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O plus E誌 2020年3・4月号掲載
 
 
ドクター・ドリトル』
(ユニバーサル映画/東宝東和配給)
      (C) 2020 UNIVERSAL STUDIOS and
PERFECT UNIVERSE INVESTMENT INC.

 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [TOHOシネマズ日比谷他にて,近日公開予定]   2020年2月7日 東宝試写室(大阪)
       
   
 
ソニック・ザ・ムービー』

(パラマウント映画/東和ピクチャーズ配給)

      (C) 2020 Paramount Pictures and SEGA of America, Inc.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [TOHOシネマズ日比谷他にて,近日公開予定]   2020年2月13日 東宝試写室(大阪)  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  VFX業界の新盟主MPCが送り出す最新の2作品  
  こうして2本を括って紹介する場合は,同じジャンルのライバル作品であることが多いが,この2本はそうではない。強いていえば,共にファミリー映画とも言えるが,元は児童文学と人気ゲーム・キャラであり,想定観客年齢層も少しずれている。配給会社が東宝洋画系の姉妹会社で,共にウイルス騒動で公開延期になったのが共通点と言えるが,もっと大きな共通点がある。CG/VFX界で破竹の勢いのMPCが主担当の2作品であるということだ。ところが,そのVFXの使われ方がかなり違うので,むしろ並べて比べてみたくなった訳だ。
 MPCの正式名称はThe Moving Picture Company で,ILM (Industrial Light & Magic), DNEG (Double Negative)に続いて業界の盟主となり,略記した愛称で通じるようになった。ロンドンのSoho地区にあるスタジオで,DNEG,Framestoreと共に,国策のコンテンツ産業育成制度で実力をつけて来た。2004年にフランスのテクニカラー社の傘下に入って以来,担当作品も増えたが,この数年の勢いが凄まじい。2019年公開作品では,11作品中の8作で主担当(幹事会社)であり,しかも全VFXシーンの大半を1社で処理している。
 
 
  ドリトル先生と会話する剽軽な動物たちに注目  
  1本目の原作は,英国人作家ヒュー・ロフティングによる児童文学「ドリトル先生」シリーズで,20世紀前半に全12作と番外編2作が出版された。動物語を話せる博物学者・医学博士の英国人ジョン・ドリトル(発音は,ドゥリトルが近い)が主人公である。最初の映画化作品は,ミュージカル映画『ドリトル先生不思議な旅』(67)だった。主演は『マイ・フェア・レディ』(64)でヒギンズ教授を演じてオスカーを得たレックス・ハリソンだった。話題は呼んだものの,大味な作品で,興行的にも成功していない。技術的には,まだCGはなく,訓練された動物と俳優の多重光学合成,動く模型動物の特殊撮影等を駆使して,アカデミー賞視覚効果賞を受賞している(写真1)

 
 
 
 
 
写真1 レックス・ハリソン主演の1967年版のシーン
 
 
  2度目は人気スターのエディ・マーフィが主演の『ドクター・ドリトル』(98)『ドクター・ドリトル2』(01)で,当然,主人公が早口で動物と会話しまくるコメディだった。舞台は米国サンフランシスコになり,動物と会話できるという以外,原作とは全く関係ない物語だった。人間と動物のデジタル合成,動物の顔面だけCGで置き換えた「アニマル・トーク」は利用されていたが,大きな動物の全身をCGで描くレベルには達していなかった。
 そして,3度目の本作でドリトル先生を演じるのは,あの「アイアンマン」のロバート・ダウニー・Jr.だ。『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19年Web専用#2)でシリーズは完結し,スターク社長も落命したので,再登場はない。その後はどんな映画に出るのだろうと思っていたら,ファミリー映画の動物たちと戯れる名物医師役で戻って来た訳だ。この役柄は似合っている。
 舞台は英国に戻り,19世紀のヴィクトリア女王の時代である。ドリトル先生は女王から贈られた庭園で半隠遁生活をしていたが,女王が重い病に倒れたのは毒を盛られたためと見抜く。唯一の解毒剤を求めて,彼は,助手のスタビンス少年(ハリー・コレット)と動物たちを従えて,伝説の島へと冒険の旅に出る……(写真2)

 
 
 
 
 
写真2 冒険の航海では,海の生物たちの出迎えも
 
 
   監督・脚本は,『シリアナ』(06年2月号) のスティーヴン・ギャガン。キャストは,上記の2人以外では,敵の海賊ラソーリにアントニオ・バンデラス,ヴィクトリア女王にジェシー・バックリー,その侍女レディ・ローズにカーメル・ラニアード等が配されている。
 動物たちの声の配役の方が凄い。オウムのポリーはエマ・トンプソン,ゴリラのチーチーはラミ・マレック,アヒルのダブダブはオクタヴィア・スペンサー,犬のジップはトム・ホランド,キツネのチュチュはマリオン・コティヤール,トラのバリーはレイフ・ファインズ,シロクマのヨシはジョン・シナ…といった豪華ボイス・キャストだ。何という贅沢な使い方だ!
 MPCが担当するからには,これらの動物はすべてCGで描かれている(写真3)。とりわけ,ゴリラとシロクマの出来がいい(写真4)。どの動物も外観はリアルだが,剽軽な表情や動きをさせるので,言葉を話しても違和感はない(写真5)。その点は『ライオン・キング』(19年Web専用#4)とは全く違う。多数の蝶や鴨の群れも見事な表現力で描いていた。主担当MPCの他に,副担当はFramestore,応援部隊はGlassworks,Lola VFX,Luma Picturesで,プレビズがProof,Third Floor,Host VFXの3社体制だった。VFXスーパバイザで,伝説のジョン・ダイクキストラの名前があり,まだ現役なのかと少し驚いた。
 
 
 
 
 
写真3 本作でのオウムやキリンは勿論CG製(写真1と比較のこと)
 
 
 
 
 
写真4 ゴリラのチーチーとシロクマのヨシが秀逸
 
 
 
 
 
 
 
写真5 動物たちが戯れたり,くつろぐ姿での表情も豊かだ
(C) 2020 UNIVERSAL STUDIOS and PERFECT UNIVERSE INVESTMENT INC. All Rights Reserved.
 
