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O plus E VFX映画時評 2023年1月号
 
 
ムーンフォール』
(ライオンズゲート/Amazon Prime Video配信 )
      (C)2022 UK MOONFALL LLP
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [2022年7月29日よりAmazon Prime Videoにて配信中]   2022年12月22日 Amazon Prime Videoを視聴
       
   
 
ペーパーガールズ』

(アマゾン・スタジオ)

      (C) Amazon Studio
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [2022年7月29日よりAmazon Prime Videoにて独占配信中]   2022年12月12日 シーズン1(全8話)視聴完了  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)  
   
  VFX閑散期に,やむなくネット配信作を比較点検
 
  かつてO plus E誌が月刊の頃も,1月号,2月号はVFX大作の閑散期だった。そうしたブロックバスター映画は12月中下旬に正月映画として公開され,ロングランとなるので,正月明けの新作は少なく,あっても全くジャンルが異なる地味な映画ばかりだ。興行的価値を考えると,大作は春休みかGWまで待機させたくなるのも理解できる。
 では,昨年末から年明けにかけてのヒット作は何だったかと思い出せば,邦画のアニメばかりで,洋画の大作は『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(22年Web専用#7)が孤軍奮闘していただけだ。これは米国でも同じで,同作の他は,フルCGアニメの『長ぐつをはいたネコと9つの命』(3月号で紹介予定)が健闘している程度で,他は11月からのロングランか,平凡な映画ばかりだ。興行的にも振るわない。コロナ禍で公開延期となっていた大作群はこの1.5年間で滞貨一掃され,もう残っていない。その一方で,コロナ禍で撮影が大幅に遅れたり,製作費の高騰で企画自体が没になった映画も多く,ハリウッドメジャーの各社とも手持ちのCG/VFX大作が余りないのである。
 そうは言っても,当欄としては,画像入りのメイン作品なしは淋しい。短評予定だった映画の中で,1月中の公開作品でVFX的に見どころのあるものはないかと探したのだが,該当するものは見つからなかった。そこで止むなく,筆者が昨年中に見終えていたネット配信作品の中から,紹介するに足るものを選び,1月号と2月号に分けて掲載することにした。いずれもAmazon Prime Videoで見られるSF映画である。
 本号で取り上げるのは,全く対照的な2作品である。高額の製作費を投じたCG/VFX満載の『ムーンフォール』は,米国では劇場公開されたが,興行的には大コケで,評論家や観客からも酷評されている。一方の『ペーパーガールズ』は当初から全8話のTVシリーズ扱いで,製作費もVFXの利用度も平均レベルだが,事前の期待通りの人気を博し,評論家筋の評価も高い。前者が,オリジナル脚本,宇宙もの,著名な俳優を起用しているのに対して,後者は米国製のコミックが原作で,無名の若手俳優が演じるタイムワープものという点でも対照的だ。『ムーンフォール』は日本でも興行的に成功しないと判断されたのか,本邦では劇場公開なしで,Amazon Prime Videoからネット配信されることになった。偶然なのか,ともに昨年7月29日から配信開始だったので,比べて論じてみたくなった次第である。
 
