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O plus E 2018年Webページ専用記事#1
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   O plus E誌が隔月刊となったため,その間に公開される映画には,本誌掲載にはタイミングが合わず,紹介できないものも生じてきた。従来の(本誌非掲載)と記した作品は,締切に間に合わなかったものを拾っていた訳だが,これからは,むしろ次号を待てない作品を「Webページ専用記事」として積極的に掲載することになった。
 当「その他の作品の短評」のページは,不定期で随時追加掲載して行くので,時々点検してご覧頂きたい。

 『15時17分,パリ行き』:87歳にしてなお現役のクリント・イーストウッド監督の最新作だ。アムステルダム発パリ行の高速特急内の発砲事件で,果敢にテロリストに立ち向かった休暇中の米国人兵士たちの活躍を描いている。2015年8月に起こった実際のテロ事件が基で,『ハドソン川の奇跡』(16)と同路線である。終盤20分の緊迫感はさすがだが,全編はたったの94分。もう事件は終わるのかと,少し物足りなさを感じた。普通なら,もっと派手なアクションやロマンスを入れ,彼女が人質となる等,脚色するところだろう。事件解決後にオランド大統領から勲章を授与されるが,さすがに前大統領を出演させる訳はないから,これはそっくりさん俳優なのだろう。ここで,他の出演者には『ハドソン川…』と同様,実際の乗客達も出演させたのではないかと気付いた。さらに後で,主演の3人自身も本人だと知った。なるほど,それなら事件に忠実に,ほぼ実時間進行で描いてみせたのだろう。列車に乗る前の欧州旅行中のエピドードがいい。きっとこれも実話なのだと想像する。
 『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』:カナダ人の女流画家の伝記映画だ。日本での知名度は低いが,現地では作品が今も高額で落札されているらしい。主演は,『シェイプ・オブ・ウォーター』(17)で大ブレイクしたサリー・ホーキンス。『パディントン2』(18年2月号)も含め,最近何という売れっ子ぶりだ。脚が不自由で,魅力に乏しい独身女性の役がよく似合う。『シェイプ…』よりも,本作の方が好演だ。相手役はイーサン・ホークで,孤児院出身でひねくれた男を演じる。だいぶ太って貫録が出て来た。貧しい家,電気も水道もない…,まるでカナダ版『北の国から』だ。確かにここはカナダ北東部のノバスコシア地方で,素朴さも酷似している。ぎこちない夫婦愛の物語は好感が持てる。風景や動物を描いた素朴な絵だが,暖かく,明るい。エンドロールで多数の作品が流れる。S・ホーキンスは3ヶ月練習し,ガラス窓の絵は自分で書いたという。彼女の両親は絵本作家とイラストレーター。なんだ,それなら当然じゃないか。音楽も素朴で美しく,オリジナルスコアのギター演奏が絶品だ。
 『ハッピーエンド』:『白いリボン』(10年12月号)『愛,アムール』(13年3月号)の名匠ミヒャエル・ハネケの最新作だ。後者で親子を演じたジャン=ルイ・トランティニャンとイザベル・ユペールが,本作でも父と娘を演じるというので,同じタッチのヒューマンドラマを想像したが,全く違っていた。カンヌ国際映画祭のコンペ部門出品時には,上記2作で最高のパルムドールを連続受賞した監督ゆえに大いに注目されたが,作品の評価は賛否の両極に分かれたという。主人公は13歳の少女エヴ(ティーヌ・アルドゥアン)で,両親が離婚し,一緒に暮らしていた母親が入院したため,父親のトマらと一緒に暮らすことになる。豪邸で3世代同居のこの家族が曲者揃いだ。冷酷な描写,辛辣なセリフで人間の本性をえぐる演出で定評のある監督だが,本作はそれが凝縮された映画だった。もとより素直に表題通りに収まる訳はない,何らかの皮肉だと思ったが,ラストは残酷さと滑稽さが同居していた。「人々が不快に感じる映画を…」という監督の意図は達成されている。
