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O plus E誌 2013年5月号掲載
 
 
ハッシュパピー バスタブ島の少女』
(ファントム・フィルム配給)
      (C) 2012 Cinereach Productions, LLC.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [4月20日よりシネマライズ他にて全国ロードショー公開中]   2013年3月8日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  低予算だが,味のある出色のインデペンデント映画  
  待ち遠しかった映画が,ようやく公開される。今年のアカデミー賞作品賞にノミネート9作品の内,受賞作発表時には未見だった2作品の1本(もう1本は,別掲の『リンカーン』)である。作品賞の他に,監督賞,主演女優賞,脚色賞の計4部門でノミネートされたが,結果は残念ながら無冠に終わった。ただし,サンダンス国際映画祭では「グランプリ」「最優秀撮影賞」,カンヌ国際映画祭では「カメラ・ドール」「国際批評家連盟賞」「若者の視点賞」「エキュメニカル審査員賞」を受賞し,世界各国の映画祭で称賛され,数多の賞を得ている。
 様々な報道や口コミ情報が入ってきて,筆者の中では,この作品のイメージが二重像のようになっていて,しばし焦点が合わなかった。米国では昨年1月にサンダンス映画祭で上映され,その後6月にNYとLAで限定公開,その後拡大公開されている。原題は『Beasts of the Southern Wild』。サンダンスの星ともいうべき低予算作品なのに,視覚効果の専門誌Cinefexが野生動物の制作方法を取り上げていたので,気にかけていた作品だった。その一方で,『ハッシュパピー バスタブ島の少女』という邦題がつき,写真1のようなスチル画像が公開されると,何やらロマンチックなファンタジーであるかのような錯覚も生じた。
 
 
 
 
 
写真1 夢見るようなシーンでファンタジーを想像した
 
 
  実際には,ある種のファンタジーではあったが,CG巨篇でも娯楽大作でもなかった。サンダンスが起点となったように,16mmフィルムで撮影された製作費200万ドルの低予算映画である。一言で言えば「味のある映画」で,何か心に残るインデペンデント作品だった。
 舞台は,米国の南ルイジアナの地盤沈下する地域で,架空の入り江の町「バスタブ」である。世間から隔絶したこの閉鎖的なコミュニティに住む人々の生態と現実の厳しさを6歳の少女の目を通して描いている。この島の子供たちは,地球温暖化,自然界の秩序の崩壊とともに,有史以前の獰猛な野生動物オーロックスが氷河から解き放たれると信じていた。自分に予知能力があり,動物と会話ができると信じる少女ハッシュパピーを,100年に一度の大洪水が襲い,コミュニティは壊滅し,彼女の深い哀しみの後に,やがて奇蹟が起こる……。
 原作は2008年に上演されたルーシー・アリバーの舞台劇『Juicy and Delicious』とやらで,友人のベン・ザイトリンが映画化を思い立ち,ルーシーと2人で映画脚本を共同執筆するとともに,ベン自らが監督を務めた。全く無名の新人監督であるが,本作で数々の映画賞を受賞した上に,オスカー監督にノミネートされた。そして,この映画の鍵を握る主演のハッシュパピー役には,4,000人のオーディションから6歳の少女クヮヴェンジャネ・ウォレスが選ばれたが,彼女の達者な演技が,アカデミー賞主演女優賞に史上最年少でノミネートされるというオマケまで付き,話題となった。
 優れた作品であり,彼女の存在は光っていたが,いきなりアカデミー賞の監督賞,主演女優賞候補になるほどとは思えなかった。この子役は天真爛漫に演じていただけだと感じた(写真2)。独立系作品としての評価に留めておくべきを,史上最年少オスカー候補に祭り上げて騒いだのは,この業界のあざとい商業主義ゆえの出来事だろう。
 
 
 
 
 
写真2 天真爛漫ぶりは,印象的だった
 
 
  アカデミー賞よりも,当欄の関心事はSFX/VFXである。勿論,野生動物オーロックスをどうやって表現したかが焦点だが,本作の特撮予算はたったの10万ドルだったという。映画を観る限り,この巨大な野獣の毛並みは実にリアルに描かれていた。縫いぐるみ人形のコマ撮りかと思ったが,それにしては,動きもリアルであり,顔面アップのシーンは表情の変化まで描いている。いかにCG技術が進歩したとはいえ,この予算でここまで実現することは至難の業である。
 正解は,最も古典的なSFX手法であった。4匹の赤ちゃんブタに黒い毛皮を着せ(写真3),訓練して演技させたとのことだ。この子ブタたちをグリーンバックでミニチュア流撮影し(写真4),巨大な野獣に見せた上で,ハッシュパピーと合成したという訳である(写真5)。CG技術万能の時代だが,こうした伝統芸による味付けも捨て難い。 
 
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写真3 選ばれたのは,4匹の赤ちゃんブタ
 
 
 
 
 
写真4 調教師がついての撮影風景
 
 
 
 
 
写真5 ハッシュパピーに迫る野獣オーロックス(完成映像)
(C) 2012 Cinereach Productions, LLC. All rights reserved.
 
 
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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