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O plus E誌 2015年2月号掲載
 
 
KANO〜1931 海の向こうの甲子園〜』
(果子電影有限公司/ ショウゲート配給 )
      (C) 2014 果子電影
 
  オフィシャルサイト[日本語][中国語]    
  [1月24日より新宿バルト他全国ロードショー公開中]   2014年11月25日
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  素朴な熱血青春映画での,レトロな甲子園が嬉しい  
  台湾製の高校野球映画である。「知っていましたか? かつて甲子園に,台湾代表が出場していたことを」というのがキャッチコピーだが,知っていましたよ。太平洋戦争前の日本統治下であるから,台湾代表だけでなく,朝鮮や満州の代表も出場していた。厳密には,戦前は旧制で「全国中等学校野球選手権大会」である。
 上映時間は3時間10分の長尺だというので,延長18回同点引分け,再試合の連続なのかと思ったが,さすがにそれはなかった。公式戦で勝利経験がなく,部員も10数名しかいない弱小チームを,日本人監督が猛特訓して変身させ,甲子園をめざすという物語だ。いかにも映画向けのお決まりのストーリーだが,最近はハッピーエンドばかりでなく,途中挫折の映画も少なくない。ところが,本作はフィクションではなく実話であり,甲子園出場どころか,決勝戦まで勝ち進んでいる。
 時代は1929〜31年,台湾南部の嘉義市にあった台南州立嘉義農林学校(嘉農)の野球部は,初勝利以降も勝ちを重ね,晴れて台湾代表となり,甲子園出場を決める。映画は,ここまでが約半分の1時間半だ。どの程度史実から脚色しているのかは不明だが,淡々とした中にも人間味溢れる描き方で,重苦しくない。画面も明るく,好感が持て,思ったよりも長さを感じさせない。決勝戦がどうなるかは観てのお愉しみだが,終盤30分は手に汗握る熱戦だとだけ記しておこう。
 台湾映画だが,日本資本もかなり入っている。登場する日本人のセリフはすべて日本語だが,日本統治下の物語だから当然だ。『セデック・バレ』(11)の監督ウェイ・ダーション(魏徳聖),主演マー・ジーシアン(馬志翔)が1つシフトして,それぞれ製作総指揮・脚本と初監督を務めている。台湾では昨年2月に公開されて大ヒットし,台湾映画祭の大賞は逃したものの,観客賞に輝いている。主演の日本人監督・近藤兵太郎には,永瀬正敏。久々の主演作だ。彼の妻役に坂井真紀,日本人・水利技術者役で,大沢たかおが配されている。
 チームの主将,4番打者兼エースの呉明捷を演じるのは,ツァオ・ヨウニン(曹佑寧)。なかなかの偉丈夫で,現役の大学野球部選手だそうだ。甲子園決勝戦の悲劇ヒーローと言えば,古くは静岡商の新浦壽夫(巨人に入団),三沢高の太田幸治(近鉄に入団),最近ではハンカチ王子・斎藤佑樹と投げ合った駒大苫小牧の田中マー君(楽天→NYヤンキース)を思い出すが,それに負けず劣らず,マウンドに立つ姿が似合っている。そうそう,もう1人,青雲高の星飛雄馬を忘れていた。血染めのボールを隠しての熱投など,そっくりではないか。ひょっとすると,原作者の梶原一騎は呉明捷投手の逸話を知っていて,「巨人の星」を書いたのかも知れない。
 当欄で本作を取り上げるのは,意外にもVFXの出番が結構あったためだ。以下,その見どころである。
 ■ まずは,時代ものを描く常套手段として,当時の町や港が描かれるが,ここでCG/VFXが大活躍だ。古びた蒸気機関車も上出来だし,カメラを引いて大型客船を描く構図(写真1)は,『タイタニック』(97)をかなり意識している。続いて,当時の双葉機と上空から観た甲子園球場(写真2)が登場する。なるほど,甲子園の浜風は,ライトからレフトに吹くのだなと分かる。内野席を覆う大鉄傘屋根は,戦前から既に,最近拡張された銀傘と同規模だった(写真3)。一方,嘉義の街の風景(写真4)は,オープンセット+VFX加工の産物だろう。冒頭のこれだけで,80年以上前にタイムスリップさせてくれる。
 
 
 
 
 
 
 
写真1 汽船も列車も80年前の雰囲気を醸し出している
 
 
 
 
 
写真2 空から観た甲子園。右翼からは浜風だと分かる。
 
 
 
 
 
写真3 戦前の内野スタンドの大鉄傘は,最近拡張された現在の銀傘並みに大きかった
 
 
 
 
 
写真4 嘉義市内中心部は,オープンセットを組んで撮影
 
 
  ■ 甲子園球場のシーンは上記だけでなく,後半たっぷりと登場する。さすが,台湾映画史上最大級の製作費をかけただけのことはある。満員の観客席の描写(写真5)などは,VFX技術的には珍しくもないが,これだけ頻出させるには,かなりの作業量を伴っただろう。群集生成ソフトMassiveで描いたのではなく,ある一定数の観客の実写映像を何ヶ所にも貼り付けて埋め尽くす,シンプルな方法だと思う。その証拠に,静止画をよく観ると,同じ和服姿の女性があちこちに見受けられる。
 
 
 
 
 
 
 
写真5 内外野を埋め尽くす観衆は,シンプルな方法で描写
(C) 2014 果子電影
 
 
  ■ ラストは甲子園から台湾への帰路の船上シーンだが,ここでもVFXはフル稼働である。これまた『タイタニック』への意識過剰だ。少し悪乗り気味,映像的にもチープな感があるが,素晴らしい甲子園の描写に免じて,ここは目こぼししておこう。CG/VFX担当には,南台科技大学,FENIX Thailandと,日本のダイナモピクチャーズの名前があった。アジア勢のパワーだけでここまでやり遂げていることは,素直に喜ばしい。
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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