 
  相変わらずCGのレベルは高いが,酷評されるのも頷ける  
  監督は,当欄ではお馴染みのローランド・エメリッヒだ。パニック映画がお得意で,「破壊王」と呼ばれている。原題は『Moonfall』で,邦題は単にカタカナにしただけだ。中国での題名は『月球隕落』で,こちらの方が感じが出ている。本当に月が地球に落ちてきたら,大惨事どころでは済まず,地球自体が破滅してしまうことは確実だ。この種のパニック映画の大半は,主人公が決死の覚悟で奮闘し,間一髪で危機を回避するのが相場と決まっている。隕石や惑星の衝突ものでは,『ディープ・インパクト』(98)『アルマゲドン』(同)等がその類いだが,『グリーンランド 地球最後の2日間』(20)では大半の人類は見捨てられ,隕石も衝突している。それ以上の『メランコリア』(12年3月号)のような映画もあったので,油断は禁物である。
 過去のエメリッヒ作品を振り返っておこう。ドイツのシュトゥットガルト出身だが,1990年代にハリウッドに招かれ,『ユニバーサル・ソルジャー』(92)『スターゲイト』(94) で頭角を現わし,『インデペンデンス・デイ』(96)の大ヒットで不動の地位を築いた。『GODZILLA』(98)では,ゴジラを初めてCGで描いている。その後は,ゲイ解放運動を描いた『ストーンウォール』(15)を除いて,すべて当欄で紹介している。『パトリオット』(00年9月号)『デイ・アフター・トゥモロー』(04年7月号)『紀元前1万年』(08年5月号) 『2012』(09年12月号) 『もうひとりのシェイクスピア』(13年1月号)『ホワイトハウス・ダウン』(13年9月号)『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』(16年8月号)『ミッドウェイ』(20年7・8月号)であり,いずれもメイン欄で取り上げている。
 改めて紹介記事を見直すと,評点が甘い。満点をつけたことはないが,大半が☆☆+評価だ。当時としては先進的だったCG描写を高く評価していたためだろう。最も印象に残ったのは『デイ・アフター…』で,パニックものとしては上々の出来映えだった。竜巻や津波を描いたCGも見事で,緊迫感に溢れていた。その後も,CG/VFXはふんだんに使っているが,その量に反比例して,観客からの映画としての評価は下がっている。
 本作の主演は,ボンドガールのハル・ベリーと『死霊館』シリーズでお馴染みのパトリック・ウィルソン。同じチームで宇宙に行ったジョー・ファウラーとブライアン・ハーパーを演じている。ところが,2011年のミッションの失敗でブライアンはNASAを解雇され,一方のジョーは副部長に昇進している。10年後の2021年,巨大建築物研究者のK・C・ハウスマン(ジョン・ブラッドリー)が月の軌道に異常が生じていると警告するが,NASAはこれを無視する。典型的なパニック映画の冒頭パターンである。やがて,月が軌道を変えて地球に急接近し,潮位異常,地震,火山噴火を引き起こして,人類滅亡の危機が迫る…。
 様々な危機回避策は失敗し,最後の手段として,ジョー,ブライアン,KCの3人(写真1)が,退役したスペースシャトルで月へと向かい,黒い無数の群れと戦う。こうなることは想定の範囲内だった。少しネタバレになるが書いておかざるを得ないのは,危機の原因である。KCの予想通り,月の内部は空洞であり,中央は白色惑星が位置している巨大建造物であった。有機物を敵と見なす黒い物体は高度な知能をもつAIで,意図的に月の軌道を変え,地球に衝突させようとしていた。数あるパニック映画の中でも,ここまで荒唐無稽なアイディアは珍しい
 
 
 
 
 
写真1 結局は,この3人が月の内部へと向かう 
 
 
   以下,当欄の視点でのVFXの見どころと感想である。
 ■ 本作は酷評されていることを承知の上で観た。既にYouTubeには,VFXメジャー2社制作のメイキング映像「 Moonfall | VFX Breakdown | DNEG」と「Moonfall - VFX Breakdown by Pixomondo」がアップロードされていた。いずれも素晴らしい出来映えで,観賞意欲を掻き立てられた。映画本編を観始めても,なぜこの映画がそんなに低評価なのか,理解できなかった。ロケットの打ち上げや宇宙空間での作業(写真2)は見慣れているが,全く問題はない。地球を襲う大地震や大洪水,この監督の十八番の災害シーンはどれもA級であった(写真3)。月を建造物と見立てた描写はユニークで,これは一見に値する。上記のメイキング映像を観れば十分なのだが,折角だから,いくつか論評しておこう。
 
 
 
 
 
写真2 冒頭の宇宙空間での作業 
 
 
 
 
 
 
 
写真3 さすが,大災害シーンはお手のもの
  ■ 再度月に向かうにもその輸送手段がないというので,急遽利用されることになったのが,退役後にカリフォルニア科学センターに展示されていたスペースシャトル・エンデバー号だ。その輸送シーンも見ものの1つだった。いくら高額の製作費を使ったとはいえ,本物を借りての撮影ではなく,当然,CG製のシャトルと実写の市街地とのVFX合成である(写真4)。そして,打ち上げ台にも高波が迫る中,かろうじてエンデバー号が宇宙に向かうシーンは,かなり見応えがあった(写真5)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真4 上:撮影した実写シーン,中:CGのシャトルと建物を合成,下:完成映像
 
 
 
 
 
 

写真5 重力波が迫る中,かろうじてシャトル打上げに成功

 
 
   ■ 月が主役の映画だけあって,月表面の描写は精緻を極めていた(写真6)。地球では,月が接近して,徐々に大きく見えてくる。見慣れないので違和感はあるが,余り恐怖は感じない(写真7)。反乱を起こしたAIである黒い物体の群れは,CG描写には何の難しさもないが,不気味な存在としてはまずまずの出来映えだ(写真8)
 
 
 
 
 
 
 

