head
title home 略歴 表彰 学協会等委員会歴 主要編著書 論文・解説 コンピュータイメージフロンティア
| INDEX | 年間ベスト5 | DVD特典映像ガイド | SFXビデオ観賞室 | SFX/VFX映画時評 |
   
title
O plus E誌 2009年1月号掲載
 
007/慰めの報酬』
(MGM映画&コロンビア映画
/SPE配給)
 
Quantum of Solace (C) 2008 Danjaq, LLC, United Artists Corporation, Columbia Pictures Industries, Inc.
オフィシャルサイト[日本語][英語]
[1月24日よりサロンパス ルーブル丸の内ほか全国松竹・東急系にて公開予定] 2008年12月11日 梅田ピカデリー[完成披露試写会(大阪)]
   
(注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)
新シリーズ第2弾も絶好調だが,少し遊びも欲しい

 公開日からすると来月号でもいいのだが,待ち切れず,書きたくなった。007シリーズ22作目にして,ダニエル・クレイグ演じる6代目ジェームズ・ボンドの第2弾である。10月末に英・仏・瑞で公開されてNo.1ヒットとなり,遅れて公開の北米でも007シリーズ最高のオープニング興収を更新している(貨幣価値と市場規模を勘案すると,4作目『サンダーボール作戦』の興収は遥かに凄まじかったらしいが)。前作が格別素晴らしかったので,期待が高まるのも無理はない。
 前作はボンドが007となって最初の任務で,初めて心から愛した女性ヴェスパーが彼を裏切り,自ら命を断った。本作は,その結末から1時間後という設定で始まり,彼女を操った闇の組織へ復讐と新たな任務遂行の狭間で葛藤するボンドを描く。即ち,まだストイックで,精神的にも若い秘密諜報員という成功イメージを踏襲している訳だ。上司のM(ジュディ・デンチ),元同僚のマティス(ジャンカルロ・ジャンニーニ),CIA捜査官レイター(ジェフリー・ライト)も引き続きの登場である。
 監督もマーティン・キャンベルの再登板かと思いきや,『チョコレート』(01)『ネバーランド』(05年1月号)のマーク・フォースターが起用されている。これは意外だった。本欄でも『ステイ』<290>(06年6月号)『主人公は僕だった』(07年5月号)『君のためなら千回でも』(08年2月号)と立て続けに紹介しているように,監督としての力量には何ら問題ないが,およそアクション大作とは無縁の正統派の監督である。 敵役には『潜水服は蝶の夢を見る』(08年2月号)の個性派俳優マチュー・アマルリック。そして,本作のボンドガールには,行動を共にするカミーユにウクライナ出身のオルガ・キュリレンコ,MI6のフィールズ諜報員に英国期待の新星ジェマ・アータートンが配された。2人ともボンドガールの水準を十分にクリアしている魅力的な美女である。
 予想通り,映画の冒頭から激しいアクションで飛ばしまくる。まずは,愛車アストンマーチンのドアも吹っ飛ぶほどのカー・アクション(写真1)。次いで,時計塔内での闘い,パナマ運河でのボート・チェイス,プロペラ機での攻防,そしてクライマックスは燃え盛るホテルの中での死闘と脱出だ(写真2)。ざっと数えただけでも前作から5割増から倍増に近いボリュームで,そのいずれもがどうやって撮影したのかと不思議に思う斬新さだ。イギリス,イタリア,チリ,パナマ,メキシコ,オーストリアでの海外ロケで,大作ゆえのゴージャスさも満喫できる。

   
写真1 ボンド・カーのドアまで吹っ飛ぶ大バトル   写真2 まさに炎の中で生身の熱演

 これがアクション初挑戦の監督の作品かと驚くが,しっかりセコンドユニット監督には,アクション撮りの専門家ダン・ブラッドリーが配されている。多数のスタント俳優を動員し,大型クレーン(写真3)を使っての空中からの撮影やワイヤーワーク(写真4)をフル活用してのものだ。そこに,英国の実力派スタジオ Double Negative,Moving Picture Co. Framstore CFC等のVFX技術が加われば,鬼に金棒だ。大半のアクションは生身で,ボートも炎も本物でも,細かな調整はVFXの力を借りているに違いない。
   

写真3 イタリアの町にこんな巨大クレーンを配備して撮影した

写真4 撮る方も撮られる方も真剣でこんなシーン(右)が出来上がる

   
 出色なのは,DC-3機の空中戦シーンだ。機体はCGでデジタル合成中心なのは言うまでもないが(写真5),息を飲んだのは,飛び降りたボンドとカミーユの落下シーンだ(写真6)。単なるDigital Doubleではこうは行かないはずだと思いつつ観ていたが,どうやらスカイダイビング訓練用の大型風洞で実際に彼らを落下させ,その動きを多数のカメラを同期させて捉えたようだ(写真7) 。演じる俳優も命がけだ。
   

写真5 機体はCG(左)で背景に実写映像を合成して出来上がり(右)

   

写真6 2人が飛行機から飛び降りるシーンには息を飲む

   

写真7 実際は風洞内で2人が落下する様(左)を多数のカメラで捉える。(右)は撮影の模様をモニタリングしている調整室。

   
 他で特筆すべきはビジュアル面のこだわりだ。Mの部屋の内装も,各地のホテルや建物の外観や室内も,デザイン的に凝りまくっている。それを何気なく見せる構図や,意図的に引いたり寄ったりのカメラワークも計算づくである(写真8)。極め付けは,オペラ「トスカ」が演じられる円形劇場(写真9)とコンピュータ・モニタと化したガラス製のパーティションだ。美術チームは,これだけのアートワークを与えられりゃ本望だろう。
 では,褒めることだらけかと言えば,そうでもない。ハイテンポのアクションは目まぐるし過ぎて,文字通り目が疲れる。人の動きもカメラ移動も速過ぎて,じっくりとアクションを楽しめず,ストーリーに没頭する余裕がない。思えば,これは監督がアクションに不慣れなせいではないか。肩に力が入り過ぎで,大局観を失っているとしか思えない。いくら素晴らしいシーンが続いても,多過ぎると観客は集中力を維持できない。名画ばかりを揃えた美術館のようなものだ。それでは息が詰まる。
 くそ真面目にリアリズムを追求するのもいいが,007シリーズなら,もう少しゆとりと遊びが欲しい。まだQとマネペニー嬢が登場して来ないのが欠点だ。彼と彼女の存在は,その遊びを与えてくれる。愛の鞭で少し辛めの評点としたが,次回作を楽しみにしたい。
()
   

写真8 この屋外セット(左)が右のように化け,ここからカメラを引いた時のとてつもないの構図と景観に息を飲む

   

写真9 このシアターの威容と舞台装飾にも圧倒される
Quantum of Solace (C) 2008 Danjaq, LLC, United Artists Corporation,
Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

   
(画像は,O plus E誌掲載分から追加しています)
Page Top
  sen  
back index next
   
   
<>br