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O plus E 2022年Webページ専用記事#7

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』

(20世紀スタジオ/ウォルト・ディズニー・ジャパン配給)


オフィシャルサイト[日本語][英語]
[12月16日より全国ロードショー公開中]

(C) 2022 20th Century Studios


2022年12月15日 梅田ブルク7 [完成披露試写会(大阪)]
2022年12月17日 TOHOシネマズ二条 (IMAX3D)

(注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)


これぞ超大作, さすがJ・キャメロンと唸る圧倒的な映像の連続

 年末のこの一作のために,当欄は連載を続けてきたと言っていいだろう。何しろ,噂に違わぬ凄い映像だ。既に予告編で圧倒されていたが,本編は期待を裏切らない,圧倒的なクオリティの映像の連続だった。3時間12分の長尺だったが,その長さを感じさせず,まだまだ観ていたい気分だった。さすが,ジェームズ・キャメロン,超大作とは,こういう映画をいうのだという,お手本のような映画である。
 世界一斉公開の前夜にDolby Cinemaでの完成披露試写を観て,1日おいた公開日の翌日(12月17日)の昼間に映画館のIMAX 3D上映で再点検したのだが,本稿執筆に数日かかってしまった。メイキングに関する事前情報が全くなかったので,VFX解説が看板の当欄としては,その凄さを正しく語るのに,少し調査をし,幾分の準備が必要だったからである。
 前作『アバター』(10年2月号)は,3D時代の幕開けを飾るに相応しい大作で,自ら『タイタニック』(98年2月号)で打ち立てた映画興行収入世界歴代記録を破り,今も第1位の座を保っている(ただし,観客動員数では『タイタニック』の方が上だ)。J・キャメロン監督が長年温めてきた構想であったが,ようやくそれを実現するだけの技術が整ったとのことだった。同作により,何度目かの3Dブームが巻き起こり,(日本では,しぼんだが)米国では今もブロックバスター映画は3D上映が普通である。その正統な続編であり,本作を機に日本の各シネコンでも3D上映が復活しつつあるのは喜ばしい限りだ。
 その前作から本作まで,13年もかかっている。CGの本格利用で度肝を抜いた『ターミネーター2』(91)から上記『タイタニック』までは6年,そこから前作『アバター』までが12年だが,同じテーマの続編までの13年はさすがに間が空き過ぎだ(勿論,コロナ禍で制作が遅れたためだが)。ただし,続編は本作だけでなく,4作作るという。この後の『アバター3』(仮称)が2024年,『アバター4』『アバター5』はそれぞれ2026年,2028年の12月に公開予定となっている。当欄の執筆もいつまで続けられるか分からないが,この完成を見届けたいものだ。
 少し前作のおさらいをしておこう。既にオンラインゲームや,話題のメタバースの仮想空間の中では,プレイヤーの分身,化身を「アバター」と呼ぶことが浸透しつつある。「サロゲート」もほぼ同じ意味だ。前作の時代設定は西暦2154年だった。登場した「アバター」は,アルファ・ケンタウリ系惑星ポリフェマスの衛星パンドラに存在する貴重な地下資源アンオブタニウムを得るため,RDA社が開発した人工生命体であり,先住民族「ナヴィ」に似せた風貌と運動能力をもつ。地球人とパンドラ星のナヴィのDNAをかけ合わせてあり,地球人の操作者が神経を適合させ,化身の躯体を脳波で遠隔操作する。
 この操作者に選ばれたのは,元海兵隊員のジェイク・サリー伍長(サム・ワーシントン)で,任務遂行中に仲間とはぐれた彼は,ナヴィのオマティカヤ族の族長の娘・ネイティリ(ゾーイ・サルダナ)に助けられる。2人は恋に落ち,深く愛し合うようになる。先住民に同化したジェイクに業を煮やした傭兵部隊の隊長・クオリッチ大佐(スティーヴン・ラング)は総攻撃を仕掛けるが,激闘の末,ネイティリが放った矢が命中し,彼は絶命する。化身との神経接続を断たれていたジェイクは,エイワ(パンドラ星全体の神経線維ネットワーク総体で,女神的な存在)の力で,意識をアバターの肉体に移され,ナヴィとして生きることを決意する……。と,ここまでが前作だった。


