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O plus E誌 2014年6月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『ラスト・ベガス』:大物ロートル俳優の豪華共演が,最近の流行のようだ。マイケル・ダグラス,ロバート・デ・ニーロ,モーガン・フリーマン,ケヴィン・クラインのオスカー俳優4人が,悪ガキ時代からの親友役だ。内1人が70歳にして若い女性と結婚することになり,独身最後のバチェラー・パーティでラスベガスに繰り出し,バカ騒ぎをするというもの。誰もが,『ハングオーバー』シリーズのジジイ版なのかと思うだろう。やはり妙に分別臭く,本家よりもハチャメチャ度が足りないなと思ったが,次第に大人の俳優ならではのコメディの味が滲み出てくる。後半,美人歌手を巡ってのM・ダグラスとR・デ・ニーロの恋のかけ引きと友情物語が中心となるが,安心して観ていられるのは,ベテランのベテランたる所以か。70歳の役(実年齢は69歳)でもM・ダグラスのモテ男ぶりが羨ましく,熟年男性の願望を描いているなと感じた。
 『マンデラ 自由への長い道』:人種隔離政策アパルトヘイトと闘った元南アフリカ大統領,ノーベル平和賞受賞者ネルソン・マンデラの自伝に基づく映画化作品である。『インビクタス/負けざる者たち』(10年2月号) の前半でもマンデラ氏の人間性に触れる描写はあったが,本作はもっと本格的な伝記映画だ。27年間の収監生活から釈放され,マスコミに登場した時の彼の風貌は,まるで農家の好々爺だった。解放運動のリーダーというから労働者階級の出かと思いきや,何と実は王族の出身で,多数の大学に学び,弁護士経験をもつ知識階級だったと知って驚いた記憶がある。本作では,若き日の理想に燃える情熱家振り,浮気や離婚も経験した人間味溢れる姿も描かれている。英国人俳優イドリス・エルバの容貌では,およそマンデラのイメージに合わなかったが,髪が白くなってからは,メイクの力も借りて,一応それらしく見える。むしろ印象的だったのは,ウィニー夫人を演じたナオミ・ハリスで,凛とした女性活動家ぶりが光っていた。
 『オー!ファーザー』: 吉本興業製作,ワーナー配給作品には,余り良い印象がないのだが,監督が吉本芸人ではなかったので,観る気になった。原作が,人気作家・伊坂幸太郎の新聞連載小説というのも食指を動かした。監督・脚本は,まだ20代の成長株,藤井道人。主演はイケメン男優の岡田将生で,これが井坂作品3作目の出演となる。表題はコーエン兄弟の『オー・ブラザー!』(00)を思い出すが,コミカルなタッチの演出もかなり意識していると感じる。母親1人,父親4人に育てられた高校生が,とある事件に巻き込まれ,監禁されるという設定だ。大学教員から元ホストまで,4人の父親のキャラ設定が,いかにも洋画風であり,邦画では少し無理がある。それでも,彼らが一致団結しての息子救出作戦は,サスペンス・コメディとして上々の出来映えだった。結構楽しめるが,やはりこの物語はハリウッド作品として製作した方が絶対に面白かったと思う。
 『MONSTERZ モンスターズ』:本作もワーナー配給の邦画だが,主演の藤原竜也が特殊能力を持つ悪役というので,少しワクワクした。同じパターンの『デスノート』(06)を彷彿とさせるからである。彼が超能力で操れない男を山田孝之が演じるが,これが2人の初共演である。ホラー・タッチのサスペンス作のメガホンを取るのは,Jホラーの旗手・中田秀夫監督というので,ますます楽しみになった。眼力だけで他人を操り,殺人まで実行させるパワーも,それが通じない男のもつ驚くべき治癒能力も,いかにもアメコミ・ヒーロー的な設定だが,本作はコミックの映画化ではなく,韓国映画『超能力者』(10)のリメイク作品である。設定も主演の2人も悪くないのに,一向に面白くない。演出は凡庸で,語り口もかったるい。超能力者だと分かっている容疑者に対して,何度もノコノコと挑む警察の阿呆ぶりにも呆れる。
