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O plus E誌 2005年12月号掲載
 
 
『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』
(ワーナー・ブラザース映画 )
 
     
(C)2005 Warner Bros. Entertainment Inc.
Harry Potter Publishing Rights (C) J.K.R.
 
       
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2005年10月31日 梅田ピカデリー[完成披露試写会(大阪)]  
  [11月26日より丸の内ピカデリー1ほか全国松竹・東急系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  4作目はボリュームたっぷりのフルコースで,満腹!  
 

 今月は少年少女向きばかり3作品だが,そのトップバッターは,世界中のポッタリアン待望の第4作目だ。毎年1作の製作予定が,3作目で半年遅れ,この4作目でも半年遅れて,恒例の感謝祭シーズンの公開に戻った。現在,原作の英語版は第6巻,邦訳は第5巻まで進んでいる。
 監督は,2作目までのクリス・コロンバス,3作目のアルフォンソ・キュアロンに変わって,『フォー・ウェディング』 (94) 『モナリザ・スマイル』 (03) のマイク・ニューウェルがメガホンをとる。主要キャストは同じだが,ハリー達と魔法の対抗戦を戦う他校の少年少女や,ホグワーツ校の新教授マッド・アイ・ムーディ役のブレンダン・グリーソンが重要な役割を演じる。そして,素顔を表わした宿敵ヴォルデモート卿には,『レッド・ドラゴン』 (02) のレイフ・ファインズに決まった。なるほど,彼ならはまり役だ。
 この第4巻から邦訳本が上下2分冊に分かれたことから,映画もかなりのボリュームになることが予想されたが,案の定エピソードは盛り沢山,スペクタクルの連続で疲れることこの上ない。一点残さずフルコースを平らげた満腹感だ。上映時間そのものは,第1作目から2時間半前後を保っているから,原作が長くなった分だけ各エピソードを端折って,重要イベントを無理やり詰め込んでいる感じだ。
 まず,世界中の魔法使いが集まるクィディッチのワールドカップ決勝戦。この競技場にもアトラクションの派手さにも度肝を抜かれる。ゴージャスそのもので,オリンピックの開会式がかすんで見える。原作では,この決勝リーグの試合が延々と続くらしいが,映画はそれを大幅カットすることで,ようやく時間的制約を守っている。
 この第4巻の主題は,数百年ぶりに開催される三大魔法学校の対抗試合だ。「炎のゴブレット」(写真 1)が選び出した各国の代表選手が,勇気と知力を振り絞って魔法競技の3つの課題を競い合う。さらに,その間に催されるクリスマスの舞踏会の模様が見どころ満載で繰り広げられる。すごいボリュームで堪能するが,何やら散漫で,映画としては前作の方がずっと面白かった。

     
 
 
 
写真1 これが青い炎で燃えるゴブレット
(C)2005 Warner Bros. Entertainment Inc. Harry Potter Publishing Rights (C) J.K.R.
 
     
 

 どう考えても,この中身は子供には長過ぎるし,大人でも消化し切れない。第5巻の『不死鳥の騎士団』はもっと厚いから,もはや2時間半に押し込めるのは断念すべきだと思う。今でも4時間近い内容を無理に圧縮しているのだろうから,むしろ各100分間の上下2作品に分割して,後半を3ヶ月後くらいに公開した方が,安心してじっくり楽しめるというものだ。
 CG/VFXはというと,1作毎に充実度を増し,質・量ともに文句の受けようがない出来になって来た。以下,その要点である。
 ■ まず,ホグワーツ校からクィディッチW杯の競技場周辺は,CGならではのスケールの大きい光景で迫ってくる。最近はどの大作も『ロード・オブ・ザ・リング』の影響を受けている。塔の上から真っ逆さまに見下ろすカットなど,制作者達も意外なカメラワークを演出している。W杯の開会式のスペクタクル映像は素晴らしい。このシーンのデザインは,さぞかし楽しかっただろう。
 ■ 空に浮かぶ魔王ヴォルデモートの髑髏マーク,対抗戦に空からやって来たボーバトン校の天馬が引く馬車,一方湖水の中から登場するダームスラング校の巨大な帆船……,CG/VFXならではの素晴らしいシーンが次々と登場する。映像的には完璧だ。
 ■ 第1の課題のドラゴンの卵をめぐる争奪戦,第2の課題の愛する者を湖から助け出す水中戦,いずれも迫力十分で手に汗握る。火を吹くドラゴン(写真 2)や水魔(写真 3)などのクリーチャーも,そつなく仕上がっていて悪くない出来だ。

