|
|
||||||||||||||||||||
|
||||||||||||||||||||
(注:本映画時評の評点は,上から,,,の順で,その中間にをつけています。) | ||||||||||||||||||||
■『ジャッジ 裁かれる判事』:久々の法廷ものである。いや,久々どころか,当欄で殆ど取り上げた覚えがない。日本ではウケないと思われていて,余り輸入・公開されないのか,それとも訴訟王国の米国でもこのジャンルの映画が減っているのだろうか? 法廷劇のパターンは出し尽くされたとも言われているが,本作は少し異色の味付けがなされている。辣腕弁護士(ロバート・ダウニー・Jr)が弁護する殺人容疑の被告(ロバート・デュヴァル)は,42年間厳格に正義を貫いてきた判事であり,彼自身の父親である。当代の売れっ子俳優と老名優の両ロバートが,反目しあう父子を演じる呼吸が絶妙だ。裁判以外に,故郷の元カノとの恋の再燃等のエピソードも盛り込まれていて,これも結構楽しめる。もう1つのテーマは,米国流の父子の情愛だ。後半はこちらが主となってしまい,法廷劇の面白さが少し薄まってしまった。ちょっと,惜しい。 ■『スパイ・レジェンド』:『007』シリーズで,現在の6代目ジェームズ・ボンド,ダニエル・クレイグもなかなかいいなと思うが,個人的には5代目ピアス・ブロスナンが最も適任だったと思う。彼の最後の出演作『007/ダイ・アナザー・デイ』(03年2月号)の公開後,もう12年も経つ。早いものだ。その後,イメチェンを図ろうとしたのか,『マンマ・ミーア!』(08)ではメリル・ストリープに愛の歌を歌っていた。そんなフニャけた役は似合わず,案の定,ラジー賞助演男優賞に輝いた。その彼が,表題のようなスパイ・アクションの主役として戻ってくるとは,喜ばしい限りだ。ただし,女王陛下の臣下ではなく,無敵の元CIAエージェントで,引退後の余生を楽しんでいたのに,特別任務で現役復帰するという設定である。この役柄なら,ブルース・ウィリスでもリーアム・ニーソンでも,はたまたマット・デーモンでも誰でもいい訳だが,P・ブロスナンが演じただけで,007に見えてしまう。物語の骨格は平凡だが,そこそこ美女も出て来て,テンポも良い。既に還暦を過ぎたとは思えぬ機敏な動きだ。低予算映画らしく,大仕掛けのセットや目立ったVFXもないが,根っからのファンには,元気な姿を見られただけで十分だ。ただし,もう少し遊び心やシャレた小道具くらいは,有っても良かったかと思う。 ■『ANNIE/アニー』:トニー賞7部門に輝く名作ミュージカルの再映画化作品で,前作は1982年に製作され,我が国でも女子中高生がよく文化祭等で演じているネタである。少女アニーに『ハッシュパピー バスタブ島の少女』(12)のクワベンジャネ・ウォレス,大富豪役に歌って踊れるジェイミー・フォックスを配して,黒人コンビにした上,時代設定を1930年代から現代に変えたことも話題になっていた。前宣伝が大きく,大いに期待したのだが,公開後,欧米では酷評されていたので,当欄としては独自の視点で,良いところを探そうと努めた。前半はテンポも良く,孤児たちのコーラスにもリズム感があった。欠点は中盤以降で,2人が心を許し合う過程の描写が薄っぺらで,終盤は物語を急ぎ過ぎだ。最大の失敗は,余りにもお子様映画にし過ぎたことだろうか。当欄としては,IT成金の超豪華な住まいと情報機器の斬新な描写が唯一の見どころと評価しておきたい。音楽的評価は別稿を参照されたい。 ■『さよなら歌舞伎町』:昭和40~50年代,通勤途中にあって毎日ニアミスしていたので(勤務場所ではない!),「歌舞伎町」と聞くだけで格別の想いがある。本作の時代設定は現在だが,過去数十年のいつであっても通用する話である。男女5組が織りなす群像劇だが,舞台はグランドホテルならぬ,歌舞伎町のラブホテルだ。AV撮影現場,韓国人デリヘル嬢,新人女性歌手の枕営業,現職警察官のW不倫,強盗傷害犯の時効待ち等々,盛り沢山で,いかにもこの歓楽街らしいネタに溢れている。監督・廣木隆一,脚本・荒井晴彦のコンビは,ともにピンク映画出身だけに,その人間模様の描き方は手慣れたものだ。セックス・シーンはたっぷり有るが,暴力シーンは少なく,陰湿さもない。邦画は,終盤や結末の描き方が稚拙と感じることが多いが,本作のまとめ方は秀逸だった。清々しさすら,感じた。 ■『ミルカ』:この題で問われると,誰でも思わず「ハイ,観ます!」と答えてしまいそうだ(笑)。「空飛ぶシク教徒」と呼ばれた実在のインド人ランナー,ミルカ・シンの半生を描いた力作である。主演はボリウッドのスーパースター,ファルハーン・アクタルで,しばしば監督も務める彼が本作では主演に徹し,18ヶ月かけて体脂肪率を5%に落とし,見事なアスリート体形に変身したという。