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O plus E誌 非掲載
 
 
ザ・ビートルズ〜EIGHT DAYS A WEEK - The Touring Years』
(KADOKAWA配給)
      (C) Apple Corps Limited.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [9月22日より角川シネマ有楽町他全国ロードショー公開中]   2016年9月22日 MOVIX京都
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  甦る熱狂,音楽史を変えた4人のドキュメンタリー  
  Webページだけの追加の短評として書き出したら長くなってしまったので,分量を気にせずに書いて,(VFXとは無関係だが)メイン欄に格上げして掲載することにした。
 来日50周年記念で,今年は何かとビートルズ関連の書籍出版やイベントが多かったが,遂にドキュメンタリー映画まで登場した。『レット・イット・ビー』(70)以来,46年ぶりにビートルズが登場する劇場用映画で,全世界同時公開である。解散後半世紀近くも経つというのに,リマスター盤,ベスト盤,未公開ビデオ集等々,様々な公認企画ものを出して来る商魂には恐れ入るが,その中でも特大の企画と言える。多くのビートルマニア同様,筆者もまたそれらを追いかけている。
 リヴァプール,ハンブルグでの厳しい下積み生活の後,「Please Please Me」のヒットで人気バンドとなった1963年に始まり(写真1),1966年のサンフランシスコ公演まで,15ヶ国,90都市,166公演に及ぶツアー期間中の活動記録とのことだ(写真2)。アルバム的には「Please Please Me」から「Revolver」までの時代だ。まさに4人が一体となって活動した全盛期であり,当時高校生だった筆者が毎月彼らの新曲を待ち望み,小遣いの大半をはたいていた頃である。
 
 
 
 
 
写真1 レコード・デビュー当時は,まだ髪が短い
 
 
 
 
 
写真2 米国でブレイクした後も,4人で1部屋だったという
 
 
  監督は,『ビューティフル・マインド』(01)『ダ・ヴィンチ・コード』(06年6&7月号)『ラッシュ/プライドと友情』(14年2月号)のロン・ハワード。マーティン・スコセッシ監督が撮ったライヴ・ドキュメンタリー『ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト』(08)が高い評価を得ていたので,知名度では負けないオスカー監督を選んだのだろうか。コンサート映像とインタビューで綴るドキュメンタリーなど,誰が監督でも大差ないと思ったのだが,後述のように流石と思える出来映えだった。
 ほぼ時代順の構成で,コンサート,TV出演,映画の撮影風景,スタジオ収録風景等の映像と,インタビューや音楽を巧みに織り交ぜている。公式アルバムのジャケットがその発売順通りに登場し,昔からのファンも最近のファンも,それぞれの想いを込めて彼らの歴史をトレースできる。ファン垂涎の未公開映像もたっぷり登場するが,既発表の見慣れた画像も所々に配されていて,そのバランスも絶妙だ。「誰もが知っているバンドの知られざるストーリー」なるキャッチコピーは多少誇張があり,「ずっと前から知っていたストーリーだが,それを裏付ける貴重な歴史的映像資料集」と言う方が正しい。
 ポールとリンゴのインタビューの大半はこの映画のために撮影されたもので,勿論,登場回数は最も多く,何度も出番がある。ジョンとジョージのインタビューは活動期間中のものだけでなく,解散後の映像もあり,彼らの心の声が聴ける。多数の関係者の中では,当時のコンサートに足を運んだというシガニー・ウィーバーとウーピー・ゴールドバーグの語りが印象的だった。日本人では(なぜか)写真家の浅井慎平氏だけが登場する。
 素直な構成だが,彼らが音楽産業を一変させ,世界の若者のカルチャーに影響を与えたことが肌で感じられる。1966年の日本やフィリピンへのツアー,ジョンの不用意な発言が巻き起こしたキリスト教徒の反発……,疲弊した彼らがツアーを止めたくなった心境もよく分かる(写真3)
 
 
 
 
 
写真3 ジョンの疲れ切った様子が印象的だ
(C) Apple Corps Limited.
 
 
  ツアーへの終止符でこの映画は終わりかと思ったら,その後,スタジオ録音盤製作に没頭し,歴史的名盤「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」を生み出す過程,1969年初頭のルーフトップ・コンサートの光景まで,しっかりと辿ってくれる。そして,エンドロール中ほどは表題中の"Eight Days A Week"(スタジオ録音版)を流し,1963年クリスマスにファンクラブ会員に向けた4人のメッセージ(ソノシートで配布)で締めている。ファン心理を読み抜いた構成が見事だ。
 この映画は,マスコミ用試写は全くなく,公開日(9/22)の夕方にシネコンで観た。雨の日の祝日,シネコンのフロアは若者たちで溢れていたが,この映画の客席はほぼ満席で,あらゆる年代にわたっていた(即ち,年輩者の比率が高い)。驚いたことに,エンドロールは始まった途端に席を立つ観客が数名いた。まだ上記の曲やメッセージが流れていたし,何よりもその後素晴らしい特典映像が控えていたというのに……。ファンの風上にもおけない大阿呆だ(多分,上映前の案内を読んでいなかったのだろう)。
 
