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O plus E誌 2016年1月号掲載
 
 
ブリッジ・オブ・スパイ』
(ドリームワークス映画& 20世紀フォックス映画 )
      (C) Twentieth Century Fox Film Corporation and DreamWorks II Distribution Co., LLC.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [1月8日よりTOHOシネマズ スカラ座他全国ロードショー公開予定]   2015年11月27日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  大事件の陰の虚々実々の物語を,巨匠が見事に描く  
  12月下旬発行の本号には,末尾に恒例の年間ベスト5を発表することになっているが,先月までは「今年は目立った作品がなく,甲乙つけ難いな」と感じていた。ところが最終月になって,嬉しくなるような2本が現れて,ワン・ツー・フィニッシュとなった。3D-CGの威力によるスペクタクル性を評価し,上記の『ザ・ウォーク』を第1位にしたが,物語構成がしっかりしていて,監督の演出や俳優の演技を楽しめるのは本作である。即ち,CG重視の当欄の基準でなく,純粋に映画としての完成度評価なら,本作の方が上ということになる。
 表題に「スパイ」が入っているが,ジェームズ・ボンドやイーサン・ハントが活躍するようなスパイ・アクション映画ではない。法廷劇,国際政治交渉劇が題材のサスペンスドラマだ。監督・製作は,R・ゼメキスの師匠的存在のスティーヴン・スピルバーグ。娯楽大作からシリアスな歴史ドラマまで,30年以上にわたりハリウッド映画界を牽引してきた巨匠が選んだテーマは,1960年前後の東西冷戦下スパイ交換交渉に関わった人物の物語である。監督賞でオスカー2度受賞の名監督が,弁護士役の主役に選んだのは,主演男優賞で2年連続オスカー受賞の名優トム・ハンクス。『ターミナル』(04年11月号) 以来の起用で,これが4度目のタッグだ。脚本には,『ファーゴ』(96)『ノーカントリー』(08年3月号)で2度アカデミー賞脚本賞を受賞しているコーエン兄弟が参加している。これで面白くない訳がない。
 本作も実話がベースとなっているが,物語は大きく前半と後半に分かれている。前半は1957年の出来事で,ニューヨーク在住の画家ルドルフ・アベル(マーク・ライランス)がソ連のスパイとしてFBIに逮捕される。米国政府から,その国選弁護人を依頼されたのがT・ハンクス演じるジェームズ・ドノヴァンだ。彼は「公平な裁判を受ける権利」を主張し,死刑が予想された被告に対して,「懲役30年」の判決を勝ち取る。この減刑判決が大きな意味をもち,後半の(題名通りの)橋の上でのスパイ交換劇に発展する。1960年にソ連国内上空をスパイ飛行し,撮影していた米国のU-2型偵察機がソ連の地対空ミサイルに撃墜される。機から脱出し,捕虜となった米軍パイロットと服役中のアベルとを交換する交渉に,特命を帯びたドノヴァン弁護士が東ベルリンへと向かう……。この交換交渉での虚々実々の駆け引きの描写が素晴らしい。T・ハンクスの骨太の演技,M・ライランスの繊細な演技も,見事に嚼み合っている(写真1)
 
 
 
 
 
写真1 名優2人のコンビネーションが抜群
 
 
  以下は,当欄の視点からのコメントである。
 ■ CG/VFXの出番はそう多くないのだが,大半は良質の市街地再現のインビジブル・ショットに使われていて,時代背景をリアルに感じさせるのに貢献している。1960年前後は半世紀強前で,当時の記憶があるスタッフも多い半面,その分観客の目も厳しいので,トータルな品質が要求される。まずは1957年のNYブルックリン。道路を往来するクルマ,衣装,室内の描写は一部の隙もないが,高架鉄道や電線がある市中風景も頻出するのは,VFX加工に自信があるからだろう。1960〜62年のベルリンの街の光景もしかりで,ポーランドのヴロツワフ市を利用し,VFX加工している。1961年の「ベルリンの壁」が出来る過程の描写は,特に興味深い(写真2)
 
 
 
 
 
写真2 ポーランドの古い町でベルリンの壁を再現
 
 
  ■ ロッキード製U-2機での偵察飛行,撃墜シーンは,CG/VFXの最大の見せ場だ(写真3)。空軍基地に保管されている同型機の実物を使っての撮影もなされたようだが,離陸や空中でのシーンは勿論CG描写だ。コクピット視点からの光景,墜落途中の描写は,CG/VFXならではの迫力だ。実は,この撃墜された偵察機そのものが,前年の1959年に初飛行時に日本の藤沢飛行場に不時着して大騒動を引き起こしている。当時小学生であった筆者もこの「黒いジェット機事件」を克明に覚えている。偵察活動そのものが極秘であったから,筆者と同年齢のスピルバーグ監督も,U-2機撃墜事件が米国民に与えた衝撃をはっきりと記憶しているに違いない。
 
 
 
 
 
写真3 ソ連領土内上空で迎撃されたU-2偵察機
 
 
  ■ 捕虜交換の場となるベルリン郊外のグリーニケ橋は現存する実在の橋で,当時は東西ベルリンの境界であったそうだ。現地ロケの上で,当時の様子を復元するためVFX加工されている(写真4)。橋の上の戦車は当然CG描写だろう。CG/VFXの主担当はDouble Negative,副担当はPixomondoだ。エンドロールに名前が出てくるCGアーティストの数はそう多くなかったが,欧州No. 1のDN社が担当して,質が悪いはずがない。
 
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写真4 東西ベルリンの境界のグリーニケ橋で人質交換
(C) Twentieth Century Fox Film Corporation and DreamWorks II Distribution Co., LLC. Not for sale or duplication.
 
 
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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