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O plus E誌 2009年11月号掲載
 
 
 
ATOM』
(角川映画&角川エンタテインメント配給)
 
      (C) 2009 Imagi Crystal Limited
Original Manga (C) Tezuka Productions Co., Ltd
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [10月10日より新宿ピカデリーほか全国松竹・東急系にて公開中]   2009年10月2日 角川試写室(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  海外製のCGアニメ,でもこれは紛れもない鉄腕アトム  
   本号が出る頃には公開後2週間余経っているはずだが,やはり今月はこの作品から語ろう。早くから製作発表されていた「鉄腕アトム」のフルCG映画化作品である。製作は香港と米国に拠点をもつイマジ・スタジオで,海外製を強調するためか邦題はアルファベット表記されている。米国では従来と同じ『Astro Boy』の題で10月23日公開なので,まだ評判は聞こえて来ない。
 なかなか巧妙な広報作戦だった。かなり早い時期の街頭ポスターには,頭を垂れてぶら下がったアトムが描かれていて,人目を引いた(写真1)。やがて目を閉じた顔のアップ(表題欄)になり,それが公開直前に目をぱっちり開けたアトムになった。少し面長の顔はアトムというより,弟のコバルトのように見えた。実際の映画の中では,アトムらしい丸顔(写真2)がほとんどで,時折スリムなコバルト顔も登場する。そーか,手塚治虫の原画は2次元で好き勝手に描けても,3D-CGの幾何形状モデルにすると,角度によってはコバルト風に見えてしまうのだ。
 
   
 
写真1 まだ誕生前の鉄腕アトム
 
   
 
写真2 この顔はしっかり鉄腕アトム
 
   
   ちょっと筆者の鉄腕アトム体験を記しておこう。月刊誌「少年」(光文社)に1952年から連載されていたようだが,おそらく1954年か1955年頃から全作同時進行で読んでいた。週刊少年マガジンや少年サンデーが創刊される以前のことで,当時は月刊誌が主流だった。本誌の他にB6判の別冊付録が7, 8冊付いていて,全体で厚さ10cm近くにも及んだ。人気漫画は本誌と付録の両方に別作品が載り,「鉄腕アトム」は大抵第2付録だった(当時第1付録は「鉄人28号」,第3付録は「矢車剣之助」だったと記憶している)。バックナンバーや他の手塚作品は単行本化されたものを貸本で読んでいたし,1963年から放映のTVアニメも毎週欠かさず観ていた。その後,白土三平に浮気するが,手塚作品の90%は読んでいる。要するに,筋金入りの「鉄腕アトム」ファンだと言いたい訳である。
 古い知人に,この映画は原作のどこまでをカバーしているのかと尋ねられて答えに窮した。そういう映画化ではない。原作のスピリットを活かした全くのオリジナル脚本である。原作にはない未来都市メトロシティが空中に浮かんでいる。ロボットが全ての世話をしてくれる夢の国である半面,地上はスラム化している。メトロシティの科学省長官テンマ博士が,事故で死んだ息子トビーの身代わりとして,そっくりの高性能ロボットを作ったという前提は原作を踏襲している(写真3)。やがて,どこか息子と違うという理由で博士に捨てられた少年ロボットは居場所を求めて地上にやって来て,人間の少年たちからは「アトム」と呼ばれるようになる……(写真4)
 
   
 
写真3 テンマ(天馬)博士と息子のトビー(飛雄)
 
     
 
写真4 地上では人間の子供たちと友達に
 
 
 
   主要スタッフは米国勢で,作画には香港のスタッフも加わっている。声の出演者も,アトムにフレディ・ハイモア,テンマ博士にニコラス・ケイジ,お茶の水博士にビル・ナイ,さらにドナルド・サザーランド,サミュエル・L・ジャクソンといった豪華キャストを揃えている。公開直前のマスコミ用試写は日本語吹替版で,それぞれ上戸彩,役所広司,西村朋紘が演じていた。
 とかく根っからのファンはこの種のリメイクに低い評価を与えがちで,既に予告編段階でかなりクレームがついていた。そう思って観たのだが,年季も筋金も入ったファンの筆者にとって,この映画は大満足のフルCG作品であった。以下,その要点である。
 ■ キャラクターも背景の事物も柔らかいシンプルな曲面で描かれている(写真5)。美大の学生か専門学校生でもデザインできそうなレベルに思えるが,昔懐かしいアトムのレトロな世界を感じさせ,これも悪くないと感じた。単純な中にも光や火花の使い方が見事で,そこはプロならではの腕が見て取れた。  
 
   
 
写真5 柔らかいシンプルなタッチのモデリング
 
     
   ■ アトムが地上に降り立って以降,画調は一変する。そこはゴミの山。そのポリゴン数も圧倒的で,描写も綿密だ。最高水準ではないものの,最近のCGアニメ技法をマスター,標準レベルに達している。昔の「鉄腕アトム」にはなかった3D-CG世界を堪能できる。
 ■ アトムの設計図(写真6)を始めとして,最先端の科学技術を描く部分や未来型機器のデザインも悪くない(写真7)。空中戦やコロシアムでの他のロボットとの戦いもしっかり設計されていて楽しい。その半面,大きな旧型ロボットや悪役ロボットはいかにも手塚治虫の世界だ。アトムの赤い靴の部分がジェットとなって空を飛ぶ姿(写真8)は,改めて良いデザインだなと感じる。
 
   
 
写真6 これが鉄腕アトムの設計図
 
     
 
 
 
写真7 お茶の水博士が発明し(上),アトムの心臓に埋め込まれたブルーコア(下)
 
   
 
 
 
写真8 足がジェット噴射する姿は,改めて見ても素晴らしいデザイン
(C) 2009 Imagi Crystal Limited
Original Manga (C) Tezuka Productions Co., Ltd
 
   
   ■ 上戸彩のアトムの声がいい。往年の清水マリのイメージをそのまま残している。役所広司のテンマ博士が今イチだが,お茶の水博士も記憶にある声と違和感がない。この映画は日本語吹替版で観た方が良い。物語は,勧善懲悪に最近の環境問題を織り込んだ冒険譚だが,特筆すべきことはない。最後はアトムが市民に愛されるスーパーマン的存在になる。友情や父子愛を描く部分も少しクサイが,米国市場に向けたファミリー映画なら止むを得ないところだ。この映画が「鉄腕アトム」そのものだと感じるのは,手塚漫画が映画的手法,とりわけ洋画の骨格をもって描かれていたからだろうか。エンドロールで往年のTVアニメの主題歌が流れた時には,不覚にも涙しそうになった。普通の視点で観れば☆☆レベルの平均的なアニメだが,ファンにとっては紛うことなく最高点の☆☆☆だ。それでいいじゃないか。  
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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