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O plus E誌 2007年10月号掲載
 
 
パンズ・ラビリンス
(ピクチャーハウス作品/
CKエンタテインメント配給)
 
      (C)2006 ESTUDIOS PICASSO, TEQUILA GANG Y ESPERANTO FILMOJ  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [10月6日より恵比寿ガーデンシネマほか全国公開予定]   2007年6月8日 アスミック試写室(東京)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  脚本もデザインも緻密に計算された逸品  
 

 ようやくこの映画を紹介する機会がやって来た。メキシコ・スペイン・アメリカの合作映画で,それぞれの国では,2006年10月11日,10月20日,12月29日に公開されたのに,日本での公開は1年近くも待たされた。試写を観てからでも4ヶ月が経つ。既に各国の映画賞で激賞され,第79回アカデミー賞では撮影賞,美術賞,メイクアップ賞の3部門でオスカーを得ている。
 監督・脚本は,スペイン出身の鬼才ギレルモ・デル・トロだ。ハリウッド・メジャーでは『ブレイド2』(02)『ヘルボーイ』(04年10月号)が代表作だが,本作は彼が母国に戻って撮った『デビルズ・バックボーン』(01)の姉妹編に当たるという。
 1944年スペイン内戦後の暗黒の時代を描く。内戦で父親を亡くした薄幸の少女オフェリアが体験するお伽噺である。母親の再婚相手の残忍な大尉に疎まれ,悲しい現実から逃避する彼女は,ある日,妖精に森の迷宮へと誘われ,迷宮の番人パンから「あなたこそは地底の王国の姫君だ」と告げられる。それを証明するため,オフェリアはパンに与えられた3つの試練に挑む……。
「Pan」とは,ギリシャ神話の牧羊神で,ローマ神話のファウヌスに対応し,繁殖と全宇宙の神とのことだ。一方の「Labyrinth」は「迷路・迷宮」で,日本人にはピンと来ないが,何やら地下に展開する不思議な王国である感じは表題からも伝わってくる。「感涙のブラック・ファンタジー」というから,一度迷宮から地底の王国に入り込むと,「チャーリーとチョコレート工場」(05年9月号)のように,ずっとその中で様々な体験をする冒険物語を想像したのだが,映画の展開は随分と違った(その感覚に近かったのは,むしろ先月号の『アーサーとミニモイの不思議な国』の方だった)。
 この映画では,ファンタジー世界の現実の世界が交互に展開する。スペイン内戦の模様が残虐で生々しい。拳銃音がすさまじく,耳を塞ぎたくなるほどだ。なるほど,この惨い現実世界から彼女を救い出すには,地底王国の王女として戻すしかないと感情移入させるのに十分だ。同時に,この監督は,自国の忌まわしい歴史を正視して描くことを使命と感じているのだろう。
 さて,オスカーを得た美術,メイク,そしてCG/VFXの話題である。監督は特殊効果に大いなる興味をもつと聞いていたわりには,CGの利用は多くない。『ヘルボーイ』では約800シーンに使っていたから,デジタル処理が嫌いな訳ではなく,予算上の制約なのだろう。その分を特殊メイクや現場でのSFXを複合的に使い,VFXは厳選した効果的なシーンだけに使っている。
 パンの羊顔や手は特殊メイクだが,足だけはCG合成だ(写真1)。妖精に変化する昆虫(写真2),死にかけている巨木の根,そこに居座る巨大なカエル(写真3),不思議な植物のマンドラゴラ(写真4)などは,CGならではの表現である。そして一度観たら忘れないのが,手に目がついているベイルマンだ。静止画(写真5)では分かりにくいが,動画ではリップシンクならぬ手と目の同期が見事で,気味の悪さもことさらだ。地底王国の表現も当然CGの出番だ(写真6)。いずれも練りに練ったデザインに支えられている。
 CG/VFXの担当はCafe FX社で,この映画の美術造形・視覚効果に全面的に関わっている。実写とCGの合成では,光学的整合性が見事だった。地底も地上も迫力は同じで,全く違和感がなく繋がっている。
 この映画といい『アーサーと…』といい,地下に不思議な世界が広がっているというのは,いつの時代も子供たち夢を与える話である。筆者も子供の頃,自宅の床や壁の一部からそうした不思議の国への入口はないかと探したものである(あの狭い借家の薄い壁の向こうに,そんな世界があるはずはなかったのだが)。この映画は,そんなお伽噺と現実世界の悲惨さを見事に対比し,全編緻密に計算された脚本と演出で描き切る。一言で言えば「濃い映画」である。観て損はない。

 
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写真1 オフェリアを導くパン(牧羊神)は,足だけCGで置き換え(右)
 
     
 
写真2 妖精に変身する奇妙な虫はもちろんCGの産物   写真3 巨大ガエルの口に魔法の石を放り込む
 
     
 
写真4 ミルクの中でうごめくマンドラゴラ   写真5 一度見たら絶対に忘れない奇怪なペイルマン
 
     
 
 
 
 
 
 
 
写真6 地下教会風の王宮は,ご覧の通りほとんどの部分がCG合成      
(左上:スタジオでの撮影風景,右下:完成画像)
(C)2006 ESTUDIOS PICASSO, TEQUILA GANG Y ESPERANTO FILMOJ
 
   
  (画像は,O plus E誌掲載分から追加してします)  
   
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