     
 
写真2 最初の関門は,火を吹くドラゴンとの対決   写真3 第2の課題は水中救出で,水魔が襲ってくる
 
 
(C)2005 Warner Bros. Entertainment Inc. Harry Potter Publishing Rights (C) J.K.R.
 
     
 

 ■ 第3の課題の現場となる巨大迷路(写真 4)は少し描き方に苦労した感がある。原作に忠実にと努力したのだろうが,ビジュアル的にはもう一工夫欲しかったところだ。それに対して,ハリーが勝ち残り一転してワープした先の墓場のシーンの不気味さは秀逸だ。この作品の暗さ,悪の権化ヴォルデモートの得体の知れない恐ろしさがよく表われている。鼻がないヴォルデモートの面相も,勿論デジタル処理ゆえの産物だ。

 
     
 
 
 
写真4 最後の第3の課題は,この巨大な迷路
(C)2005 Warner Bros. Entertainment Inc. Harry Potter Publishing Rights (C) J.K.R.
 
     
 

 ■ 魔法の杖を使ったハリーとヴォルデモートの対決は,誰が観てもダース・ベイダーとのライト・セイバーでの戦いだ(写真 5)。ここまでくるとオマージュを通り越して,サービスカットかと思えてくる。誰しも先々はハーマイオニーはハリーと結ばれると思ったのに,どうやらロンと意識し合う関係になって来た。おいおい,最終作でハーマイオニーは実は妹で,ヴォルデモートが「私はお前の父親だ」なんて言い出さないでくれよ。
 ■1年遅れが影響して,ロンはますます長身になり,とてもイタズラ小僧に見えなくなってきた。監督も苦労して,ハリーと2人が立って並ぶシーンはなく,徹底して身長差を見せない構図にで誤魔化している。一方のハーマイオニーは原作の印象よりもよりもずっと可愛かったのだが,舞踏会でドレスアップしたシーンでは,その美しさにハッとさせられる(写真 6)。

 
     
 
写真5 ライト・セイバーで宿敵と対戦?
いや違います。
 
写真6 成長したハーマイオニーの美貌にドッキリ!
 
(C)2005 Warner Bros. Entertainment Inc. Harry Potter Publishing Rights (C) J.K.R.
 
     
 

 ■VFXの主担当は勿論ILMだが,最近絶好調の英国勢Framestore CFC, Cinesite Europe, Moving Picture Co., Double Negativeらが勢揃いし,仏国からBUF,豪州からRising Sun Picturesまでが参加し,相当なカットを担当している。これなら万全の態勢で,とても10年前では創り得なかった映像を堪能させてくれる。話は前作よりも数段劣るが,本欄としては評価を☆☆☆とせざるを得ない。
 ■ これだけしっかりした最新技術がフォローしてくれるなら,原作者は自由自在にストーリーが展開できる。ほぼ同時進行ゆえ,原作者もどう映像化できるかは意識しているはずだ。J・K・ローリングさん,あなたも今やプロの作家で,映画化権でもしこたま儲けたのなら,もう少しコンパクトな原作にして欲しい。脚本家も監督も苦労し,世界中のハリポタ・ファンもその長さには辟易しているのだから。

 
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