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O plus E誌 2012年3月号掲載
 
 
 
 
『ヒューゴの不思議な発明』
(パラマウント映画)
 
 
      (C) 2011 Paramount Pictures

  オフィシャルサイト[日本語] [英語]  
 
  [3月1日よりTOHOシネマズ有楽座他全国ロードショー公開予定]   2D版:2012年2月2日 GAGA試写室(大阪)
3D版:2012年2月9日 TOHOシネマズ梅田
 
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  SFX映画の父を描いた物語は,見どころ満載の感動作  
  例年,アカデミー賞候補作や春休み公開作が並ぶ3月号だが,早くから今年は本作品をトップに据えるつもりだった。SFX映画の嚆矢となった『月世界旅行』(1902)が劇中に登場し,その監督ジョルジュ・メリエスを描いた作品と漏れ聞いたからである。原作は2007年にブライアン・セルズニックが著した児童書「ユゴーの不思議な発明」なので,春休み公開のファミリー映画であっても,そう大きな話題にはならないと考えていた。当欄としては,SFX史に果たしたメリエスの功績を,蘊蓄を傾けて語るつもりであった。
 ところが,監督は巨匠マーティン・スコセッシで,初の3D作品に挑戦,女性に人気のジュード・ロウが出演するという。結構大作らしく,こっそり通ぶって解説する雰囲気ではなくなってきた。昨年の感謝祭週の公開後は,世界中でもの凄い高評価で,3Dも絶賛されている。何やら自分だけの大切な作品が,白日の下に晒け出されてしまった感じである。年が明け,ゴールデングローブ賞で監督賞を受賞,アカデミー賞には最多の11部門でノミネート……。勿論,視覚効果部門でも有力候補作になっている。こうなると,蘊蓄どころではない。東京の知人から「何だ,まだ観ていないのか」と馬鹿にされたが,大阪ではまだ試写が始まっていなかった。
 ようやく観ることができたのは,小さな試写室での2D版だった。時代は1930年代,パリのリヨン駅が舞台となっている。その時計台に隠れて暮らす孤児のヒューゴが主人公で,父が遺した壊れた機械人形を修理し,動かすことに情熱を傾けている。少しネタバレになるので,映画監督ジョルジュ・メリエスの正体が判明するのは中盤以降とだけ言っておこう。
 12歳のヒューゴ少年役は『縞模様のパジャマの少年』(08)のエイサ・バターフィールドで,彼を見守る不思議な少女イザベル役で,筆者お気に入りのクロエ・グレース・モレッツが登場する。『キック・アス』(10年12月号)でスーパーヒロインを,『モールス』(11年8月号)でヴァンパイアを演じた,あの少女である。
 勿論,心暖まる物語であり,脚本・演出・撮影・衣装・音楽に至るまで,細部に目配りした,完璧と言える佳作だ。それはあちこちで語られるだろうから,以下では,本欄特有の視点からの解説&感想である。
 ■ まず,空から眺めたパリ市内の全景から入り,どんどんクローズアップする冒頭のシーケンスは,どう見てもフルCGだが,リヨン駅の中に入ったところで実写映像に切り替わる。この駅構内のビジュアルが素晴らしい。店舗の飾りつけや人々の衣装も,きめ細かな配慮がなされている。時計台もグッドデザインだが,その窓から見えるパリの街が美しい(写真1)。世界各地の映画祭の美術賞を総なめにしているだけはある。他は逃したとしても,美術部門のオスカーだけは確実だ。
 
   
 