金メダルを期待されたローマ五輪の400m走で4位に終わったところから物語は始まる。単なるスポーツものに留まらず,インド,パキスタン間の国家紛争に蹂躙された過去を含み,骨太の伝記映画として描かれている。大ヒット作となったのも頷ける。恋人役のソナム・カプールは飛び切りの美形であり,映像も(回想シーン以外は)美しい。クライマックス・シーンを盛り上げる音楽も編集も,オーソドックスで嫌味がない。お決まりの「歌って,踊って」のシーンは(幸いにも?)最小限だ。最近,東宝東和が配給を始めた新レーベル「Golden Asia」の作品群は良作揃いだが,中でもインド映画には,今後も大いに期待できるだろう。 ■『繕い裁つ人』:主人公(中谷美紀)は,昔ながらの職人芸を貫く洋裁店の2代目女性店主で,仕立ての腕は超一流だが,ブランド化して売り出すことを拒む頑固者だ。コミックが原作の映画化作品だが,この表題と予告編から,松竹大船調の心温まる人間ドラマを想像する。神戸を中心とした現地ロケ,しっかり作られたセット,黒木華,片桐はいり,伊武雅刀,余貴美子らの充実した助演陣等,製作には力が入っている。主人公の青い仕事着や彼女が仕立てたドレスは,女性ファッションに疎い筆者ですら,なかなかのものだと感じる。でありながら,高い評価を下せないのは,三島有紀子監督の演出が好きになれないからだろう。前作の『ぶどうのなみだ』(14年10月号)同様,この監督の描くドラマは淡泊,表層的過ぎて,実体感がない。その典型は,相手役の三浦貴大演じるデパート職員で,こんな人畜無害の草食系男子では,何の感動も引き起こせまい。 ■『マエストロ!』:こちらもコミックが原作の邦画で,同じく職人芸でも,クラシック音楽の指揮者とコンサートマスターが主人公だ。映画化に際して「!」が付加されている。音楽的には極めてオーソドックスで,演奏されるのも「運命」「未完成」という,全く驚くに値しない選曲である。不況で解散した名門オーケストラを再結成しようと奮戦する物語で,突如現われた謎の老人の破天荒な指揮者振りが!マークもののようだ。この西田敏行の存在感が抜群過ぎて,残る出演者たちが必死で追随して演技している様が,物語と軌を一にしている感がある。コンマス役のイケメン男優・松坂桃李は,NHK大河ドラマでの黒田長政役の印象が強過ぎるが,本作に関しては,その生真面目で青臭い感じがピッタリとハマっていた。人気シンガーソングライターのmiwaが,フルート奏者役で映画初出演しているが,こちらもユニークな役柄を上手く演じていると感じた。私が監督なら,また使ってみたくなる素材だ。 ■『トレヴィの泉で二度目の恋を』:原題は2人の名前を列挙した『Elsa and Fred』に過ぎないが,何ともロマンチックな邦題を付けたものだ。アパートに転居してきた堅物の男性と隣室の陽気な女性が,次第に惹かれ合うが,彼女には重大な秘密があった……。これが若者の恋愛劇なら在り来たりすぎるが,本作の想定は何と80歳と74歳の恋物語であり,演じる2人のオスカー俳優の実年齢は85歳(クリストファー・プラマー)と80歳(シャーリー・マクレーン)である。若者の恋愛劇に感情移入するのは気恥ずかしいが,この老いらくの恋の行方を見守るのは,もっと気恥ずかしい。高齢化社会では,こういう「映画のような恋」が老人男女の憧れになるのだろうか。C・マクレーンはとてもチャーミングだし,C・プラマーのスーツ姿もキマっている。ただし,この恋の落とし所は,ちょっと安易過ぎる。まるで韓流映画のようだ。ま,所詮たかが映画なのだから,硬いことは言わずに,これでいいことにしようか。 ■『チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密』:来月公開のディズニー作品『イントゥ・ザ・ウッズ』(15年3月号)では,派手な宣伝なのに,ジョニー・デップの登場場面が少なく,女性ファンからの苦情が殺到しそうだ。その前に公開される本作は,しっかり主演で,フル出演である。原作はキリル・ボンフィリオリ作の「チャーリー・モルデカイ」シリーズで,口ヒゲをたくわえた美術商という役柄だ。英国諜報MI5の依頼を受け,行方不明の名画の捜索に乗り出す。この幻の名画には,世界を揺るがす財宝の秘密が隠されているらしい……。筆者好みのワクワクする設定だ。頭脳明晰な美人妻役は,これまた筆者が大好きなグウィネス・パルトロー。彼女に横恋慕するMI5警部補にユアン・マクレガーというから,随分豪華なトリオを配したものだ。という訳で,大いに期待したのだが,どうも今一つピンと来なかった。全編コメディ・タッチだが,チープ感が漂い,殆ど笑えない。