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O plus E誌 2001年2月号掲載
 
 
star purasu
『ザ・セル』
(ニューライン・シネマ作品
/ギャガ・ヒューマックス配給)
 
       
      (2000/12/19 ギャガ試写室)  
         
     
  ストーリーよりCF流のビジュアル重視  
   同じ製作会社,配給会社の組み合わせだが,こちらはサイコ・ホラーというか,サイコ・サスペンスという感じだ。予告編やチラシで見たときの印象ほど不気味ではない。「絶賛する人々は何度も劇場に足を運び賞賛を贈っているのに対し,この映画を受け入れられない人々は映画上映中に席を立つ」という宣伝文句ほどには,極端な作品でもない。
 向精神剤を注射した専門家が,神経転移システムで繋がれた患者の脳(精神世界)に入って行き,潜在意識下で精神障害者の感情の分布を読み取る心理療法がテーマとなっている。若い女性の猟奇殺人事件が連続し,犯人のスターガー(ヴィンセント・ドノフリオ)は突き止められるが,ウィルス性の分裂症発作を起こし昏睡状態に陥ってしまう。誘拐され生命の危険に晒されている女性の発見のため,若き心理学者キャサリン・ディーン(ジェニファー・ロペス)は,犯人の精神世界は入り込んで監禁場所を突き止める危険な実験を要請される。スターガーの異常で邪悪な精神世界に閉じこめられたキャサリンを救うため,FBI捜査官ピーター・ノバック(ヴィンス・ボーン)も同じ精神世界へ入り込む。というのが,ストーリーの概略である。
 インド出身の監督ターセムは,ミュージック・ビデオやTVコマーシャルで映像美を演出してきた異才で,これが初監督作品である。主演に歌手としても大ブレイクしたジェニファー・ロペスを起用したり,衣装デザインをNY在住の石岡瑛子に特別依頼したことからも,その好みとこだわりが伺える。ビジュアルだけでなく,音楽の使い方もCF出身らしいフィーリングだ。
 共演脇役陣は控えめだが,ビジュアル・デザインやSFX & VFXにはかなりの経費をかけていることが感じられる。この欄はVFX映画時評と改名したばかりだが,この映画に関する限り,従来のSFX技術が中心で,『インデペンデンス・デイ』(96)『GODZILLA』(98)のク`レイ・ビニーが担当している。
 特殊な神経伝達システムで互いの精神世界に入り込み,潜在意識を可視化するというアイデアは,原典『ニューロマンサー』が描いた「サイバースペース」を思い出させる。最近は,サイバースペースは何でも『マトリックス』と対比する傾向があるが,この映画の描写の方が原典に近い。「セル」というのは,この電脳精神世界への入口か脳細胞かと想像したが,これは誘拐した女性を溺死させるガラス張りのキューブで「独房」のことだった。
 このセルのガラスを割るシーンも圧巻ではあるが,この映画の見どころは,極彩色で非現実感のある精神世界の描写だろう。コスチューム・デザインにも力が入っている(写真)。数度にわたりこの精神世界へ侵入する経路のビジュアルも見せ場で,美しい。それぞれは,Amalgamated Pixels,BUF Compagnieなどのイフェクト・スタジオ毎の担当で,その表現の違いが興味深い。
 その反面,いずれもどこかで見たような映像で,夢の世界はこう描くのだというステレオ・タイプの域を出ていないとも感じられた。そういえば,河口洋一郎作品もどきの描写も見られた。マンネリとはいえ,真似されるだけ河口作品も国際的ということか。
 筆者には,この映画のビジュアルが,デザイン的にどの程度のレベルなのか評価できない。ターセム監督や石岡女史のこれまでの数々の受賞歴からすると,デザイン・オフィスやアート・スクール関係者にとっては,この映画は必見なのだろうと想像する。
 
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写真 コスチューム・デザイナの腕の見せ所
   
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