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O plus E誌 2004年9月号掲載
 
 
『LOVERS』
(ワーナー・ブラザース映画配給)
 
      (c)2004 Elite Group (2003) Enterprises Inc.  
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2004年7月22日 梅田ブルク7[完成披露試写会(大阪)]  
  [8月28日より丸の内ルーブルほか全国松竹・東急系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  2匹目のドジョウ狙いだが,こちらの方が口にあう  
   昨年の夏公開の『HERO』(03年9月号)は,『あの子を探して』『初恋の来た道』のチャン・イーモウ監督初の武侠大作,中国映画の大スターの競演ということで興行的には大成功を収めた。同じ監督・スタッフによる本作品は,明らかな2匹目のドジョウ狙いだ。チャン・イーモウ作品に3度目の登場となるチャン・ツィイー(章子怡)が,盲目の娘役で,前作以上のカンフー・アクションや華麗な舞を披露するという。それだけで観たくなる男性ファンも少なくないだろう。筆者などは,ストーリーも役柄もどうでもいいから,彼女が出ているだけで十分だ。
 カラフルなだけで,迫力も盛り上がりもイマイチだった『HERO』に比べて,シンプルで,中国映画ならではの見せ場あり,こちらの方がずっと良かった。お目当てのチャン・ツィイーの相手役には金城武。この美男・美女カップルは似合っている。激しく絡むのも許そう。恋敵役には香港映画のベテラン,アンディ・ラウ。表情もアクションも,存在感のあるいい役者だ。
 それにしても,日本では何でこのような横文字の奇妙な題にするのだろう? 中国語の原題は『十面埋伏』。いたる所に敵が潜んで狙っているという意味らしい。英題は,『House of Flying Daggers』。唐の時代に,時の朝廷に反旗を翻す逆賊一派「飛刀門」がこの映画の中心的役割を果たしているが,その直訳だ。これが一番いい。『HERO』の次には,ラブ・シーンのカットを前面に打ち出して『LOVERS』なんて,ちょっとアザトイ。というか,センスが悪い。日本の観客を小馬鹿にしたような題だ。配給会社はアクションを加味したラブ・ストーリーとして売りたいらしいが,実体はその逆だ。
 と言いながらも,様式美ばかりにこだわった『HERO』よりもずっと楽しめる。印象的な見せ場も多く,何よりもチャン・ツィイーの出番がふんだんにあるのがいいではないか。以下,ファンとしての視点,少し偏見も交えた見どころの紹介である。
 ■ チャン・ツィイーの役どころは,「飛刀門」の前頭領の娘で盲目の踊り子という設定だ。もともと舞踏学校出身で踊りも得意という経歴を活かした役柄にしたのだろう。前半の遊廓・牡丹坊での場面が圧巻だ(写真1)。長い桃色の袖をたなびかせて鼓を打つ舞いはワイヤーと視覚効果の併せ技だろうが,よくぞこんな演出を思いつくものだ。室内装飾も中国映画ならではの華麗さで,ワダエミがデザインした衣装ともマッチしている。
 ■ もちろん,屋内外を問わずカンフー・アクションのシーンもふんだんに登場する(写真2)。ただし,屋内装飾に力を入れている割に,屋外の荒野がワンパターンで工夫がない。ちょっと安っぽく,ここは製作費をケチったなと感じてしまう。ロード・ムービー仕立てでありながら,その点の面白さに欠けるのは少し残念だ。
   
写真1 チャン・ツィイーは舞いも名手。しびれる。
Elite Group (2003) Enterprises Inc.
 
写真2 やっぱり,カンフーアクションもいいな
 
 
 
     
   ■ ワイヤー・アクションで『グリーン・デスティニー』(00)級のスケールを見せてくれるのが「竹林の戦い」だ(写真3)。同じ竹林だが,動きもダイナミックで,アクションのアイデアが新しく,この殺陣の演出は座布団2枚ものだ。このシーンだけで,この映画を観る価値は十二分にある。
 ■ 最後の決闘は冗長で,少しくどい。秋の紅葉の野原が,なぜ突然大雪のシーンに変わって行くのか,全くその必然性を感じなかった。ところが,何とこれは実際にロケ現場で急に季節外れの大雪に見舞われたので,そのまま撮影し,急遽監督がストーリーを書き換えたのだという(写真4)。雪原は見るからに実際の雪だが,その割には対決する2人に雪が積もっていないシーンもある。そうそう都合の良い演技のシーンは撮れないので,雪が止んでからゆっくり対戦し,猛吹雪は後でCGで描き加えたのかとも感じた。
 ■ 短刀,槍,血の塊りが宙を舞うシーンはいかにも,CG, VFXだ。VFXは中国語で「視覚特効」と言うらしい。中国製ならこのレベルで精一杯だろうと思ったら,エンドロールには,オーストラリアのAnimal Logic社他2社の名があった。『M:I-2』『マトリックス』シリーズにも参加した面々である。ならば,もう少し工夫した使い方があっただろうにと思えたが,それがこの監督の限界かも知れない。彼はアクション大作よりも,ほのぼのとしたドラマの方がよく似合う。
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写真3 竹林の戦いはこの映画最大の見せ場
Elite Group (2003) Enterprises Inc.
 
写真4 不自然に思えた大雪は実際のハプニングとか
 
 
 
     
   
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