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O plus E誌 2012年3月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『メランコリア』:どう紹介したら良いのか,ライター泣かせの映画だ。結婚披露宴を迎えてもどこか虚ろな表情の花嫁ジャスティン(キルスティン・ダンスト)と彼女を気遣う姉クレア(シャルロット・ゲンズブール)夫妻。彼らの家族関係,人間模様がテーマの映画かと思ったら,後半(第2部)は全く違っていた。巨大惑星メランコリアが地球に接近し,軌道が交錯する可能性があるという。惑星は学者の計算通りに衝突を回避して遠ざかって行くのか,それとも地球滅亡の危機なのか……。映画冒頭の奇妙な光景(昼間なのに2方向からの影がある)の謎は解けたが,結末を書いていいのか,まずいのか,うーむ弱った。CGで描かれたメランコリアも主人公の裸身も,幻想的で見ものだったとだけ書いておこう。
 ■『ピラミッド 5000年の嘘』:エジプトのピラミッドで現存する最大の「ギザのピラミッド」を徹底検証し,これまでの常識を覆す真実を明らかにする歴史ドキュメンタリー,という触れ込みだ。この大遺跡の建築術の素晴らしさを讃え,とても20年で建造できる規模でないことを指摘する下りは説得力がある。考古学者の他に,建築家,人類学・物理学・天文学・地理学の学者たちが次々と登場して,定説への賛否両論を展開する。多数の空撮映像が登場し,地球から宇宙規模での議論に及ぶに至っては,かなり眉唾ものになってくる。終盤はπ(円周率)や黄金比,オイラー数などを持ち出して,観客を煙に巻く。ここまで来ると,ドキュメンタリーというよりSF (Scientific Fiction)だ。映像としては迫力はあったが,TVの特番がせいぜいの代物だ。
 ■『おとなのけんか』:『戦場のピアニスト』(02)で復活したロマン・ポランスキー監督の前作『ゴーストライター』(10)は,ヒッチコックばりのサスペンス映画だった。一転,本作ではコメディに挑戦している。舞台はNYのマンションの一室,登場人物は2組の夫婦(ジョディ・フォスター&ジョン・C・ライリー,ケイト・ウィンスレット&クリストフ・ヴァルツ)だけ,物語は全編リアルタイム進行という設定から,元は舞台劇だとすぐ分かる。子供の喧嘩の後始末で集まった4人が,冷静で理性的な話し合いから,次第にエゴむき出しで激化し,口論バトルの修羅場と化す展開は,まさに抱腹絶倒だ。4人とも大熱演で,このノリはほぼ全編順撮りだろうと想像できる。たった79分の映画だが,満腹感一杯で倍近くに感じてしまう。日本語字幕の翻訳料は内容に関係なく,映画の尺だけで決まるというから,セリフだらけの本作の字幕担当者は,随分割が悪かった。
 ■『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』(評点なし):2009年に急逝した舞踊家・振付家のピナ・バウシュは,名前だけは知っていた。その輝かしい軌跡を記録したドキュメンタリーで,彼女自身も登場する「カフェ・ミュラー」を含む代表作4作品を収録した104分の映像である。監督はヴィム・ヴェンダース。ピナ・バウシュが振り付けたドイツのヴッパタール舞踊団によるコンテンポラリー・ダンスは,躍動感に溢れ,素晴らしかった。と言いたいところだが,実を言うとサッパリ分からなかった。感激,感動以前のレベルで,この種の前衛芸術は皆目理解できない。3D映像としての新境地だそうだが,試写は2D版だったので,それも味わえなかった。このアートが発するメッセージをきちんと受け止められる観客は,何人いるのだろうか? 理解できたふりをして高得点をつける愚は避けたいが,難解だという理由で低評価にするのも失礼だ。ここは例外的に「評点なし」とするしかなかった。
 ■『シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム』:名探偵シャーロック・ホームズと親友ジョン・ワトソン医師に,ロバート・ダウニーJr.とジュード・ロウを配したシリーズの第2弾である。前作は,「映画としては十分楽しめるが,従来とイメージが違い過ぎるホームズ像に馴染めない」と評したが,本作もシャーロッキアンの意向など何のその,新ホームズ&ワトソン像のままで突っ走る。監督は前作と同じガイ・リッチーだからそれも当然で,全編で銃声や爆発音が鳴り響く。ハンス・ジマーの音楽もことさら騒々しい。前作での予告通り,宿敵モリアーティ教授(ジャレッド・ハリス)が敵役と登場するが,フランス,ドイツ,スイスを舞台に目まぐるしく展開する活劇に,やっぱりこれをホームズ譚と呼んで欲しくない思いが再燃した。ただし,19世紀末のロンドンやパリの光景を描いたVFX は素晴らしい。
 ■『おかえり,はやぶさ』:3社競作となった小惑星探査機「はやぶさ」ものの最後は,松竹配給の本作で,トリに相応しく3D映画としての登場だ。これだけ波乱万丈の実話がありながら,前2作の脚本が今イチだったので,ジャンケン後出しの本作には大いに期待したのだが,見事に裏切られた。全くのお子様映画で,これじゃJAXAのPVと大差ない。いや,学芸会並みの物語がついているだけ興が殺がれ,科学技術映像としては,NHKの特番の方がよほど良くできていた。「はやぶさ」のCG映像も幼稚そのもので,上述のPVと大差ない(同じCGスタジオが制作したのだろうか?)。改めて,先月の東映版のCG/VFXが遥かに上質であったことを再認識した。この試写は2D版だったので,後日3D版を観るつもりだったが,もはやその気になれなかった。
 ■『SHAME -シェイム-』:セックス中毒だが,真の恋愛ができない兄(マイケル・ファスベンダー)と,そこに転がり込んできた恋愛依存症の妹(キャリー・マリガン)の複雑な関係という設定だが,登場人物には全く感情移入できなかった。衝撃的なはずのセックス・シーンは,食傷気味になり,醜悪としか感じなくなる。なるほど2人とも難しい役柄で,多数の映画祭で主演男優賞,助演女優賞の候補になっていることは理解できる。現代人の心の闇を描いたというが,NYに住むリッチなアメリカ人の贅沢病だ。世界には民族紛争,飢餓や貧困に苦しむ人々がいるというのに,こんな映画を作ることを楽しんでいる場合か,という想いが先に立ってしまった。
 ■『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』:撮影中までは,英国初の女性首相マーガレット・サッチャーの半生を,米国人のメリル・ストリープが演じることに反対意見も少なくなかったが,公開後は好意的な評価ばかりだ。政治家を志した若き日の姿,「鉄の女」として疲弊した英国を導く様,その裏での孤独な一面,引退後の地味な生活まで,まさに渾身の演技だ。改めて,女優としてのメリル・ストリープの偉大さを感じる。『クィーン』(06)でエリザベス女王を演じたヘレン・ミレンと好一対で,映画史に残るキャスティングとして語り継がれることだろう。日本ではあまり知られていなかった夫,デニス・サッチャーをジム・ブロードベントが演じるが,こちらもなかなかの好演だ。
   
   
   
   
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