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O plus E誌 2010年4月号掲載
 
 
 
シャッター アイランド』
(パラマウント ピクチャーズ)
 
 
      (C) 2009 by PARAMOUNT PICTURES  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [4月9日よりTOHOシネマズ スカラ座ほか全国ロードショー公開予定]   2010年3月4日 東宝試写室(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  生真面目な巨匠が描いた本格派のミステリー  
   よほど馬が合うのだろう。マーティン・スコセッシ監督がレオナルド・ディカプリオを主演に据えての4作目である。ティム・バートン監督とジョニー・デップ,スティーヴン・ソダーバーグ監督とジョージ・クルーニー,リドリー・スコット監督とラッセル・クロウのコンビに匹敵する頻度だ。同じ監督が同じ主演俳優で何度も撮るのは,相当相性がよく,俳優側にもその期待に応えるだけの演技力が備わっているからに違いない。
 1作目の『ギャング・オブ・ニューヨーク』(03年2月号)は巨匠入魂のニューヨークもの,2作目の『アビエイター』(05年4月号)は飛行機王ハワード・ヒューズの生涯を描いた堂々たる大作だった。アカデミー賞では,それぞれ10部門,11部門にノミネートされ,作品賞の本命と目されたが,前者は無冠,後者は助演女優賞等5部門の受賞に留まった。3作目の『ディパーテッド』(07年2月号)は香港映画『インファナル・アフェア』(02)のリメイクで,さしたる作品とは思えなかったのに,作品賞・監督賞で念願のオスカーを得た。『バベル』(同4月号)や『硫黄島からの手紙』(06年12月号)の方が秀作であったのに,前2回の埋め合わせとしか考えられない受賞であった。
 さて,本作はと言えば,当初昨年10月上旬公開予定が,米国では本年2月19日公開,日本では4月9日公開に延期された。この時期の公開ではアカデミー賞には結びつかないから,もはや賞へのこだわりはなくなったということか。内容的にはヒッチコックばりのミステリーというから,やはり肩の力が少し抜け,この生真面目な監督にも遊び心が出て来たのではないかと思われる。
 原作は「ミスティック・リバー」の著者デニス・ルヘインの同名小説で,「Shutter Island」とは「閉ざされた島」の意である。精神疾患をもつ犯罪者の収容施設がある孤島というので,何やら横溝正史の「獄門島」を思い出してしまう。もっとも獄門島は孤島ではあっても普通の生活は営まれていたから,監獄だけの島はずっと異様な環境設定だと言える。当然,レオ様は金田一耕助ばりの主人公探偵役で,不可解な事件が起きたこの島を捜査するためやって来た連邦捜査官として登場する。いや,今やレオ様などと呼ぶのは失礼で,甘ったるいイケメン男優ではなく,すっかり貫録がついた大人の顔になり,堂々たる演技を見せてくれる。上記スコセッシ監督作品でめきめきと実力をつけ,他監督の『ブラッド・ダイヤモンド』(07年4月号)や『ワールド・オブ・ライズ』(08年12月号)でも好演・熱演している。
 物語は本格ミステリー大作と呼ぶに相応しい緻密な計算と迫真の描写力で迫ってくる。回想シーン,精神病者ゆえの妄想に加え,薬による幻覚も加わり,摩訶不思議な描写が続く。何が現実なのか見極めてごらん,という監督からの挑戦だ。結末はネタバレになるので書けないが,ずっしりと見応えのあるエンターテインメントであり,もう一度観たくなる類いの映画だ。
 さて,この映画のVFXはと言えば,約650ショットもあるという。担当は,The Basement,CafeFX,New Deal Studiosの3社で,それほど斬新ではないが,目立たないシーンを確実にこなしているという印象だ。まず,1952年のボストンの街,切り立った断崖に囲まれた島の外観,収容所内のC棟などは,一般観客は全く気にしないインビジブル・ショットだろうが,映画関係者ならVFXの産物だなとすぐ分かる代物だ。実際,崖のシーンは何度も登場する(写真1)。崖の上から,下から,そして俯瞰した構図など,ディジタル合成ゆえの自由自在のカメラアングルをとっている。大きな役割を果たす灯台も,多分本物は存在せず,ミニチュア撮影とCGによる描写かと推測する。こうしたシーンは,今やVFXにより相当なコストダウンが図れているはずだ。
 
   
 
 
 
写真1 島の断崖絶壁シーンの大半はVFX合成(上:撮影現場,下:完成映像)。灯台自体がCGだろう。
 
   
   L・ディカプリオ演じる捜査官が夢で妻と再会するシーンでは,紙が舞い,黒い葉が多数落ちてきて(写真2),さらには部屋中が炎で包まれる(写真3)。すぐにCGと分かるシーンだが,特筆する出来映えではない。それに対して,彼が崖で遭遇する多数のネズミはとてもリアルだった。どう見ても本物っぽいが,あれだけの多数となるとCGでしかあり得ない。その点だけが疑問に残っていたが,来日したディカプリオの記者会見を聞いて疑問は氷解した。よく訓練されたネズミが50匹ほどいたそうだ。  
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写真2 悪夢のシーンゆえに,色調も変えてある(上:撮影素材,下:完成映像)
 
   
 
 
 
 
 
写真3 今やこの程度の炎は簡単にCG合成できる(上:撮影素材,下:完成映像)
(C) 2009 by PARAMOUNT PICTURES. All Rights Reserved.
 
   
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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