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O plus E誌 非掲載
 
 
 
プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂』
(ウォルト・ディズニー映画)
 
 
      (C) Disney Enterprises,Inc. and Jerry Bruckheimer, Inc.  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [5月28日よりTOHOシネマズ 日劇ほか全国ロードショー公開中]   2010年5月18日 TOHOシネマズ 梅田[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  大仕掛けのスペクタクルだが,驚きも感動もない  
   敏腕プロデューサー,ジェリー・ブラッカイマー製作で,ディズニー映画配給のアクション・アドベンチャー,CG/VFX満載の大スペクタクル…と聞くと,またニコラス・ケイジ主演かと想像するが,本作のプリンスはジェイク・ギレンホールだった。姉のマギー・ギレンホール共々,最近は演技派俳優としての出演作が目立っている。『ブロックバック・マウンテン』(05)の同性愛者,『マイ・ブラザー』(10年6月号)の前科者の弟役など,印象深い好演が続いていた。単純明快なヒーロー役として主演を務めるのは,『デイ・アフター・トゥモロー』(04年7月号)以来だろうか。
 舞台は古代ペルシャ。といっても,時代は特定されていないが,紀元前3, 4世紀のことなのだろうか。話の発端は,スラムに育った少年ダスタンの勇気ある行動が国王の目に留まり,彼は養子として迎え入れられ,ペルシャ帝国の第3王子となる。それから15年後,アラムート国への侵略,王の暗殺,暗殺軍団ハッサンシンとの戦い等々が展開する。副題の「時間の砂」とは,時間を戻し,過去を変えることができるという秘密の物質で,その争奪戦が物語の鍵という設定だ。まぁ,ストーリーは有って無きがごとしで,おきまりのヒロインの救出,悪漢との壮絶な戦いを描く,お決まりのアドベンチャー・ムービーだ。このテーマのアクションゲームは,1989年にAppleII用のソフトとして登場し,その後いくつものゲーム機に移植され,2004年に登場したPS2用のものがこの映画のベースとなっているという。何だ,ゲーマー世代を狙った作品なのか。それじゃ,この程度の物語であっても納得できる。
 監督は『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』(05年12月号) のマイク・ニューウェル。ヒロインのタミーナ王女を演じるのは,ジェマ・アータートン。『007/慰めの報酬』(09年1月号)のMI6諜報員役ではそこそこ魅力的に見えたのに,前作『タイタンの戦い』(10年5月号)の女神イオとしては全く魅力を感じなかった女優である。本作でも,およそ「傾城の美女」には見えない。それが,この映画自体の魅力を減じていると言えなくもない。国王の弟ニザム役には,『エレジー』(09年2月号) 『シャッター アイランド』(10年4月号)のベン・キングズレー。善人役は似合わないが,途中から予想通りの敵役の正体を表わす。この悪人面では,ネタバレにはならないだろう。
 勧善懲悪はいいとしても,都合良く時間を戻して,最後は兄弟みんな仲良くとは恐れ入る。J・ギレンホールは近い将来オスカーを狙える器なのに,こんな能天気な映画に出ていていいのかと苦言を呈したくなる。ゲーム世代の青少年は,この程度の映画を楽しく観るのだろうか? 観客層の好みを読み抜いているブラッカイマーも,流石にヤキが回ったのかと思える一作だ。
 製作費は約2億ドルというだけあって,CG/VFX的には超大作である。まずは,ペルシャの城の威容(写真1)に少し圧倒される。いや,CGのポリゴン数に圧倒された言った方が正しい。カメラ固定ならマット画かと思ってしまうが,しっかりとカメラワークがつけられている。城から眼下に見える街の様子も克明に描かれているから,一軒々々丁寧にモデリングし,レンダリングしたのだろう。最近のVFXとしては驚くほどではないが,大作らしい雰囲気を醸し出すことには成功している。市場でのチェイス・シーン,攻め入るアラムートの城や街,守護神の彫像(写真2),両軍の戦い等もVFXのオンパレードだ。モロッコで長期ロケをしたというが,砂漠のシーンも実景そのままではなく,かなりの加工が加えられていると見て取れた。
 
   
 
写真1 まず,この宮殿と街のスケールに圧倒される
 
   
 
 
 
写真2 この種のVFXは,まだまだ序の口
 
 
 
   VFX担当は,Double Negative,Moving Picture Co., Framestore, Cinesite等の実力派の英国勢だ。となると,これくらいのVFXは朝飯前だ。この程度では済まないなと思っていたら,後半さらにスケールアップしたVFXが堪能できた。その1つは「時間の砂」によって引き起こされる時間逆行シーンである。単なるフィルムの逆回しではない。途中で時間を止め,アングルを変えてカメラが回り込む(写真3)。『マトリックス』(99)のマシンガン撮影をもっと大掛かりにし,カメラワークの自由度を向上させているようだ。もう1つは,宮殿の地下で繰り広げられる主人公と敵役の戦いのシーンだ。砂が流れ落ち,溶岩が流れ込み,スケールの大きな一大エフェクトである(写真4)。この規模が大きければ大きいほど,何で地下にこんな空間があるのだと不思議に思い,絵空事であることが強調される。    
   
 
写真3 時間逆行シーンは,長時間露光で撮影しているので,光の軌跡がよく見える
 
   
 
 
 
 
 
写真4 地下でここまでのスケールの空間やアクションが登場すると,むしろ絵空事に感じてしまう
(C) Disney Enterprises,Inc. and Jerry Bruckheimer, Inc.
 
   
   最新VFX技術で映像のリアリティは上がっても,人間が全く描けていない。映画は非日常体験がウリとはいえ,こんなゲーム感覚だけでは空しさだけが残る。そこには驚きも感動もない。VFX担当者は,絵コンテ通り,PreViz通りに制作することだけを要求されたのだろうが,完成した映画を観て,何を感じただろうか?
 この記事は,公開後に初公開週の興行成績を観てから書いている。公開週と翌週の週末成績は,北米で3位と4位,本邦で2位と6位という成績だった。製作費,宣伝費を考えれば大惨敗と言える結果だ。映画ファンはブラッカイマー氏の思惑通りに映画館に足を運ばず,彼の神通力にも翳りが見え始めたということか。同氏がプロデュースするディズニー作品は,すぐ後にもう1本控えている。8月13日公開(米国では7月16日公開)の『魔法使いの弟子』だ。こちらは,お馴染みのニコラス・ケイジ主演だ。名誉挽回なるかどうか,けだし見ものだ。 
 
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