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O plus E 2018年Webページ専用記事#2
 
映画サウンドトラック盤ガイド
   
 

■「リメンバー・ミー オリジナル・サウンドトラック」
(WALT DISNEY RECORDS)

   
 
輸入盤 国内盤
 
 
  今年のアカデミー賞長編アニメ賞(Award for Best Animated Feature)受賞作のサントラ盤で,主題歌「Remember Me」も歌曲賞(Award for Best Original Songで,主題歌賞とも呼ばれる)を受賞している。本家ディズニー・アニメが主題歌賞を受賞することは多々あるが,ピクサー作品としても3度目の受賞だ。過去に『モンスターズ・インク』(01)『トイ・ストーリー3』(10)の主題歌が受賞しているが,本作が大本命視されての受賞であったのは,映画全体がピクサーには珍しいミュージカル仕立てで,音楽そのものが物語の根幹をなしていたからだろう。
 輸入盤と国内盤でかなり構成が違う。ベースとなるのは11曲構成で,5曲目の「Jálale」だけが器楽曲,他の10曲が歌曲で,その中で主題歌が歌い手を変えて4バージョン収録されている。まさに主題歌が繰り返し登場するミュージカル仕立てだ。輸入盤はこの11曲の後にMichael Giacchino作曲のオリジナルスコア(いわゆるBGM)27曲が続く38曲入りである。一方の国内盤は日本語吹替の声優による日本語版での11曲の後,英語・スペイン語での歌曲10曲が続く21曲入りとなっている。
 とにもかくにも主題歌「Remember Me」に尽きる1枚だ。『アナと雪の女王』(14年3月号)の主題歌で大ヒットした「Let It Go(ありのままで)」の作者クリステン・アンダーソン&ロバート・ロペスを起用したのは,最初からこの曲を同じようにヒットさせる意図だったのだろう。映画の原題『Coco』は,主人公ミゲルのひいばあちゃん(ママ・ココ)の名前だが,過去に『Remember Me』なる映画が複数あったからかと思われる。そんなことは気にせず,邦題を主題歌名に一致させたのは大正解だ。
 ミゲルとママ・ココのデュエット「Remember Me (Reunion)」は11曲中の9曲目に入っている。映画で思わず涙する場面だ。サントラ盤全体では英語&スペイン語版と日本語版の出来栄えはほぼ互角なのだが,この曲は日本語版の方が優れていると感じた。これは,ミゲル役に歌唱力抜群の13歳の少年・石橋陽彩君を起用したことが奏功している。ただし,エンドソング「Remember Me (Dúo)」は英語&スペイン語版の方が数段上だ。日本語版の「シシド・カフカ feat. 東京スカパラダイスオーケストラ」の歌も上々なのだが,オスカー受賞作の「Miguel feat. Natalia Lafourcade」の歌唱はさらに素晴らしい。何と,主人公と同名のR&B歌手Miguelが英語で,メキシコ人シンガーソングライターNatalia Lafourcadeがスペイン語でデュエットする構成の絶妙で,ラテン楽器の音色も心地よい。
 
   
 

■「シェイプ・オブ・ウォーター(オリジナル・サウンドトラック)」
(ユニバーサル ミュージック)

   
 
 
 
   こちらは,上記と同じ今年のアカデミー賞での作曲賞(Award for Original Music Score)受賞作である。主題歌でなく,映画全体の音楽に対して与えられる賞だと考えていい。受賞者は,フランス人作曲家のアレクサンドル・デスプラで,これが8回目のノミネートで,『グランド・ブダペスト・ホテル』(13)に続く2度目の受賞となる。本誌には同じ3・4月号に掲載した『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』の音楽も彼の担当だ。ハリウッド映画の音楽を担当するようになってから,急速にその名が知られるようになった。現在56歳でもこの業界ではまだ若手だが,ジョン・ウィリアムズ,ハンス・ジマーの後継者たる地位に就くと期待されている。昨年紹介したドキュメンタリー作品『すばらしき映画音楽たち』(17)でも,しっかり映画音楽の魅力について語っていた。
 昨年から今年にかけての映画賞選考では,『スリー・ビルボード』は強力なライバルであったが,ゴールデン・グローブ賞でも,作曲賞は本作が競り勝っている。筆者自身,『スリー・ビルボード』の音楽も相当気に入っていたのだが,本作を観た途端,音楽はこちらの方が上だと確信した。ある時は繊細に,ある時は大胆に,主人公の心の変化や胸の高まりを見事に表現している。
 サントラ盤の構成は輸入盤も国内盤も同じで,全26曲入りである。A・デスプラ作曲のオリジナル.スコア20曲の後に,劇中で少しだけ流れたグレン・ミラ—楽団の演奏曲,カテリーナ・バレンテやアンディ・ウィルアムズの歌唱曲等,懐かしの曲が挿入されている。
 CD1曲目の入っているテーマ曲も美しいが,聴きものは2曲目の「You'll Never Know」だ。1943年の映画主題歌をA・デスプラが編曲したもので,ソプラノ歌手ルネ・フレミングが歌うジャズ風の曲にアレンジしている。Bonus Trackとして,この曲の別テイクがCDの最後に収められている。
 
   
 

■「Maudie (Original Motion Picture Soundtrack)」
(Madison Gate Records)

   
 
 
 
   もう1枚是非紹介しておきたい。この原題だと分かりにくいが,先日Web専用記事の短評で取り上げた『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』(16)のサントラ盤である。国内版は発売されていないが,輸入盤を入手するか,iTunesやAmazonのデジタルミュージックで購入して聴くことができる。劇中で流れた歌入りの既発表曲が3曲,他20曲がオリジナルスコアの全23曲だ。
 音楽担当はMichael Timmins。カナダのカントリーバンド「Cowboy Junkies」のギタリストだそうだ。音楽だけのスコアは,アコースティック・ギター中心で,せいぜいピアノかバイオリンが入るだけのシンプルな演奏で,いずれも清涼感があり,実に心地よい。まさに主人公モード・ルイスが描いた素朴な絵に寄り添った音楽である。試写中に物語よりもこの音楽の方が気になって,絶対に当欄で紹介しようと決めていたくらいだ。どこかの評で「まるで1980年代のWindham Hill レーベルの音楽みたいだ」と書いてあったが, 筆者の想いも同じである。
 Michael Timminsが選んだ歌3曲もこの路線にぴったり一致している。8曲目はMary O'Haraが歌う「Dear Darling」で,14曲目の「Little Bird」はシンガーソングライターLisa Hanniganの曲である。そして,エンドロールに流れるのはCowboy Junkies自身の「Something More Besides You」で見事にこの映画を締めくくっている,一瞬,主演のサリー・ホーキンス(即ち,モード・ルイス)が歌っているのではないかと錯覚したほどだ。
 
   
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