 『バケツと僕!』:養護施設で働く新任教師と知的障害がある少年との交流を描くヒューマンドラマ。長年助監督であった石田和彦監督は,これが初監督作品である。素直なタッチで描いているが,驚きはなかった。前川清の長男でシンガーソングライターの紘毅の初主演作品である。彼には興味なかったが,共演の演歌歌手(NHKのど自慢のグランドチャンピオン)の徳永ゆうきが観たかった。山田洋次監督も起用しているように,将来好いバイプレーヤーになると期待しているからだ。ところが意外にも,好青年を演じる紘毅もなかなか良かった。シンガーソングライターとしては売れないだろうが,経験を積むうち,彼も好いバイプレーヤーになるのではと感じた。文化庁の補助金で製作された低予算の単館系作品であるが,映画人を育てるという意味では,一定の役割を果たしていると思えた映画だった。
 『坂道のアポロン』:女性コミックが原作の青春映画の大半はスキップするのだが,ジャズが主テーマで,1960年代を描いているというので,本作には食指が動いた。舞台は1966年の佐世保で,3人の男女の不器用な恋心の発露とジャズを通しての友情形成が描かれている。ピアノを奏でる主人公・西見薫を演じるのは「Hey! Say! JUMP」の知念侑李。原作のファンからはミスキャストだと不評だが,なかなかどうして,眼鏡顔の草食系男子役が頗る似合っていた。ドラム叩く荒々しいい高校生・千太郎役の中川大志との身長差が,漫画以上に漫画的なので,この2人に芽生える深い友情がより効果的に感じられた。劇中で使われるジャズの名曲は「Moanin'」と「My Favorite Things」に集中し,この2曲が繰り返し登場する。エンドソングは,意外にもジャズではなく,小田和正の新曲だった。さりとて,最近のJ-PopやJ-Rockでもない。オフコース全盛時から変わらない彼のハイトーンボイスは,10年後に再会した3人の少し遅い青春のイメージには合っていた。
 『去年の冬,きみと別れ』:邦画としては,かなり良質のクライム・ミステリーだ。原作は芥川賞作家・中村文則の傑作サスペンスで,監督は『犯人に告ぐ』(07)の瀧本智行。この監督の作品は一作毎に評価が大きく分かれるが,謎解きものの演出は上手い方だ。主演は「三代目J Soul Brothers」の岩田剛典で,恋人役は山本美月。助演陣は斎藤工,北村一輝らの個性派が起用されている。とりわけ,斎藤工は自らの監督作品『blank13』(18)よりも,本作の容疑者である天才写真家・木原坂雄大が全くのハマリ役だ。主演の岩田剛典は前作『植物図鑑 運命の恋,ひろいました』と同様,あまり個性のない単なるイケメン俳優だと思ったら,物語の進展に伴い,この没個性こそがトリックの一部であったと気付く。原作とは少し違った設定,謎解きだが,映画化での脚色物語の進展に伴い,この没個性こそがトリックの一部であったと気付く。原作とは少し違った設定,謎解きだが,映画化での脚色が見事だ。本作は,この脚本の見事さに尽きる。
 『ザ・キング』:最近めっきり公開本数が減った韓国映画だが,韓流にしては少し異色の意欲作だ。お得意のラブストーリーでも,戦争ものでもなく,表題から想像する王朝ものでもない。地方出身の貧しい少年が検事になり,中央地検のエリート部長を真似て,富と権力を求め,次第に悪に染まって行く過程を描いた社会派ドラマである。一介の検事が権力の中枢の上り詰めることなどできるのかと疑うが,前大統領を訴追したり,現職大統領を自殺に追い込むことなど平気な国民性だから,それも十分有り得る設定なのだろう。1980年頃からの30余年の韓国政治史をなぞり,現職大統領の映像が次々と登場する。全編を1人称で語る主演の検事役のチョ・インソン,共演の部長検事役のチョン・ウソンは共にイケメンで,スーツ姿がよく似合う。彼らが,女優を愛人にし,幼なじみの暴力団員を手駒のように使い,政治家を手玉に取ることも当然のように思えてくる。テンポのいい悪漢映画だが,なぜか所々にインド映画風の歌と踊りが登場するのがご愛嬌だ。
 
 
     
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