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O plus E誌 2013年9月号掲載
 
 
アップサイドダウン 重力の恋人』
(角川書店配給)
      (C) 2011 / UPSIDE DOWN FILMS - LES FILMS UPSIDEDOWN INC - ONYX FILMS - TRANSFILM INTL - STUDIO 37 - KINOLOGIC FILMS (UD) - JOUROR PRODUCTIONS - FRANCE 2 CINEMA
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [9月7日より角川シネマ有楽町ほか全国ロードショー公開予定]   2013年8月13日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  上下逆転世界は,VFXの極めて印象的な利用法  
  当初短評欄の予定だったが,締切直前に試写を観て,急遽メイン欄に格上げした一作だ。カナダ&フランス資本での製作で,他の3本のようなハリウッド大作でなかったので,少し軽視していた。SFラヴロマンスに属するが,このVFXの使い方にはぶっとんだ。物語は凡庸だが,この映像表現は当欄で紹介せざるを得ない。
 SFとはいえ,設定がとにかく斬新でユニークだ。舞台はある太陽系にある双子の惑星で,山頂同志が触れんがばかりの至近距離にあり,各惑星に引力圏には,以下の物理的法則が成立している。
 ・すべての物質は,それが生まれた世界の引力に従う。
 ・反対世界からの物質は,「逆物質」となる。
 ・逆物質に数時間接触すると,燃焼を起こす。
等々で,一見もっともらしいが,勿論いくら至近距離でも,物理的には有り得ない。それでも,この設定を最後まで守り続けて,逆転世界のルールやパラドックスをふんだんに盛り込んだファンタジーに仕上げている。
 加えて,双子の星と言いながら,「上の世界には富裕層が住み,下の世界の貧困層を搾取している」「上と下の世界の交流は,法で禁じられている」「巨大企業トランスワールド社の建物だけが両世界を繋いでいる(写真1)」という設定があり,それぞれの世界に住む男女間の禁じられた恋物語を面白くしている。支配層と被支配層をまともに上下に配置したのは,シニカルな社会的風刺と取れなくもないが,脚本自体にはさほど大きな政治的メッセージや思想的なバックボーンは感じられなかった。
 
 
 
 
 
写真1 上下の世界を繋ぐ唯一の建物がトランスワールド社
 
 
  この奇妙な着想を得て,自ら脚本・監督を務めたのは,アルゼンチン生まれで,フランス在住のファン・ソラナス。下の世界に住む主人公アダム役には,『ラスベガスをぶっつぶせ』』(08年6月号)『ワン・デイ 23年のラブストーリー』』(12年7月号)のジム・スタージェス。一方,上の世界に住むヒロインのエデン役は,『マリー・アントワネット』』(07年1月号) のキルスティン・ダンストだ。そう言えば,旧『スパイダーマン』』3部作のメリー・ジェーン役では逆さキスを経験しているし,『メランコリア』』(12年3月号)では巨大惑星が接近するのも体験積みだ。アダムの恋人役ならイヴのはずなのに,そうしなかったのは,余りにもベタだからだろうか。
 とにかく,映像が印象的だ。ほぼ全編で,相手の星の光景が逆転して空に浮かぶ景観に圧倒される(写真2)。とりわけ,暗い下の世界から見上げると,煌々と光る上の世界の夜景が,輝く星空のように見えるシーンが神秘的とさえ言える(写真3)。両世界を繋ぐトランスワールド社内部の境界階は,上下逆転したオフィスが併置されていて,笑いを誘うほどの奇妙奇天烈な光景だ(写真4)。抱き合って,互いの重力が均衡して浮遊する恋人たち2人の姿も,映画史に残るアイディアだろう。
 
 
 
 
 
 
 
 
写真2 都市の俯瞰視点も窓の外の眺めも,上下逆の奇妙な光景が登場する
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真3 暗い下の世界から見た夜空が神秘的
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真4 TW社オフィス内の上下境界フロアとその撮影風景
(C) 2011 / UPSIDE DOWN FILMS - LES FILMS UPSIDEDOWN INC - ONYX FILMS - TRANSFILM INTL - STUDIO 37 - KINOLOGIC FILMS (UD) - JOUROR PRODUCTIONS - FRANCE 2 CINEMA
 
 
 
  映像的には,コントラストを強調し,無彩色に近い画質を演出する「銀残し」の手法を多用している。ただし,本当に銀塩フィルムを使ったのではなく,実際にはデジタル撮影の後,カラー補正処理でこの画調にしたのだと思われる。CG/VFXの主担当はモントリオールのVision Globale社で,他にHATCH,BUF等の名もあった。逆にして合成するだけとは言え,VFXなしには存在し得ない作品で,印象的な利用法であった。
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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