 『美しい絵の崩壊』:マスコミ試写での観客の7割以上は女性だった。原作は,ノーベル賞作家ドリス・レッシングの「グランド・マザーズ」。監督は『ココ・アヴァン・シャネル』(09)などのアンヌ・フォンテーヌ,主演はナオミ・ワッツとロビン・ライトという中年女性のオンパレードだ。「私を愛したのは,親友の息子だった」のキャッチコピーは,二重の意味で登場する。即ち,幼い頃からの女性同士の親友が,共に結婚して息子を育て,互いの息子と恋愛関係に陥るという,不謹慎極まりない物語だ。背徳的で甘美な禁断の愛というが,これが中年女性の願望なのか。刺身のツマのように登場する男たちは,いい面の皮だ。オーストラリア東部の海辺の町が舞台だが,海も浜も美しい。原題『Two Mothers』をこの邦題にしたセンスは抜群だ。4人が描いた完璧で美しい絵が,次第にもろく崩れ去って行くという意味のようだが,ラストに近づくにつれ,むしろ『穢らわしい絵の修復』ではないかと感じた。
 『ニード・フォー・スピード』:危険なストリートレースを題材にしたカーアクション映画。チューンアップした伝説のスポーツカーの前にローアングルから撮った男女たちを配したポスターとくると,そのまんま『ワイルド・スピード』シリーズではないか。まさか同シリーズの次回作が,主演のポール・ウォーカーの事故死により延期になった間隙を突こうとした訳ではあるまいが,何から何までよく似ている。本作は同名の人気ビデオゲームの映画化という触れ込みだが,発売元のEA社が製作に関与しているだけであって,とりわけゲーム的な要素が多い訳ではない。主演男優も敵役も小粒で,あまり魅力がない。では,全く取り柄がないのかと言えば,肝心のカーアクション自体は大迫力で,原点たる公道レースの描き方も本家を凌ぐほどだ。CG/VFXは少なく,大半は実写でのバトルのようだ。セスナ機やヘリをカーレースに絡ませる演出も楽しめた。
 『ハミングバード』:主演は,当代きってのアクション・スターのジェイソン・ステイサム。元特殊部隊所属の戦士役とあって,反射神経は抜群,生身の格闘にはめっちゃ強い。では,いつものように全編アクションの連続で,何の屈託もない痛快映画かと言えば,本作はちょっと趣きが違う。戦場で犯した罪で心を病み,ロンドンの裏社会で生きる男という設定だ。スーツ姿もタキシード姿も似合うし,弱者を思いやる繊細さも持ち合わせている。この渋さはJ・ステイサムとしては新境地ではあるが,この役自体は,少しタフな二枚目男優なら誰が演じても様になると感じた。修道女役のヒロインは,ポーランド女優のアガタ・ブゼク。メガネを外し,赤いドレスで登場するシーンは,男性観客がハッと息を飲むべき場面なのだろうが,さほどでもなく,むしろ尼僧姿の方が似合う。映画自体は入場料分の価値はあり,観て損はないが,何事も中庸の面白さだ。
 『ポリス・ストーリー/レジェンド』:前作『ライジング・ドラゴン』(13年4月号)が「ジャッキー・チェン最後のアクション超大作」というので,メイン欄でカンフー映画史に残る功績を讃えて紹介したが,1年強で次なる作品がやって来た。それも,出世シリーズ『ポリス・ストーリー(警察故事)』の6作目だという。といっても,シリーズの続編ではなく,刑事役というだけであって,役名も異なる独立作品だった。「アクション引退宣言」したからには,アクションなしのシリアス系のドラマかと言えば,そうでもない。しっかり,屋上からの大ジャンプや強敵とのカンフー・バトルは織り込まれていた。ただし,遊び心満載のコミカル・カンフーのオンパレードではなく,温和な人柄の刑事役をじっくりと好演している。今年還暦を迎えただけあって,少し老けたなと感じたが,年相応の自然で上手な老け方だ。終盤,5年前の真実を明かすあたりからの盛り上げもうまい。本作も観て損はない。
 『ラストミッション』:色々な意味で上述の『ハミングバード』と好一対の映画である。STAP細胞騒ぎで名前が出て来たケヴィン・コスナー久々の主演作で,凄腕のCIAエージェントが凶悪なテロリストと闘う物語だ。原案・共同脚本はリュック・ベッソンで,パリが舞台で,思春期の娘に手を焼く設定とくれば,この役は『96時間』(08)のリーアム・ニーソンが主演でも良かったし,こちらがJ・ステイサム主演でもおかしくない。はたまたブルース・ウィリスでも,『渇き。』(次号で紹介)の役所広司でも似合っている。還暦が近いK・コスナーが余命僅かの宣告を受けた役とあれば,苦味走った渋い演技を期待するが,これがジョークたっぷりのノンストップ・アクションで,徹底したエンタメ作品だった。ハリウッド基準に合わせた親子愛でしんみりさせ,ホームレス家族との軽妙なやりとりを織り交ぜ,さすがサービス精神に富んだL・ベッソンだと得心した。
 
   
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