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O plus E誌 2014年6月号掲載
 
 
グランド・ブダペスト・ホテル』
(20世紀フォックス映画 )
      (C) 2013 Twentieth Century Fox
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [6月6日よりTOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー公開予定]   2014年4月25日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  軽妙な音楽と映像美の中で,豪華出演陣も個性を発揮  
   今月のメイン欄は2本だけだが,本作も気合いを入れて解説したい意欲作だ。第64回ベルリン国際映画祭のオープニング作品にして,銀熊賞(審査員グランプリ)受賞作である。では,いかにも玄人受けする,通好みの映画かと言えば,まさにその通りだ。ただし,決して難解でも,製作者たちの自己満足でもなく,知的でありながら,誰もが楽しめるチャーミングな作品である。料理で言えば,決して重過ぎないフルコースであり,アペタイザーからデザートまで,ソースを楽しみ,皿を嘗め回したくなる逸品だ。
 監督・脚本・発案・製作は,ウェス・アンダーソン。そう,注目はしていたが,何年か前までは,あまり好きになれない監督であった。前作『ムーンライズ・キングダム』(13年2月号)の時にも書いたのだが,何が面白いのか全く解せない作品と,まあまあ許せる個性的作品が交互だったのだが,前作は筆者好みの佳作だった。一気に評価を変えたのだが,本作はそれ以上の大傑作であり,この監督のベスト1だと思う。今後も,この監督の作品を追いかけることになるだろう。
 舞台となるのは,欧州の東端の旧ズブロフカ共和国。温泉リゾートが有名で,欧州中の上流階級が静養に訪れた豪奢な「グランド・ブダペスト・ホテル」が19世紀末から存在した。同国出身の大作家が,1960年代に再三宿泊した際に聞いた1930年代の出来事が,伝聞の回想物語として語られる。こう書くと,いかにも実在した場所のようだが,国もホテルも架空の存在である。
 インディペンデント系作品であるのに,出演陣の豪華さに驚く。と言っても,何組ものカップルや家族が宿泊客として登場し,様々な人間模様が同時進行し,やがて交錯する「グランド・ホテル形式」の映画ではない。主人公は,ホテルの伝説的名コンシェルジュ(レイフ・ファインズ)と彼が目をかけて育てるベルボーイ(トニー・レヴォロリ)である。上客の貴婦人が殺され,その遺言を巡っての大騒動,殺人犯の嫌疑をかけられて刑務所生活,そして脱獄……と,例によって,物語は目まぐるしく展開する。その中に,エイドリアン・ブロディ,ウィレム・デフォー,ジェフ・ゴールドブラム,ビル・マーレイ,エドワード・ノートン,ティルダ・スウィントン,オーウェン・ウィルソンらのアンダーソン組が配され,さらにマチュー・アマルリック ,F・マーレイ・エイブラハム,ハーヴェイ・カイテル,トム・ウィルキンソン等の芸達者から,ジュード・ロウ,シアーシャ・ローナンといったスターまでが登場する。凄い。
 米国テキサス州出身の監督が,目一杯欧州テイストを利かせて撮った映画だ。その意味では,ウディ・アレンがパリやローマを描いた最近作とタッチが似ている。米国人の欧州に対する畏敬の念と憧憬が込められていて,その点で日本人の口にも合うと思う。
 軽妙で洒脱なコメディ・タッチは,ユニークな音楽が先導している。これまで聞いたことのない,実に印象的なサウンドであった。それに呼応する映像も個性的であり,しっかり随所にVFXシーンが配されていた。
 ■ まずは絵本のような山中の映像から始まり,これが時代を経たホテルの外観へと変化する。1930年代,60年代,現代の3つの時代を描き分けるのに,色合いだけでなく,映像のアスペクト比も,その時代を象徴する縦横比(各々1.33:1, 1.85:1, 2.35:1)を採用している。時代を行きつ戻りつする映画は少なくないが,その都度,アスペクト比まで変える作品は珍しい。
 ■ GBホテルの外観は,ミニチュアを2種類使って撮影され,それをVFXで補強している(写真1)。何となく暖かみがあり,すぐにCGではないと感じた。一方,ホテルの内部は,ドイツの古いデパートを使って撮影したとのことだ。山頂の展望台のシーンもミニチュア・ベースで撮影され,人物の実写映像との合成,マット・ペインティングやパーティクル処理も加えて,なかなか見応えのある映像に仕上がっている(写真2)(写真3)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真1 1930代(上と中)と1960年代(下)では,色も装飾も少し違う。各々ミニチュアを利用して撮影。
 
 
 
 
 
 
 
 
写真2 山頂の展望台もミニチュアで撮影(上)。VFXで加工した雪山シーンはこのアスペクト比で(下)。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真3 こちらはもう少しアップで撮影して,ゴンドラを合成
 
 
 
  ■ CG/VFXの主担当は,これまでにもアンダーソン作品を担当してきたLook Effects社。メジャー作品を担当する大スタジオのような制作費は与えられないが,低予算ながら,個性あるシーンを生み出している。チェイス・シーンに登場する雪山を滑降する橇,ボブスレー,ジャンプ台のVFX映像は実に楽しかった(写真4)
 
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写真4 雪山を滑降するチェイス・シーンはなかなか楽しい
(C) 2013 Twentieth Century Fox
 
 
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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