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O plus E誌 2013年6月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『くちづけ』:シンプルな題だが,若い男女のラブストーリーではない。冒頭から機関銃のようなセリフの量と間の取り方の絶妙さに圧倒され,ただならぬ映画だと分かる。主演の1人,宅間孝行の原作・脚本による舞台劇の映画化で,彼が主宰する劇団「東京セレソンデラックス」の公演で何度も演じられ,練りに練られたセリフなのだろう。知的障害者のホーム「ひまわり荘」が舞台で,典型的なワンシチュエーション・ドラマだが,映画ではもう少し行動範囲を拡げ,回想シーンを交えても良かったかと思う。元漫画家の父(竹中直人)と知的障害のある娘(貫地谷しほり)の親子愛の物語に,涙を禁じ得ない。2人とも役者人生で最高の演技の1つだろう。監督は堤幸彦,他の助演陣の個性も光っている。面白さでは先月号の『藁の楯 わらのたて』だが,感動度では,本作が文句なく本年度の邦画No.1だ。泣ける映画の歴史にも名を残す佳作だと断言できる。
 ■『体脂肪計タニタの社員食堂』:大ベストセラーとなった同名の書は,副題が「500kcalのまんぷく定食」と付されているように,低カロリー食のレシピ本である。体脂肪計つきのヘルスメーターで名をなした(株)タニタの本社社員食堂における実際のメニューであり,そのメニューを提供する飲食店ビジネスも話題を呼んでいる。本作は,そのタニタの社員が元は全員肥満体形であり,社運を賭けたプロジェクトとして,ダイエット・メニューの考案に悪戦苦闘するという物語だ。勿論,完全なフィクションで,登場する創業者社長も息子の副社長の名前も実在の人物名ではない。この種のデブを揃えた映画は,抱腹絶倒ものであるはずだが,本作はその点でも淡泊であり,油っ気がなさ過ぎた。見どころは,主演の優香の女子高生姿だけだった。ダイエットに成功した女性という設定なので,回想シーンでのぽっちゃり体形は,特殊メイクによるもののようだ。
 ■『イノセント・ガーデン』:よくできたミステリー・タッチのサスペンス・スリラーだ。古い大きな邸宅,陰影を強調した映像,静かに迫り来る恐怖にマッチしたピアノ曲等,しっかり題材を揃えた上に,先の読めない展開で,全く結末の予想がつかない。なるほど,リドリー&故トニー・スコット監督が製作陣に名を連ね,『ブラック・スワン』(10)のスタッフが美術と音楽を手がけただけのことはある。無垢で鋭敏な感性をもつ18歳の少女役に『アリス・イン・ワンダーランド』(10)のミア・ワシコウスカ,繊細で静謐な美しさの母親役にニコール・キッドマンを配した段階で,本作のもつ洗練度が分かるだろう。この計算し尽くされた作品の監督に抜擢されたのは,『オールド・ボーイ』(03)のパク・チャヌク。初のハリウッド作品を,これだけ見事に仕上げてみせるとは,大した才能だ。
 ■『グランド・マスター』:カンフー映画史上で最も格調高い作品だろう。原題は『一大宗師』。六十四手の使い手である実在の宗師・宮宝森の後継者を巡って,陰謀,復讐,激闘が繰り広げられる。両広事変,日華事変から太平洋戦争後までの歴史の流れの中で,中国武術文化の変遷を堂々たる映像美で描く。監督は,ウォン・カーウァイ。主演は,ブルース・リーの師であった詠春拳の達人・葉問(イップ・マン)役のトニー・レオン,後継者争いに加わる宝森の娘・若梅役のチャン・ツィイーだ。この二大スターの競演は記憶になかったが,調べてみると,共に『HERO』(03年9月号)に出演していた。ただし,直接戦う訳でも,心を通わせる関係でもなかった。惹かれ合いながら対決する本作は,余りに格調が高過ぎて,面白さや爽快感は今イチだった。
 ■『はじまりのみち』:『二十四の瞳』『楢山節考』等の名作を遺した木下恵介監督の生誕100年記念作品とのことだ。前半は戦争中に病気の母を疎開させるため,同監督と兄がリヤカーに乗せて山越えしたというエピソードを映画化し,後半は木下作品の名場面集で綴るという2部構成である。この前半部の監督はアニメ界で著名な原恵一だが,初の実写作品とは思えぬ語り口で,しかも見事に木下恵介調,松竹大船調の作品に仕上げている。主演の加瀬亮,母親役の田中裕子も好演で,個性派の濱田岳の使い方も見事だった。記念作品の特別構成とはいえ,これが1時間余とは短過ぎる。もったいない。終戦後の監督として活躍する時代の舞台裏も含め,もっと本格的な映画として観たかったところだ。ともあれ,実写一般作品でも監督としての才があることは判明したので,この監督の次回作以降に期待したい。
 ■『共謀者』:表題は平凡で,何の犯罪か分かり難いが,韓国映画で臓器密売がテーマである。監督はTVシリーズで活躍していたキム・ホンソンで,これが劇場用映画の初作品とのことだ。韓国仁川発中国威海行きの客船を舞台に,船内での臓器摘出手術など,生々しい残酷な描写に息を飲む。実際にあった臓器なし死体事件をヒントに書かれた脚本だが,闇組織の支配下で動く出張外科医,運び屋の他に,税関・病院・公安当局を巻き込んだ組織的犯行という設定にも震撼する。そこまでは脚色だろうと思いつつも,実際に密売業者に取材し,韓国・中国の両国でロケを敢行しただけあって,セリフも映像描写も極めてリアルだ。主演はイム・チャンジョンで,なかなか渋い演技派俳優だ。新婚の夫サンホ役のチェ・ダニエルの黒縁眼鏡は,クラーク・ケントを思い出した。終盤,彼がスーパーマンでなく,どのように変身するかが,この映画の見どころだ。