 
  高速移動する人気ゲーム・キャラ登場のVFX映画  
   MPCが最初に視覚効果部門のオスカーを獲たのは『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(13年2月号)に対してであった。勿論,あの見事なCG製のトラが評価されたのだが,主担当はRhythm and Hues社であって,副担当の2番手に過ぎなかった。2度目の『ジャングル・ブック』(16年8月号)は堂々と主担当で多数の動物をリアルに描写し,自信をつけた。今では動物描写のエキスパートで,『キャッツ』(20年1・2月号)での人間っぽい猫たちや,『野性の呼び声』(同Web専用#1)の本物としか思えない犬たちなど,何でもこなせる実力だ。
 その意味では,2本目で描くのはゲーム・キャラの「ソニック」だけで,片手間仕事で済むくらいだ。異星からやって来た青いハリネズミで,宇宙最速で疾走することができるという設定だ。元は,任天堂のマリオに対抗して,ゲーム会社のセガがマスコットキャラとして生み出したもので,1990年代に大ヒットした。日本よりも海外で有名で「Sonic the Hedgehog」の名前は世界のゲーマーに知られている。もう過去のキャラかと思ったら,最近人気が復活し,新作ゲームが作られ,マリオと並んで東京五輪のポスターにも登場している(写真6)
 
 
 
 
 
写真6 任天堂のマリオ(左)と並んで東京五輪の広報にも登場
 
 
   コミックやアニメにもなっているが,初の実写映画化の本作では,ソニックだけがCGで表現され,人間の俳優たちと会話する。宇宙からやって来たソニックは,保安官トムとバディの関係になる。敵役は天才科学者のドクター・ロボトニックで,彼が繰り出す最新兵器と闘いながら,ソニックたちは彼の陰謀を阻止しようとする。
 監督は,無名のジェフ・ファウラー。VFX分野の出身で,これが長編での監督デビュー作のようだ。主役のトム役はイケメン俳優のジェームズ・マースデン。ラテン系の顔立ちで,マカロニ・ウェスタンのトップ・スター,ジュリアーノ・ジェンマに似ている。ドクター・ロボトニック役はジム・キャリーで,狂気の科学者にぴったりだ(写真7)。マスコミ試写会は日本語吹替版が多かったが,彼のマシンガン・トークが聴きたくて,字幕版を観に行った。
 
 
 
 
 
写真7 本作では敵役のジム・キャリー。いかにも狂気の天才科学者だ。
 
 
   トムとソニックの関係は,『テッド』(13年2月号)のジョンとテッドの関係に似ている。本作でのCG製のソニックは,やや人間的な体形にし,体毛を描くことになったが,その際にテッドを参考にしたそうだ。実を言うと,筆者は長い間,ソニックはハリネズミだと知らず,ずっと猫だと思っていた。本作での体毛のあるソニック(写真8)を観たら,やっぱり猫のように思えてきた(笑)。
 
 
 
 
 
写真8 体毛のある姿で見ても,やはりネコかと思ってしまう
 
 
   以下,当欄の視点でのCG/VFXの論評である。
 ■ 実写映画を強調しようとしてか,背景はCGで描けそうにない複雑な光景を選んでいる。CGもゴテゴテしていなくて,最近のVFX大作にしては比較的淡泊だ。物語のテンポも速すぎず,観ていて気持ちがいい。その分,ソニックの高速移動が,より速く感じられる(写真9)。万里の長城やエジプトのピラピッド前でも疾走している。
 
 
 
 
 
 
 
写真9 ソニックの超音速移動とそれが引き起こす
 
 
   ■ VFXシーンの大きな見どころは2回ある。1つは中盤のハイウェイ上でのバトルだ。ドクターが次々と繰り出す戦闘車輌(装甲車)がカッコいい(写真10)。CGも水準以上だが,デザインや動きも『トランスフォーマー』シリーズのように過激ではない。この場面で登場する,一輪車や虫のような小型飛翔体もユニークだ。
 
 
 
 
 
写真10 次々と登場する敵方の車輌兵器。カッコいい。
 
 
   ■ 他方はサンフランシスコのビルの屋上での攻防で,多数のドローン兵器やドクターが操縦する飛行艇と戦う(写真11)。ビルからの落下シーン(写真12)も勿論VFXの産物だが,ラストバトルが長過ぎないのも美点だ。
 
 
 
 
 
 
 
写真11 多数のドローン兵器とホバリングできる飛行艇
 
 
 
 
 
写真12 屋上から落下する2人をソニックの目で追う
(C) 2020 Paramount Pictures and SEGA of America, Inc. All rights reserved.
 
 
   ■ CG/VFXは,主担当のMPCの他には,Trixter, Marza Animation Planet, Shade VFX等が参加している。プレビズよりもポストビズ重視で,Blur StudioとMPCのロサンジェルス支社が担当している。
 
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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