写真6 シャトルから着陸船に乗り換え,月の内部へと向かう

 
 
 
 
 
 
 

写真7 月が地球に接近し,だんだん大きく見えてくる

 
 
 
 
 
写真8 反乱を起こしたAIが,黒い物体となって人間を襲う
 
 
   ■ 巨大建造物としての月の姿はユニークで,本作の最大のセールスポイントである(写真9)。空洞である月の内部の建造物も,複雑過ぎず,納得が行くレベルだった(写真10)。本作のCG/VFXの主担当はScanline VFXで,副担当はFramestore, 以下前述のDNEGとPixomondo,さらにLola VFX,Real By Fakeの順にクレジットされていた。プレビズは,専業のProof社が担当している。
 
 
 
 
 
 
 

写真9 上:古代人類が建造した月,下:元の軌道に戻って行く月の姿

 
 
 
 
 
写真10 空洞化した月の内部の建造物としての姿
(C)2022 UK MOONFALL LLP All Rights Reserved
 
 
  ■ こう書くとVFXの出来映えに感心しながら最後まで観終えたと思われるだろうが,物語の薄っぺらさは,前半から感じられていた。CG/VFXはA級でも,セリフや物語展開はB級で,深みがない。音楽も緊迫感を煽るだけで,チープで単調だった。ほんの少しシリアスにして,ヒューマンドラマとしての味付けを加えれば,もっと楽しめる映画になるのにと,惜しみながら観ていた。それも終盤近くまでであり,結末の安っぽさはC級で,笑えてしまった。そもそも物語の筋書きに無理がある。かつてない大仕掛けの危機を描こうとして,全くリアリティを感じない設定になってしまっている。CGで大災害は表現できても,余り恐怖心を感じないのはそのためだ。この監督は,どうしてここまでダメになってしまったのか,少し淋しい。映画としては高々☆評価なのだが,VFX各社の努力に敬意を表して,+をおまけしておこう。  
 
  女子中学生4人がタイムワープするSF青春物語  
  もう一方の『ペーパーガールズ』は,2015年から2019年にかけて発行された米国製の同名コミック雑誌が原作とのことだ。作者はBrian K. Vaughan,作画はCliff Chiangとなっている。全30話が単行本8巻として再出版されているが,勿論,日本人には馴染みはない。すぐにAmazon Prime VideoのTVシリーズとして映像化されたということは,結構若者に人気があったのだろう。シーズン1の8話は,各話38〜56分(平均45分)と比較的短めではあるが,毎週1話ずつの配信ではなく,一気に全8話が2022年7月29日から独占配信されている。筆者は二晩で観てしまった。
 舞台となるのは米国オハイオ州クリーブランドで,主人公は12歳の女子中学生4人である。1988年11月のハロウィーンの翌朝,まだ暗い内に彼女らが新聞配達しているところから物語は始まる。そーか,この時代,アメリカでは少年少女はこういうアルバイトをして小遣いを稼いでいたのかと妙に感心した。対象は閑静な住宅地であり,少女たち全員が生活困窮家庭とも思えないのにそうしていたのは,それが子供の躾けの1つだったのだろう。今から30年以上前とはいえ,日本では「新聞少年」は既に死語であり,中学生にそんなことをさせる親はいなかった。
 4人の内,中国系米国人の少女エリン(ライリー・ライ・ネレット)はこのバイトを始めたばかりで,慣れない手つきで新聞を配っていたが,同学年の3人の少女,ティファニー(カムリン・ジョーンズ),マック(ソフィア・ロジンスキーイ),KJ(フィナ・ストラッツァ)に要領を教えられ,すぐに仲良くなる。タイムワープものであることは予め知っていたが,少年少女の青春恋物語かと思ったら,まるで違っていた。4人は2つの対立する勢力の抗争に巻き込まれ,銃撃戦も経験する。時間旅行後は,未来の大人になった自分や家族に遭遇し,人生観が変わるような衝撃を受ける。時代的には1988年から2019年にワープし,一致団結して元の時代に戻ろうとしたが,今度は1999年に移動してしまう,という展開である。
 ドラマとしては,少女4人の描き分けが見事だった。中国系のエリンは父を亡くし,妹と2人で母親の面倒を見ていて,家庭は貧しい。将来は,政治家になることを夢見ている。黒人少女のティファニーは数学が得意で,MIT進学が希望だ。ボーイッシュでアイルランド系のマックは劣悪な家庭環境で育ち,半グレ状態だが,尊敬する兄の言うことは聞く。ユダヤ系のKJは裕福な家庭のお嬢様で,スポーツ選手を目指している。ところが,2019年の未来では,独身で妹とは疎遠であったり,大学を中退してDJになっていたり,兄は医師になっていたものの自分は16歳で死亡すると宣告されたり,映画監督をめざしているが自分が同性愛者であることに気付く,等々に遭遇して,それぞれショックを受ける。
 少女4人のルックス(写真11)は,原作コミック(写真12)をほぼそのまま踏襲しているが,実写の俳優の方が愛らしく,かつ個性的で,好いキャスティングと演出だと感じた。未来の自分との会話が秀逸で,脚本の良さも感じられた。時代ごとの家の中の様子,人間関係の描写もリアリティが高い。その一方で,不思議な虫の登場で傷が治ったり,巨大ロボットや空から翼竜が登場したり,という非日常体験も織り交ぜた青春SFアドベンチャーとなっている。CG/VFXの分量はさほど多くなく,レベルも高くないが,ざっと眺めておこう。
 