昔は暗い影の2枚目役が多かった「ジョニデ」は,当たり役のジャック・スパロウ船長役以来,人を喰ったような,少し滑稽な役柄が多い。全体がシリアスかサスペンス・タッチの作品では,何となくおかしい,その持ち味が生きていたが,周りも皆ふざけまくる展開では,魅力も半減以下だ。セリフがこなれていないし,演出も軽すぎる。せめて期待したCG/VFXも,語るに足りないレベルだった(それゆえ,長めの短評でWeb掲載だけに留めた)。劇中の音楽がプアなのも,安っぽさを助長していた。ただし,エンドロールで流れる主題歌だけは,水準以上の出来栄えだったと思う。 ■『フォックスキャッチャー』:表題はデュポン財閥の御曹司が運営するレスリング・チーム名で,彼が五輪金メダリストを射殺した事件を題材としている。カンヌ国際映画祭の監督賞受賞作と聞かずとも興味をそそられるが,監督が『カポーティ』(05)『マネーボール』(11)のベネット・ミラーとくれば尚更だ。事件後の供述や背後事情調査で動機に迫る形式ではなく,ほぼ時間順に経過をたどり,最後に殺人事件に至る展開である。富豪のコーチ(スティーヴ・カレル)の狂気と奇行,兄弟選手(マーク・ラファロとチャニング・テイタム)の弟が次第に心を病んで行く過程の演出が見事で,一瞬たりとも目が離せない。筆者は金メダリストの殺害としか知らずにこの映画を観たが,それゆえに最後の殺害には心底驚いた。事件の予備知識なしに観た方が,監督の手腕,S・カレルの名演を満喫できると思う。 ■『娚(おとこ)の一生』:この映画を観るまで,「娚」なる漢字を知らなかった(「嬲」なら知っていたが…)。年の離れた男女が奇妙な共同生活を営み,次第に惹かれ合う様を象徴したかったのだろうが,この字を「おとこ」と読ませるのはかなり無理があり,意味不明だ。女性コミックが原作の映画には懲りているのに,それでも観てしまったのは,この字と『やわらかい生活』(06)の廣木隆一監督,豊川悦司主演というコンビのせいである。何度か書いたように,トヨエツは監督や相手役の力量次第で光り輝いたり,平凡で気のない演技で終わってしまう俳優だ。その基準で行くと,本作の彼の演技は「中の上」である。前半は,不思議な大学教授役がハマっていて,とても面白く観られたのに,後半の恋愛劇が少し不自然だ。男性観客の大半は,ヒロインの榮倉奈々に魅力を感じず,50代のモテ男がこんな小娘に惹かれる訳はないと感じるはずだ。友人役の安藤サクラにヒロインを演じさせた方が,ずっと引き締まっていたと思われる。 ■『味園ユニバース』:邦画が続く。大阪が舞台で,題名はミナミ千日前の飲食店ビルにある著名な豪華キャバレー名だそうだ(京都出身の筆者は知らなかった)。ヒロインが二階堂ふみの青春音楽映画というので,酷評した『日々ロック』(14年12月号)を思い出したが,本作の方がずっと出来が良い。彼女はツッパリ姐ちゃん役しか似合わないが,本作の役はその演技力に見合っている。記憶喪失の青年を演じるのは,関ジャニ∞の渋谷すばるで,これが単独での映画初主演である。実在のバンド「赤犬」をバックにシャウトする歌はさすがだ。演技もなかなかのもので,好い俳優に育って行くと思われる。オール大阪ロケで,ご当地映画ぶりをセールスポイントにしているが,さして大阪臭くなく,物語そのものは何処が舞台でも大差はないと感じた。 ■『きっと,星のせいじゃない。』:難病に侵されながらも,力強く生きる若い男女の純愛物語である。障害者や余命僅かの病人を扱う物語は,どうも好きになれない。時々,感動のヒット作を生み出したい下心や,上から目線の製作意図が見えるからだ。それでも,明るく前向きに生きようとする映画なら,障害者自身の励みになるかと思い,存在価値を認めていた。この映画では,2人の出会いや恋の進行までは快適だが,中盤以降,次第にシリアスな展開になり,少し不愉快になって来た。そう感じたのも束の間で,後は感動と感涙の連続だった。障害者や重病人でなく,健常者が命の尊さと愛の崇高さを感じ取るべき映画だ。そうなるには,しっかりした脚本とセリフ,卓越した演出力と演技力が要る。本作は,そのいずれをもクリアしていた。音楽・挿入歌も優れている。とりわけ,エンドロールで流れる"All Of The Stars"が,ただただ素晴らしい。 | ||||||||||||||||||||
(上記の内,『スパイ・レジェンド』『チャーリー・モルデカイ』は,O plus E誌には非掲載です) | ||||||||||||||||||||
() | ||||||||||||||||||||
▲ Page Top | ||||||||||||||||||||
|
||||||||||||||||||||