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O plus E誌 2013年2月号掲載
 
 
ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』
(20世紀フォックス映画)
      (C) 2012 Twentieth Century Fox Film Corporation
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [1月25日よりTOHOシネマズ日劇他全国ロードショー公開予定]   2012年12月10日 東映試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  このトラがCGかと驚く上に,物語の面白さも抜群  
  いやはや,すごい映画だ。CGも驚異的だが,物語も頗る面白い。勿論,当欄がトップ記事で取り上げるべき類いの映画である。副題から漂流ものだと分かるが,ここで登場するトラは獰猛なベンガル虎である。『アイス・エイジ』『マダガスカル』のような動物が主人公のCGアニメではなく,『ナルニア国物語』『ライラの冒険』のようなファンタジーでもないので,トラやライオンや白クマが話したり,人間と仲良くする訳ではない。猛獣のトラと1つのボートで227日間も漂流するというだけで,破天荒な設定でワクワクする。予告編を観ても,このトラは本物にしか見えないから,特撮だとしたらどんな仕掛けか,CGだとしたらどんな技術を使ったのか,興味が湧かない方が不思議というものだ。
 時代は1976年,インドで動物園を経営する一家がカナダに移住することになり,動物を連れて日本の貨物船に乗る。太平洋を航行中に大嵐に遭遇し,船は難破する。小さな救命ボートに乗り移って生き残ったのは,16歳の少年パイと,シマウマ,ハイエナ,オランウータン,ベンガルトラだけだった。やがて,シマウマたちは命を落とし,残ったのはパイとリチャード・パーカーと名付けたトラだけだった……。というストーリーだが,原作は,カナダの作家ヤン・マーテルが2001年に著したベストセラー小説「パイの物語」で,2002年に英国の伝統あるブッカー賞を受賞している。
 原作がしっかりしている上に,映画としての完成度が高いことをどう記そうかと考えていたところに,本年度のアカデミー賞ノミネート作品が発表された。何と本作は,S・スピルバーグ監督の『リンカーン』(4月号で紹介予定)の12部門につぎ,11部門でのノミネートである。作品賞,監督賞,脚色賞の他は,美術賞,撮影賞,編集賞,作曲賞,オリジナル歌曲賞,音響賞,音響編集賞,視覚効果賞の候補だから,俳優の演技がウリではなく,美術・音楽・編集等のスタッフ部門の力で高水準に仕上がっていることが分かる。
 監督は,『グリーン・デスティニー』(00)『ブロークバック・マウンテン』(05)のアン・リー。オスカー監督だが,あまりジャンルに捕われず,様々なスタイルの映画に挑戦するという印象が強いが,異色の設定の本作でも,その実力はいかんなく発揮されている。主役の少年パイを演じるのは,3,000人以上の中から選ばれたスラージ・シャルマだ。全くの新人とのことだが,インド人は皆似て見えるので,どこかで見たような顔立ちである。それでいて,成人後のパイを演じる俳優(イルファン・カーン)とは全く似ていない。綿密に計画された本作の唯一の欠点を挙げるなら,この点だけだろうか。
 音楽も洋上生活を支える小道具類も秀逸だが,目玉はCG/VFXであり,以下その見どころである。
 ■ 何と言っても,注目の的は,まるで生きているかのようなトラの描写である(写真1)。『ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女』(06年3月号) では,ライオンのアスランの描写に驚いたが,本作のリチャード・パーカーはその数段上を行く。担当は,同じく動物描写が得意なRhythm & Hues社だから,過去の経験を活かしつつ,新技術を駆使して,あっさり自己記録更新である。何しろ動きが凄い。本物のトラ4頭を確保し,うち1頭を徹底的に観察して,表情や動きを真似たという。ハンパな出方ではなく,中盤以降ずっと出ずっぱりだ。威嚇の表情,脅えた表情もあれば,海を泳ぐ光景,200日以上を経て,すっかり衰弱したトラまで,CG/VFX史に残る出色の出来映えだ。
 
 
 
 
 
 

写真1 このトラがCG製とは驚く。動きや仕草まで精緻で,動画で見るともっと凄い。

 
  ■ 動物たちの95%以上をCGで表現したというが,では残る5%はどこなのだろう?冒頭のインドの動物園の動物だけ,本物だろうか。貨物船の難破時には,既にCGがフル活動だ(写真2)。そして,ボート上でパイ少年とR・パーカーが対峙する場面は頻出するが,こうしたシーンの大半は,スタジオ内の水槽にボートを浮かべ,ブルーバックで撮影されている(写真3)。そこに飛来するトビウオや大嵐もVFXの見せ場だ。後半に登場する大量のミーアキャット(写真4)も,良い出来だった。この島自体が,VFXをふんだんに使って描かれている。この部分の担当は,Crazy Horse Effects社だ。
 
 
 
 

写真2 まさか,こんなシーンで本物のトラを使う訳ないが…

 
 
 
 
 

写真3 大半はスタジオ内で,パイ少年と空のボートだけでの撮影

 
 
 
 
写真4 Rhythm & Hues社が6万匹ものミーアキャットを描いた
 
 
  ■ 予告編にも登場するが,夜の海でのクジラの出現シーン(写真5)は何度観ても素晴らしい。クラゲが登場する幻想的な海のシーンも美しい(写真6)。そして,こうしたシーンが見事な3D映像として表現されていることにも言及しておきたい。随所に,ああ3Dで観て良かったと感じさせてくれる演出だ。勿論,フェイク3Dではなく,Cameron-Pace 3-D Rigを使ったリアル3D撮影である。美術賞,撮影賞のオスカーの最有力候補だ。
 
 
 
 
 
写真5 ザトウグジラの出現シーンは,中盤の大きな見もの
 
 
 
 
 
写真6 夜の海のシーンは美しいが,これもスタジオ内撮影
(C) 2012 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.
 
 
   
  第85回アカデミー賞視覚効果部門の予想  
  作品賞,監督賞の候補作品の半数以上は未見なので,本号では視覚効果賞だけ予想しておこう。昨年夏は大作揃いで,CG/VFX的にも豊作だった。CG業界の世評では『アベンジャーズ』と『プロメテウス』が拮抗していたが,筆者は後者の美的感覚に軍配を上げていた。
 このままオスカーに直結するとは思えなかったが,年末公開の『ホビット 思いがけない冒険』の試写を観た時点では,あっさり「これで決まりだ!」と思った。そして,翌週に本作を観た途端に,前言撤回となった。3部作の『ホビット』は来年以降にもチャンスがあるから,今年はこのトラを大本命として推しておく。
 
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分を入替・追加しています)  
   
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