 
 
 
写真11 左からKJ,マック,エリン,ティファニー
 
 
 
 
 
写真12 原作コミックでの4人の少女
 
 
  ■ 空がピンク色(赤紫に近い)に染まると,不思議な超常現象が起こる。これは何度か登場するので,本シリーズのキーカラーのようなものだ(写真13)。空間が歪んだり,物が降ってきたりもするが,VFX的には取るにたらないレベルだ。2019年社会では,クルマのフロントガラスにHead Up Displayが備わっていたり,空をドローンが飛んでいたりと,それなりに未来らしい演出も見られるが,技術的には児戯に等しい。
 
 
 
 
 
 

写真13  本空がピンクに染まると,不思議な現象が起こる

 
 
  ■ 真っ当なCG/VFXシーンが登場するのが第4話の終盤で,建物の壁を破って巨大ロボットが登場する(写真14)。自律型ロボットではなく,中で大人のエリンが操縦している。第5話でこのロボットが敵方のロボットと戦って負けてしまう(写真15)。レベルはせいぜい戦闘ゲームレベルだが,第8話に登場する翼竜のテッサ(写真16)よりは,数段上である。第7話に登場する偵察機XR-11が,相対的には一番良くできていた(写真17)。4枚羽根,6本足の昆虫型のロボットだが,しっかりそれらしくデザインされている。
 
 
 
 
 
写真14 建物の壁を壊して登場する大型ロボット
 
 
 
 
 
写真15 ロボット同士のバトル。CGはまずまずの出来映え。
 
 
 
 
 
写真16 翼竜のテッサは,笑えてしまうほどプアなCG
 
 
 
 
 
 
 
写真17 偵察機XR-11は,本作でNo.1の完成度
 
 
   ■ この物語で対立関係にあるのは,時間旅行を禁止している組織「オールドウォッチ」とタイムトラベラー達を支援する「STFアンダーグラウンド」だ。少女たちは前者に狙われて,敵対していたが,やがて時間をきちんと管理しようとする彼らに身を委ね,元の1988年に戻ることを選択する。最終話では,少女らはオールドウォッチの大聖堂(写真18)に連れて来られ,そこに配備されているタイムカプセル(写真19)に2人ずつ乗って時空移動に向かおうとするが……。さあこれからというところでシーズン1は終了する。シーズン2は2023年6月配信開始だというので,誰もがそれを当てにしたはずだが,何とその予定がキャンセルされてしまった。即ち,シーズン1だけで打ち切りという訳だ。原作のエピソードが残っているのかは不明だが,製作サイドの気が変わって,シーズン2を再開して欲しいものだ。
 
 
 
 
 
写真18 オールドウォッチの無機質な大聖堂 
 
 
 
 
 
 
 
写真19 タイムカプセルが降りてきて,2人が乗り込む
(C) Amazon Studios
   ■ CG/VFX担当には,Ingenuity, Pixstone, Refuge, Storm, Zoic, Atmosphereの名前がクレジットされていた。いずれも聞いたことのない会社だ。少女4人だけでなく,それぞれの大人の役やその他の登場人物を演じた俳優も,誰一人知らなかった。おそらく,シーズン1全体の製作費は『ムーンフォール』の1/10程度で,CG/VFXでは1/20以下だと思われる。TVシリーズなら平均的なレベルだ。それでいて,続きが観たいと思わせるのだから,改めてVFXは飾りであり,映画は脚本だと感じてしまう。ただし,その飾りを少し豪華にしていたら,もっと魅了されたことだろう。
 
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  (O plus E誌掲載分に加筆し,画像も追加しています)  
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