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O plus E誌 2020年7・8月号掲載 |
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『ミッドウェイ』
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(ライオンズゲート/
キノフィルムズ配給) |
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Midway (C)2019 Midway Island Productions, LLC
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オフィシャルサイト[日本語][英語] |
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[9月11日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開予定] |
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2020年7月2日 キノフィルムズ試写室(東京)
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(注:本映画時評の評点は,上から,,,の順で,その中間にをつけています。) |
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歴史的な海戦を忠実に描いたスペクタクル大作 |
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| コロナ禍の影響で,前号のメイン欄は,ネット配信のTVシリーズ2本にならざるを得なかったが,ようやく本誌上で劇場用映画のVFX大作を紹介できるようになって嬉しい。少し先の公開作品だが,配給会社が早めの試写会を開催してくれたので,本号に間に合った。欧米では既に昨年11月に公開された話題作で,北米の興収成績は公開週にNo.1になっている。太平洋戦争の転換点となった「ミッドウェイ海戦」の模様を,CG/VFXを最大限に利用して描いたスペクタクル大作である。
監督は,『インデペンデンス・デイ』(96)とその続編『同:リサージェンス』(16年8月号)のローランド・エメリッヒ。この両作品の間にも,『デイ・アフター・トゥモロー』(04年7月号)『2012』(09年12月号) 『ホワイトハウス・ダウン』(13年9月号)等のパニック映画大作を生み出しているので,当欄ではお馴染み中のお馴染みの存在だ。徹底した娯楽映画路線で,映画賞にはほぼ無縁だが,CG/VFXへの造詣は深く,VFX史に残る作品を複数残していると言える。
本作はその路線とは異なる作品で,歴史ものとしては,アメリカ独立戦争のドラマを描いた『パトリオット』(00年9月号)以来となる。いや,史実に沿って忠実に歴史的出来事を映画化したのは,この監督初の試みだ。
「ミッドウェイ海戦」は,日本軍がハワイ・真珠湾奇襲攻撃に成功した約6ヶ月後の1942年6月上旬に,ハワイ諸島北西のミッドウェイ島周辺の海域で,日米の海軍が激突した戦闘である。実質3日間の戦いで,米軍の大勝利により,太平洋戦争の風向きが変わったとされている。我々日本人には,「ガダルカナル島の戦い」「マリアナ沖海戦」「レイテ沖海戦」「硫黄島の戦い」等の負け戦を耳にするが,いずれもこのミッドウェイ海戦より後の出来事だ。本作の中で,米軍幹部は日本軍が圧倒的有利と分析しているから,まさにここでの米軍の勝利は,戦争の帰趨を決める分水嶺だった訳である。当然,この戦闘での英雄たちは,米国内でよく知られた存在であり,過去に何度も映画化されている。
本作のトップにクレジットされているのは,爆撃機中隊長のディック・ベスト大尉を演じるエド・スクラインだ。ついで,情報主任参謀エドウィン・レイトン少佐役のパトリック・ウィルソン。俳優は知っていても,こんな軍人の名前は知らなかった。他に,ルーク・エヴァンス,アーロン・エッカート,デニス・クエイド,ウディ・ハレルソン等,主役級の俳優名が並ぶ。日本側では,山本五十六大将に豊川悦司,南雲忠一中将に國村隼,山口多聞少将に浅野忠信が配されている。日本人を卑しめない,公平かつ紳士的な描き方に好感が持てた。
こうしたオールスター・キャストを万遍なく描いたため,スターが明確でなく,ドラマ性にも欠けていた。物語の充実度では,クリント・イーストウッド監督の『硫黄島からの手紙』(06年12月号)に遠く及ばない。
以下は,本当の主役,CG/VFXの評価である。
■ まずは,映画の前半の真珠湾攻撃のシーケンスだ。一体,何分続いたのだろう? 日本軍の零戦隊が縦横に飛び交い,米軍基地や市街地を機銃掃射する(写真1)。奇襲であったので,米軍機と空中戦はなく,戦艦や空母を容赦なく爆撃して行く(写真2)。ここで特筆すべきは,現在の真珠湾をバックに,CG製の軍艦や噴煙を多重合成で詳細に描き加えていることだ(写真3)。戦艦オクラホマの沈没は,現存する写真をなぞって,噴煙や傾く船体を正確に描いている(写真4)。同テーマの『パール・ハーバー』(01年7月号)との差は歴然としている。
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写真1 日本軍戦闘機が米軍航空基地やホノルル市街を奇襲して,太平洋戦争が始まる
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写真2 この奇襲作戦で,零戦の戦闘能力の高さが証明された
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写真3 (上)現在の真珠湾を背景に,軍艦や基地の基本モデルを配置
(中)攻撃を受けた軍艦の炎の付加,基地内の精緻化等の中間状態
(下)噴煙や木を描き加えた完成映像 |
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写真4 (上)現存する真珠湾攻撃を受けた軍艦の写真
(中)上記を模して軍艦と噴煙をCGで表現
(下)完成映像 |
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| ■ 中盤は敵軍の情報分析や作戦会議の光景が続き,両軍の戦力が紹介され,後半は「ミッドウェイ海戦」の戦闘シーンの描写へと突入する。CG/VFX的には,まず空母エンタープライズの描写が見事だ(写真5)。母艦そのもののモデリングが精緻である上,数百名の乗組員や十数機の戦闘機を艦上に緻密に描いている。海の描写にも惚れ惚れする。当時はこれをCG映像が描けるのかと感心した『タイタニック』(98年2月号)の航行シーンなどは,今や児戯に等しい。艦上戦闘機は,空母や戦艦に比べれば簡単だが,現存する機を参考に,実寸大模型を2機製造し,その上でCGモデルを作成している。操縦席へのパイロットの描き込み,艦隊と違和感のない陰影表現もいい出来だ(写真6)。実写の海とCG製の空母の合成も難なくこなしている(写真7)。
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写真5 一段と進化した空母のCG表現。多数の乗組員や戦闘機を艦上に描き,海の描写も見事。
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| ■ SBD艦上戦闘機と零戦との空中戦,対空砲をくぐっての飛行,炎上しながらの降下にも,物理計算を導入して動きを計算しているらしい(写真8)。そして,クライマックスは日本軍空母への上空からの攻撃シーンだ(写真9)。『永遠の0』(14年1月号)の類似シーンもよく出来ていたが,見比べると本作のスペクタクル性が数段上だと感じる。本作のCG/VFX担当は,Scanline VFXとPixomondoだ。ILM,DNEG,MPCほどの大手ではないが,この上質のVFXを難なくこなしている。
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写真9 クライマックスはやはりこのアングルの攻撃。向かうは空母加賀。 Midway (C)2019 Midway Island Productions, LLC All Rights Reserved.
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(画像は,O plus E誌掲載分に追加しています) |
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