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O plus E誌 2000年9月号掲載
 
 
star star purasu
『パトリオット』
(コロンビア映画/SPE配給)
 
       
      (8/7 SPE試写室)  
         
     
  『グラディエーター』+『ブレイブハート』  
   独立記念日休暇の週に『パーフェクト ストーム』と争って敗れたが,それでも興収1億ドルは突破し,ブロックバスター映画の仲間入りした夏の大作である。物価上昇のためもあるが,主演のメル・ギブソンが史上最高のギャラということでも話題になった。
 ラッセル・クロウの『グラディエーター』を「映画らしい映画,主役らしい主役」と評したが,この映画にもその形容がピッタリ当てはまる。大作らしい重厚さ,民衆の支持を得る主人公,不屈の精神,理想の父親像…。そんな点もそっくりだ。
 時代は1976年,アメリカ独立戦争の真っ只中。フレンチ・インディアン戦争の勇者,ベンジャミン・マーチン(メル・ギブソン)は農夫となり,妻を亡くした後,7人の子の良き父親として平和な日々を送っていた。やがて独立戦争が起こり,サウスカロライナの地にもその波が押し寄せる。志願して参戦した長男ガブリエルが捕らわれ,次男トマスが残虐なイギリス軍ダビントン大佐(ジェイソン・アイザックス)に殺される。その怒りと悲しみから,マーチンは民兵を率いて立ち上がる。というのが,ストーリーである。
 「スコットランド軍 vs. イングランド軍」「アメリカ軍 vs. イギリス軍」という構図の違いはあるが,民衆の支持を集める英雄メル・ギブソンの姿は『ブレイブハート』(95)にそっくりだ。まさにハマリ役である。広い草原での野戦シーンも,名作『ブレイブハート』を彷彿とさせる。
 脚本は『プライベート・ライアン』のロバート・ローダット。戦闘シーンとヒューマンドラマのバランス,盛り上げ場を心得ていて,実に上手い。編集は『7月4日に生まれて』のデビッド・ブレナー,衣装デザインは『タイタニック』のデボラ・スコット,音楽は『ジョーズ』『スター・ウォーズ』『E.T.』でお馴染みのジョン・ウィリアムズとオスカー・ウィナー揃いだ。200年前はもはや時代劇だから,当時を生き生きと再現するのには,こういうベテラン・スタッフの力は欠かせない。
 意外なのは監督ローランド・エメリッヒ,製作ディーン・デブリンのコンビだ。『インデペンデンス・デイ』『GODZILLA』等の大味なSF専門かと思ったら,こういう史劇大作も卒なくこなしている。ドイツからハリウッド入りして一線で活躍しているだけのことはある。
 問題は,彼らのセントロポリスFX社のVFXの出来栄えだ。全く情報がない段階で予想していた通り,戦争シーンでの兵士の水増し,時代を感じさせる建物の挿入と邪魔な背景の削除,遠景でのマット画合成等にディジタル処理を使っていた。SPE社のオフィシャル・サイト(http://www.spe.com/movie/thepatriot/)には,代表的な処理例もたくさん載っている。
 兵士は,実写画像をコピー&ペーストしているだけでなく,CGでも描いているようだ。写真1は映画前半のシーンだが,後半の合戦シーンはよくできていた。クライマックスのこの部分はしっかり時間をかけて作られたのだろう。
 その皺寄せが他のディジタル・マット合成に行ったようだ。これが何とも不出来である。実写同士の合成シーンはまだ許せるが,手書きのマット画がいかにも嘘っぽい(写真2)。絵そのものの質がよくないのだろう。加えて,画質・色調の調整も上手くない。つなぎ目部分だけの連続性は処理してあっても,それぞれの部分のコントラストやトーンが,何か今一つしっくり来ないのである。ランドサット画像で作ったモザイク日本列島を見ているかのようだった。VFX使い方も同じならば,違和感の方まで『グラディエーター』とそっくりだ。
 要するに,手間ヒマかけて画質を調整していないということだ。『ダイナソー』や『パーフェクト ストーム』の丁寧で高度な仕上げを見てしまうと,この欠点は目立ってしまう。このため,前半30分の映像は,何かバタバタした落着かない感じだった。この映画は全体に明るめだが,もっと全体を暗くして,合成のアラを目立たなくしても良かったかと思う。後半の締まり具合を見ると,撮影監督のせいではなく,後処理のVFXが悪さをしているとしか言いようがない。
 後半が素晴らしかったので,前半の欠点は許そうかと思ったら,エピローグのフランスからの援軍到来シーンで再び興醒めてしまった。監督がVFXスタジオを経営していると,使わなくてもいいところに拙い技術を使ってしまうのだろうか。映画そのものは力作だけに残念至極だ。
 