 ■『エンド・オブ・ホワイトハウス』:締切間際に試写を観たため,掲載すべきカラー画像の入手が間に合わずに断念したが,本来ならメイン欄で語りたい作品だ。テロリストの用意周到な計画により,ワシントン記念塔が破壊され,米国大統領官邸が襲撃される様がCG/VFXで堪能できる。原題は『Olympus Has Fallen』で,主神ゼウスが住む宮殿の陥落を意味している。邦題や予告編からも,大統領が窮地に立ち,世界を震撼させる事件が起こることは予想できたが,破壊の描写は予想以上の出来だった。宇宙人の襲撃以外に,ここまでの破壊活動を試みた例はない。監督はアントワーン・フークア,主演はシークレット・エージェント役のジェラルド・バトラーで,共に製作者に名を連ねている。典型的な,ハリウッド流スペクタクルで結末は見えているが,娯楽作品としての完成度は高い。
 ■『インポッシブル』:新鋭J・A・バヨナ監督によるスペイン映画だ。2004年のスマトラ沖地震の大津波に,タイのプーケットで遭遇したスペイン人一家の実体験に基づいている。主演は,ナオミ・ワッツとユアン・マクレガー。日本在住の英国人一家という設定で,セリフは現地語を除いてほぼすべて英語だ。危機的状況の中,被災地でのスペイン語での会話はもっと大変だったことだろう。一瞬にして散り散りになった家族を捜し求める姿を切々と描くが,津波後の被災地の描写が極めてリアルだ。多くの日本人は,東日本大震災ではもっと凄惨な状況もあったことを想像しつつ,この物語の行方を凝視するに違いない。時が経てば,我が国でも数々のヒューマン・ドラマが描かれることだろう。その前に福島原発が安定していることが必要条件となってくるので,当分難しいだろうが……。
 ■『ファインド・アウト』:たった94分のスリラーだが,かったるい邦画の後に観ただけに,その圧倒的なスピード感,息をもつかせぬ語り口に,固唾を呑んだ。主演は,『マンマ・ミーア』(08)でブレイクし,『赤ずきん』(11)『TIME/タイム』(11)『レ・ミゼラブル』(12)と,出演作が相次ぐアマンダ・セイフライド。本作では,誘拐され拉致された経験をもつが,周りからは妄想と片付けられている女性を演じ,孤軍奮闘で連続失踪事件の犯人を追う。舞台は,オレゴン州ポートランド市の市街地と郊外の鬱蒼とした森で,実際にそこで撮影している。果たして妄想か,真犯人はいるのか,最後の10分前まで,結末を予想できない。この種の作品は,3~5通りの結末が用意されていて,モニタリングで評判の良かったものが選ばれているのだろう。その反面,いくつか張り巡らせてあったはずの伏線が,全部消化し切れずに終わっているという感が残ってしまった。
 ■『サンゴレンジャー』:沖縄県・石垣島を舞台にした青春ドラマで,自然破壊への警鐘,サンゴ礁保護を訴える作品である。環境省の自然保護官が「サンゴ防衛レンジャー隊」を結成するが,変身ヒーロー戦隊の元祖「ゴレンジャー」にも掛けた名称だ。冒頭の青柳翔が演じる主人公の破天荒で傍若無人の行動は,中盤は真面目な言動・描写に切り替わる。最後はヒューマン・ドラマになるなと予想できたが,結局は安直な作品だった。国会議員や開発業者がここまで典型的な敵役というのも,まるでお子様映画並みだ。サンゴ礁保護のメッセージは明らかなのだから,賛成派と反対派の攻防や,その狭間で苦悩する人々の人間ドラマを描いても良かったと思う。味のある老漁師役に夏八木勲。本稿執筆中に訃報が伝わってきた。本作が遺作では少し気の毒だが,まだ年末公開の『永遠の0』があるようだ。合掌!
 ■『スプリング・ブレイカーズ』:この種の映画評を毎月書いていると,時々何を書いていいか戸惑う映画がある。大抵は,典型的なアクション系娯楽映画か,平凡なラブストーリーだ。それなりに楽しめても,敢えて特筆することがないため,大抵の映画評論家は,個性ある異色作を好んでしまう。本作は,その意味では間違いなく異色作なのだが,紹介文に困ってしまった。主人公は4人の女子大生,舞台は陽光が眩しいフロリダだ。破目を外した春休みの行動が,極彩色と激しい電子音を伴って描かれる。退屈な大学生活に飽きた彼女ら刺激を求め,資金調達刺激のために選んだのは,何と銀行強盗! そして,ドラッグとアルコール漬けの狂乱パーティ…….こんなトンデモナイ話に感情移入できる訳はないのだが,不思議に不快感はない。さりとて,これ以上特別語ることもない。ただし,4人の若い女性達は,ブルーやピンクのビキニ姿がものすごく似合っていて,頗る刺激的だった。
 
  (上記のうち,『スプリング・ブレイカーズ』はO plus E誌に非掲載です)  
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