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O plus E誌 2008年5月号掲載
 
 
purasu
『紀元前1万年
(ワーナー・ブラザース映画)
      (C) 2008 Warner Bros. Entertainment Inc.

 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [4月26日より丸の内ピカデリー1日ほか全国松竹・東急洋画系にて公開予定]   2008年3月18日 梅田ピカデリー[完成披露試写会(大阪)]
 
         
   
 
王妃の紋章』
(ワーナー・ブラザース映画)
      (C)Film Partner International Inc.

 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [4月12日より東劇ほか全国松竹・東急洋画系にて公開中]   2008年3月19日 御堂会館
 
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  意欲・意図は理解できるが,この時代は馴染めない
 
 

 スケールの大きい,ちょっと大仰な映画を2本紹介しよう。まずは『紀元前1万年』。タイムトラベルしたSFものではなく,まともに表題通りの時代を舞台にしたドラマを描いたというから,映画史上でも初の試みだろう。いや,旧石器時代の人間に加えて,マンモスやサーベルタイガーが出てくる映画なら,フルCGアニメの『アイス・エイジ』(02年7月号)が記憶に新しい。そちらの設定は倍の紀元前2万年であるが,何にしろ,こちらは実写映画だ。1万2千年後の地球上に,そう簡単に適したロケ場所がある訳がない。当然,劇中に様々な視覚効果が使われていることは間違いないだろう。
 監督・脚本は,『インデペンデンス・デイ』(96)『デイ・アフター・トゥモロー』(04年7月号)のローランド・エメリッヒ。B級パニック映画を撮らせても上手かったが,スケールの大きい絵空事でのCG使いの巧みさは指折りだ。なに,宇宙からの巨大な侵略者も大津波による洪水も,120世紀前も似たようなものだ。誰も見たことがないものを,それらしく見せればいいのだから。
 この映画の主役の1つは,圧倒的迫力で登場するマンモスだ。最新のCG技術をもってすれば不思議でも何でもないが,大群の動きも一頭々々の毛も,丁寧に作られていることは評価できる(写真1)。数百万年前から存在したマンモスが,その末期に人間とどのように共生していたかは定かではないが,壁画に残っている絵から判断して,まんざら嘘ではないのだろう。

     
 
 
 
 
 

写真1 本作品の主役の1つはこれ。CGでしかあり得ないのだが,一瞬生きているかのように感じる。

 
     
   物語は,邪悪な民族に奪われた愛する女性を救わんと,肉食動物と戦いながら旅を続ける若者の姿を描いている。いずれも無名の俳優だが,そりゃそうだ。こんな舞台に見慣れた俳優の顔が頻出したのではサマにならない。原始的な民族間対立の中でのアクション・アドベンチャーは,『アポカリプト』(07年6月号)によく似ている。約千年前のマヤ文明も1万年以上前の旧石器時代も,しっかり時代考証してリアリズムを追求しても,現代人には同じような印象に映るということだ。誰も見たこともない時代を描こうとした意欲は買うが,今一つ感情移入できないのは,この時代が馴染めないからだと思う。 
 となると,当欄として熟視すべきは,CG/VFXの出来映えだ。Double NegativeとMoving Picture Co.が主担当で,クリーチャーデザインはTatopoulos Studiosが請け負っている。であれば,クオリティが悪かろうはずがない。マンモスに負けず劣らず,サーベルタイガーも上出来だ(写真2)『ナルニア国物語』(06年3月号)のライオン,『ライラの冒険』(08年3月号)の白熊を観てきた目には単なる延長線上に思えるだろうが,それでも凄い。
 南アフリカとニュージーランドでのロケを行っているが,その背景に合成される古代都市の威容も特筆に値する(写真3)。ピラミッドや巨大宮殿はフルCGではなく,一部は精巧な模型のようだが,そこに合成されるマンモスや古代人の数が,これまた凄い。構図もカメラワークも秀逸だから,相当PreVizで試した結果なのだろう。    
 
   
 
写真2 CGで描いた毛の質感も一段とリアルに  
 
     
 
 
 
 
 

写真3 誰も見たことのない時代だが,このスケールの大きさ,迫力は,それらしく思ってしまう
(C) 2008 Warner Bros. Entertainment Inc.

 
   
  豪華絢爛・雄大さで脅すのも,ここまでくれば立派!
 
 

 もう1本の紹介は簡単に留めるが,こちらもラインナップ豊富なワーナー・ブラザース配給作品だ。『HERO』(03年9月号)『LOVERS』(04年9月号)でお馴染のチャン・イーモウ監督がメガホンをとる。彼は,北京オリンピックの開会式の演出を担当しているという(写真4)。この映画の豪華絢爛,雄大さを観れば,ただですら巨大ショー化する開会式の様子が容易に想像できる。といっても,この映画の初公開は2006年で,米国では昨年のアカデミー賞で「衣装デザイン賞」にノミネートされている。
 大作が苦手だったチャン・イーモウも,この映画に関しては,大作を大作らしく撮るコツを覚えてきたなと感じられる出来に仕上がっている。時代は唐王朝の全盛期,お馴染の権謀術策や裏切りが渦巻く宮廷絵巻である。物語は単純で,チャン・ツィイーの『女帝』(07年6月号)の同工異曲とも言えるが,この映画を引き締めているのは,美貌の王妃(コン・リー)と彼女の毒殺を企む王(チョウ・ユンファ)の二大スターの貫録だ(写真5)

   
 
写真4 さあ,この映画が済んだら,次はオリンピックだ!(右が監督)  
 
 

 
 
 

写真5 主演男優・女優の貫録で,映画がピリッと引き締まる

 
     
 

 とにかく豪華絢爛で,衣装も内装もギンギラギンである(写真6)。中国映画らしい国威を示すスケールで,大きいことはいいことだと押してくる。虚仮威しもここまでくれば立派で,映画らしい映画だと断言できる。
 エキストラも紫禁城をバックにした撮影も大規模だが,巧みに背景はデジタル合成しているなと感じるシーンも多々ある(写真7)。終盤の戦闘シーンでの多数の兵士は,いかにも群集シミュレーションソフトMassiveによる表現だと感じてしまう(写真8)。しかし,この壮大さは映画のバランス上,不可欠といえるだろう。
 それにしても,『女帝』といいこの映画といい,よくぞ権力者への謀反や謀殺を平気で描けるものだ。それが,中国のDNAなのだろう。現政府もいずれ転覆し,社会制度も一変する可能性が大である。中でやるのは勝手だが,いまや世界経済にも影響を及ぼすこと必至なのだから,いい迷惑だ。

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写真6 この絢爛豪華は一見の価値あり   写真7 背景が合成であるのは見え見え
 
     
 
 
 

写真8 クライマックスの多数の兵士は,当然Massiveの出番
(C)Film Partner International Inc.

 
     
     
  (画像は,O plus E誌掲載分から追加しています)  
   
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