写真1 時計台の窓から見えるパリの街が美しい
 
   
  ■ 続いて,ヒューゴがその時計台から螺旋状のシューターで降下し,狭い通路を通って駅構内に至る長回しの1カット。カメラがついて行けるはずがなく,一体どうやって撮ったのだろうと思わせる。グリーンバックのスタジオで撮影した少年の動きを巧みに繋いでいて,一部はデジタル俳優で置き換え,周りの光景はほとんどCG製だと思われる。時計台内部の大きな歯車もしかりだ。
 ■ 物語で大きな役割を果たすロボット風のメカ(写真2)は,「Automaton」と発音され,字幕には「機械人形」と書かれている。ロボットは外部世界に適応する自律システムであり,これはカラクリ仕掛けの自動機械だから,技術的にも正しい表現だ。勿論,実物大の精巧な模型を作った上で,CG製の人形もモデリングしている。この機械人形が絵を描くシーンはCG,ヒューゴが抱えて走るシーンでは実機だろう。
   
 
写真2 ロボットでなく,これはカラクリ仕掛けの機械人形(オートマトン)
 
   
  ■ 駅構内は部分的に実物大セット,外観はミニチュアセットを利用し,随所で店舗や乗降客をVFXで描いている(写真3)。とりわけ,列車が暴走し,駅を突き破る悪夢のシーンは圧巻だ(写真4)。2人が図書館に行くシーンは,本物の図書館でロケしたというが,広大な空間を描き,3Dを強調する場面では,ここでもCG/VFXによる補強が施されている(写真5)。小物では,ヒューゴが修理し,動き回れるようになったネズミの人形もCGだろう。VFXの主担当はPixomondo社で,VFXスーパバイザのロブ・レガートは,デジタルドメイン時代にあの『タイタニック』(97)を手がけた人物だ。
   
 
 
 
 
 
写真3 リヨン駅構内は,こんな風に列車,店舗,人物を描き加えている
 
   
 
 
 
 
 
写真4 こちらは,ミニチュアの駅と列車を使ったVFXシーン
 
   
 
写真5 3D上映を意識した奥行き感たっぷりの図書館内部はVFXの産物
 
   
   ■ 伝説の『月世界旅行』は,有名なロケットが月面に突き刺さるシーンだけでなく,水中の劇の場面が登場する。単に歴史的な映像を見せるだけでなく,その制作過程自体が本作品の物語の一部となっている。メリエスの作ったガラス製のスタジオや特撮場面の撮影風景までが再現されているのが嬉しい。「世界初の職業映画監督」と言われた,このフランス人監督への敬意が感じられる。皮肉にも,このハリウッド大作が映画黎明期のフランス映画界を描き,アカデミー賞を争う『アーティスト』はハリウッド映画界を描いたフランス映画である。
 
   
  『アバター』以降で最高の,魅力的な3D映画  
  試写会は2D版だけで,3D版は公開後に劇場で観ざるを得ないと思っていたところに,追加で3D上映の試写案内が届いた。その結果を本号で紹介できるのが嬉しい。パラマウント ピクチャーズに大拍手だ。
 評判通り,素晴らしい3D作品だった。『アバター』(10年2月号)以降で,最も優れた実写ベースの3D映画だと言える。勿論,2D→3D変換のフェイクではなく,J・キャメロン監督のフュージョン・カメラを使ったリアル3D撮影である(写真6)。最近の生ぬるい3D映画ではなく,『アバター』以上に「翔び出し感」を強調したシーンが頻出する。それでいて,目は疲れない。立体感に目を奪われ,物語への没入を妨げられることもなかった。
 
   
 
写真6 老匠マーティン・スコセッシは,この年齢で果敢にリアル3Dに挑戦
 
   
   イラスト画が舞い散るシーン(写真7)は,3Dで観ると魅力倍増だ。CGで描いた紙の動きを,きちんとプレビズしているのだろう。映画館内での映写光線も立体感抜群で,嬉しくなるシーンだ(写真8)。全編を通じて,良く計算され,使い方が上手い。追加料金を取るなら,どの映画もこのくらいの3D演出を見せて欲しいものだ。  
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写真7 舞い散る紙の大半はCGで,3D観賞の価値あり
 
   
 
 
 
写真8 このシーンも,3Dで楽しむ見せ場の1つ
(C) 2011 Paramount Pictures. All Rights Reserved
 
   
   
   
   
  (画像は,O plus E誌掲載分の一部を入替え,追加しています)  
   
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