(a)合成前 (b)合成後
写真1 ディジタル・エキストラ兵士の合成
(a)合成前 (b)合成後
写真2 遠景はディジタル・マット画合成
情状酌量の余地なく有罪
いい映画ですね。
興行的には大嵐に負けたけれど,内容的には勝っているでしょう。独立戦争に勝つことは予め分かっているんですから,安心して見ていられます(笑)。
アメリカ人には受けますね。ただ,英国軍の極悪非道ぶりは,すごい描き方ですね。
ある程度実話らしいですよ。『U-571』に続いて,この映画もイギリスからクレームがついたそうです。
確かに,反英感情ばかり際立ってます(笑)。
冷戦終了後,ソ連が仮想敵国でなくなったから,こういうところに悪役を作ってしまうんでしょう。
独立戦争は歴史の時間に習いましたが,この時代のことはよく知りません。映画でもあまり見かけませんね。
18世紀後半というと,日本だと江戸時代中期の田沼時代から寛政の改革の頃です。私も,ジョージ・ワシントンかベンジャミン・フランクリンくらいしか名前を知りません。
南北戦争なら映画でもよく知っていますが…。
それは『風と共に去りぬ』の印象が強烈だからでしょう(笑)。
それより100年も昔ですが,感じは似てましたよ。アメリカ南部の農場とか,大きなお屋敷とか。
衣装は,ちゃんとスミソニアン博物館の時代考証を受けたようです。
イギリス軍の将軍や大佐には,しっかりしたイギリスの俳優を使っていますね。顔つきがイギリス人らしいので,すぐ分かります。
当時は,そこまでの違いがあったのですかねぇ。きっと英語の訛りも違うんでしょうが,我々には区別が付きませんね(笑)。
衣装も小道具も,お金をかけて丁寧に作ってありますね。
音楽も聴いてすぐ分かる巨匠ジョン・ウィリアムズ。撮影も決して悪くない。それだけに,視覚効果の欠点がマイナスです。
本当に,壁に掛けた絵って感じでした。
映像表現の自由度が上がったどころか,あれじゃワイドシーンを多用しない方がいいくらいです。
逆効果ですね。
これは我々だから気になるんで,普通の人には分かりませんかね?
分かりますよぉ,すぐに。
でも,宙吊りも二重露光も背面投影も,昔はもっともっとチャチでしたよ。
全体が嘘っぽかった時代は,映画とはそんなものだと思っていたんです。今みたいにあちこちリアルになると,一部の欠点がかえって目立ちます。
じゃあ,これは断固として減点しましょうか。『U-571』を目こぼししたので,辻褄が合わないかな?
いえいえ,あちらは少しで情状酌量の余地ありですが,こちらは多数のカットでアラが目立ちます。これは,許容範囲を超えた確信犯です(笑)。
では,改悛の情なしということで有罪。『グラディエーター』とのバランス上,同様に減点してstarstarpurasuとします。まるでオウム裁判だな,こりゃ(笑)。
それ以外は特に欠点のない映画ですね。まとまり過ぎていて,評しにくいくらいです。
かけた製作費に見合う品質だったからですよ。
見て損をしたという気にはなりませんね。その点『パーフェクト ストーム』とは好対称です(笑)。
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