り尽くせない。5度目のSIGGRAPH参加報告と絡めて,次号の番外編で改めて論じてみたい。  
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