 
  特別編集の高画質ライブ映像とCD初の公式ライヴ盤  
  本編終了後に,1965年NYシュア・スタジアムでのコンサートを収録した約30分の特別編集版がオマケでついていた。映画館に着くまで知らなかったので,これは嬉しい誤算だった。
 5万人以上の観衆を収容するため,初めて野球場を使ったコンサートである(今では当たり前だが)(写真4)。それに見合うだけの大容量のアンプもまだ存在しなかったようだ。ウーピー・ゴールドバーグが母親に連れられて行ったのは,このコンサートである。
 
 
 
 
 
 
 
写真4 NYシェア・スタジアムでの演奏風景
(C) Subafilms Ltd.
 
 
  14台の35mmカメラで撮影した映像を,4Kリマスタリングして修復したという。この画質が驚くほど鮮明だ。部分的には既に「ザ・ビートルズ・アンソロジー」等々でも見かけた映像であり,今回の本編や予告編にも登場するコンサートだが,この特別編集版のクオリティは圧倒的だった。4:3画面で,解像度的には今イチだが,色再現やノイズ除去が素晴らしい。ディジタル技術での画像修復はここまで来たかと感嘆する。
 よく知られた曲ばかりで,音質的には後述のCDの方が上だが,コンサートの盛り上がり,熱狂ぶりは,やはりプロがライヴ収録した映像ならではのものだ。曲目紹介時にジョンがどのアルバムの収録曲か言い淀んでいるのは,米国発売のアルバムが勝手な編集をしていたので,彼ら自身も正確に知らなかったためだろう。ドラムを叩きながら"Act Naturally"を歌うリンゴの声は,パワフルで魅力的だ。ラストの"I'm Down"では,ジョンが楽しそうにキーボードを弾く姿を初めて見た(初期のハーモニカ姿はよく見たが)。今ではバック・バンドを採用するのが当たり前なのに,4人だけで演奏しているのも印象的だ。かく左様に,本編と同等か,それ以上に貴重なお宝映像である。
 一方,この映画の公開と同期して,CD「ライヴ・アット・ザ・ハリウッド・ボウル」が発売されている。サントラ盤ではないのだが,ジャケットには映画宣伝と同じ写真(64年8月シアトル・タコマ空港での撮影)が使われ,中央上部には映画の題名が配されている(写真5)。これは,ちょっとズルい。それでも,ビートルズの公式CDアルバムでの初のライヴ盤であることは保証されている。
 
 
 
 
 
写真5 公式ライヴ盤CDのジャケット
 
 
  米国西海岸の野外音楽堂ハリウッド・ボウルにおける1964年8月23日と1965年8月29, 30日の3回の公演を収録した音源を編集したライヴ盤である。10年以上眠っていたものを,故ジョージ・マーテのプロデュースで,1977年に「ザ・ビートルズ・スーパー・ライヴ」(13曲入り)としてアナログ盤LPが発売されている。今回それを再度リマスタリングし,ボーナストラック4曲を加えて,初のCDライヴ盤が登場した訳だ。映画本編中では,このコンサートはわずかしか登場しないが,今回のドキュメンタリーの趣旨からすれば,代表的ライヴであり,サントラ盤に近い扱いをしても好いかと思う。
 これだけLP化,CD化するからには,比較的音質が良かったのだろう。演奏自体はごく平均的で,必ずしも最上ではない。例えば,CD1曲目の"Twist And Shout"は,映画本編中のマンチェスター市ABCシアターでの演奏の方がノリがいいと感じた。"Ticket To Ride" "All My Loving"等,いずれも軽く流しているに過ぎない。その一方で"Dizzy Miss Lizzy" "Long Tall Sally"等は,ライヴならではシャウトが瑞々しい。
 素晴らしいのは,再マスター後の絶妙のミキシングだ。音量的には,リンゴのドラミング>リード・ヴォーカル≒ポールのベース演奏>観客の嬌声,の順にミックスしている。ビートルズの公演は,観客の叫び声が騒々し過ぎ,歌は聞こえない。聞こえるのはリンゴのドラムの音だけと言われ続けて来たが,そのイメージを残しつつ,ヴォーカルもしっかり聞こえるように配慮している。ヴォーカルが途絶える部分では,歓声の音量を少し上げ,会場の興奮を伝えている。担当は,ジョージの息子のジャイルズ・マーティン。既に父親と共に「ザ・ビートルズ・アンソロジー 1 〜3」(95 & 96)「ラブ」(06)等のプロデュースに関わり,2009年の公式アルバム全曲リマスターも経験しているので,ビートルズのすべての音源に通暁していると言える存在だ。
 そのリマスターの腕で最大限に強調されているのは,リンゴのドラミングの見事さだ。とりわけ,バスドラムの正確でパワフルなリズム,タムタムの心地よい響きに酔いしれる。スタジオ・ドラマーとしてもコンサート・ドラマーとしても一級の腕前であり,彼の加入がビートルズの音楽的成長を支えたことが実感できる。
 
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