舞台は森から海へ, 驚くほど見事な水中アクション

 監督,主要スタッフ,主要キャストは前作とほぼ同じだが,途中から登場する海洋部族メトカイナのナヴィ達は,新たな出演者が演じている。もっとも,素顔で登場するのは地球人だけで,ナヴィたちの演者はMoCapでの演技データがCG製の肉体に付与されるだけだ。
 本作は,大きく分けて3部構成となっている(筆者が便宜的に分けただけだが)。第1部は,オマティカヤ族の一員として尊敬を集める存在となったジェイクがネイティリと結ばれ,二男(ネテヤムとロアク)と一女(トゥク)をもうける。養女キリ,養子スパイダーも合わせた7人家族で幸せに暮していた(写真1)。一旦は地球に引き上げたはずの侵略者「スカイ・ピープル」が再びパンドラ星にやって来る。その1年後に戦いが再開するが,必死で戦ったナヴィたちは何とか窮地を脱する。驚くべきは,前作で死んだはずのクオリッチ大佐が,ナヴィの身体に彼の戦闘的な人格を埋め込んだ自律型アバターのリコンビナントとして復活し,全軍の陣頭指揮を執っていたことだ(写真2)。クオリッチの目的がサリー家に対する復讐であることを悟ったジェイクは,オマティカヤ族の地を去ることを決意する……。ここまでが,1時間弱だ。


写真1 ジェイクは末娘のトゥクに弓を教える
(このシーンは,前作のジェイクとネイティリを思い出す)

写真2 長身の自律型アバターとなった宿敵のクオリッチ

第2部では,サリー家が多数の部族の内,サンゴ礁の海辺に住むメトカイナ族の地を選び,族長のトノワリ(クリフ・カーティス)と妻でシャーマンのロナル(ケイト・ウィンスレット)に受け容れられる(写真3)。少し確執はあったが,与えられた住居(写真4)に住み,海で過ごす能力を備えていく過程の描写が楽しい。美しい海の光景が心を癒してくれる(写真5)。そして,サリー家を追ってきたクオリッチ大佐や侵略者たちとの全面戦争が第3部で,これにも1時間弱が費やされている。終盤の沈み行く船からの脱出の切迫感は,さすが『タイタニック』の監督ならではの演出だと感心した。


写真3 メトカイナ族の族長夫妻。タトゥーを入れているのが特徴。

写真4 メトカイナ族が住む標準的な住居。南国的で,いいデザインだ。

写真5 のどかな海辺の風景で心が癒されるのも束の間のこと

 以下,当欄の視点からの感想と評価である。
 ■ 全編でCG/VFXがフル活用されている。パンパな分量ではない。常にナヴィやアバターの誰かが登場している。それだけでCGと実写との合成が必要だし,あるいは背景も含めてフルCGのシーンかも知れない。地球人だけが登場するシーンが,かろうじて「VFX なし」のシーンとなる。全編192分の内,エンドロールを除くと約180分だが,「VFX なし」は高々90秒程度であった。即ち,約99%がVFXシーンということになる。実写ベースの映画で,この数字は新記録ではないかと思う。
 ■ 第1部は既視感に溢れていて,嬉しくなった。ハレルヤ・マウンテン(空に浮く山)を見ただけで,ああ『アバター』の世界に戻って来たなと感じる。マウンテン・バンシー(イクラン)に乗って空を駆け巡る姿には,ほれぼれする(写真6)。サリー家の子供達もこの飛翔を体得しているが,身体的にナヴィとなった敵のクオリッチ大佐も,早速にこのイクランの操縦法をマスターしている。前作時のCGモデルがあるので,パンドラ星特有の動植物の描写は難なく再現できただろうが,空中でのバトルは一段と進化していると感じた。


写真6 前作同様,イクランに乗っての飛翔シーンは雄大

 ■ 前半で戸惑ったのは,ほぼ全員がナヴィの姿形をしているので,誰が誰だか見分けがつかなかったことだ。父のジェイクなのか,2人の息子なのかは,簡単には見分けられない。中盤以降に登場するメトカイナ族も同様で,やはり個々を識別できない。一方,母のネイティリはしっかり識別できる。養女キリは魅力的な若い女性に描かれているが,すぐに植物学者グレイス・オーガスティン博士の娘で,博士を演じたシガニー・ウィーバーが娘も演じているのだと気付く(写真7)。ついでながら,母グレイスの顔立ちも現在のS・ウィーバーよりも若くて美しい。当人の顔の演技をCG製のナヴィの顔にマッピングしているのだから,実物より若いS・ウィーバーを描くのも容易いことだっただろう。後半になると,主要キャストの顔はしっかり識別できる。ナヴィの顔に慣れ,各俳優の目や口の動きにも慣れて,学習するのだろう。Facial Capture技術の進歩も,それを容易にしているのだと思われる。個々は僅かな違いながら,演じる俳優に似せた顔立ちを採用している。ただし,K・ウィンスレット演じるロナルは,S・ウィーバーのキリほど個性的ではなかった。映画中でネイティリの登場シーンをたっぷり観た後,実物のZ・サルダナが話す映像を見ると,これは紛うことなくネイティリだと感じてしまう(顔立ちはさほど似ていない)。


写真7 回想シーンで登場するオーガスティン博士(右)と娘のキリ(左)

 ■ 第2部で海のシーンとなると,何もかもが新しくなる。山間部のダイヤホースとイクランに相当するのは「イルー」と「スキムウィング」で,後者は羽を広げると飛び魚に似ている(写真8)。ナヴィもアバターもこれに乗って移動する。サイズ的にはイクランとほぼ同じだが,水陸両用のため,イクランの飛翔よりも数段難しいはずなのに,その動きの描写が素晴らしい。とりわけ,水面前後での動きや,着地・着水シーンの表現が見事だ。どうやって俳優の動きとCG製のスキ厶ウィングの合成を達成したのかと感嘆する。


写真8 ジェイクはすぐにスキムウィングの操縦をマスターする

 ■ 海の中のシーンが頗る美しい(写真9)。『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』(22年Web専用#7)の地下のシーンも美的であったが,水の動きがリアルで質感が高い分,本作の方が優れていると感じた。海の中の生物もユニークかつ魅力的だ。陸上では,羽が円板状の橙色の生物,白く小さな発光製の生物(名前は不明)(写真10)が魅力的だったが,海中では,クラゲやエイに似たオリジナル生物が登場する。キリが操るイソギンチャクの触手のような生物(こちらも名称不明)が最も印象的だった。


写真9 海の中が頗る美しい。3D上映で魅力は倍増。

写真10 海中で白く発光する小生物が美しい

 ■ もっと大きな海生生物では,サメに似た凶暴な「アクラ」と,クジラに近い大きさの「トゥルクン」が用意されていた。トゥルクンの中で「パヤカン」と名付けられた若い雄は,仲間外れにされ単独行動をとっていたが,サリー家の次男ロアクの命を救ったことから,心を通わせる関係となる(写真11)。この関係が,本作後半の大きな柱となっている。


写真11 孤独なパヤカンは,ロアクと心を通わせる関係となる

 ■ いかにメトカイナ族が海で生活する種族とはいえ,MoCapスタジオでの演技をマッピングしたCG製のナビィの挙動を,実物の海の中の映像と合成するのは並大抵のことではないと,不思議に思った。実際には,海中の撮影は外洋ではなく,長さ36.5m,幅18.3m,深さ9mの巨大タンクを作り,その水中でパフォーマンス・キャプチャを実行したそうだ。即ち,通常のMoCapスタジオではなく,俳優は水中用の特殊スーツ(クラブスーツと言うらしい)を着用し,すべてタンクの水の中で演技をしている(写真12)『タイタニック』で実物大のタイタニック号の外観を作らせたJ・キャメロン監督であるから,これくらいは当然の準備だったのだろう。水中での演技はスタントマンでも良かったはずだが,S・ウィーバーやK・ウィンスレット級の大女優までが,クラブスーツを着て水中で演技したようだ(写真13)


写真12 特設タンクの水中で,特殊スーツを着けて演技する

写真13 大女優2人も水中で演技する
(左:K・ウィンスレット,右:S・ウィーバー)

 ■ スカイ・ピープルの武器,戦闘車両,基地内の設備もしっかりCGで描かれている。再度パンドラ星にやって来た細長い棒状の宇宙船のデザインは印象的だった。頭部のない戦闘ロボット(写真14)や,カニかクモを模したロボットも登場する。前作で使われた二重ローター式の戦闘ヘリSA-2 サムソンやAT-99 スコーピオン・ガンシップも再登場して,個性的なデザインを再度楽しめる。この続編で最も大きな役割を果たすのは,全長122mの水上艇「シー・ドラゴン」だ(写真15)。少し浮揚して空中を飛ぶこともできる。複数の小型船や多数の魚雷を搭載していて,メトカイナ族は「悪魔の船」と呼んでいた。


写真14 頭部がない戦闘ロボットも登場する

写真15 スカイ・ピープルの旗艦のシー・ドラゴン
(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved

 ■ これだけのCG/VFXを駆使しながら,主担当のWeta FX,副担当のILMの他には,Legacy Effectsが少し分担しているだけだ。前作で多数社が参加していたのに比べると,本作は参加社は少なく,1社での参加人数がかなり多い。徹底したプレビズと効率的なVFX進捗管理を行ったようだ。タンク内のMoCap演技を実時間でバーチャルスタジオ内に送り,J・キャメロン監督が合成画面を確認しながら,ライブ編集したとのことである。これだけでも,前作を超える映画作りの新技術が導入されていることが分かるだろう。既に『アバター3』の水中演技は録り終えているそうだ。


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