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O plus E誌 2010年2月号掲載
 
 
 
コララインとボタンの魔女 3D』
(ギャガ配給)
 
      (C) Focus features and other respective production studios and distributors.  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [2月19日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズ他全国3D公開予定]   2009年12月8日 ギャガ試写室(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  こちらも3D,別の意味での記念碑的作品  
   続いてこの映画も3D作品だが,かなり趣きも意義も違う。人形劇のストップ・モーション・アニメ(以下、SMAと略す)として初の3D作品なのである。こちらも撮影に4年かけたという意欲作だ。SMA作品は,根気よく1コマずつ人形を動かして時間をかけるのは当たり前だが,3D映像での見え方を考慮した撮影となると,さらに時間がかかり,撮り直しもしばしばだったことが容易に想像できる。それゆえに価値ある記念碑的作品なのに,当初日本での配給予定がなく,ヤキモキさせられた一作である。米国公開は昨年の2月5日,欧州諸国でも夏前には公開され,好評を得ていたのに,日本だけが取り残されていた。1年遅れでも,ギャガ配給で公開の運びとなったことは素直に喜ばしい。
 あの名作『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(93)の監督の作品という触れ込みだが,巷間知られるティム・バートンのことではない。T・バートン自身もSMAが専門で,『ティム・バートンのコープス ブライド』(05年11月号)を監督しているが,『ナイトメアー…』は原案・製作だけだった。同作品で監督に指名されたのは,カリフォルニア芸術大学のクラスメートで,ディズニー・スタジオでの同僚だったヘンリー・セリックである。最も信頼するに足る同僚であり,SMAの撮影・演出ではむしろ腕が上と見込まれての起用だったようだ。
 名作の映画化なのだろうと想像するが,原作は意外に新しく,2002年に出版された児童文学で,ヒューゴー賞,ネビュラ賞,アメリカ図書館協会ベストブック賞(ヤングアダルト部門)等,数々の賞に輝いている。そこに目をつけての映画化かといえば,そうではなく,原作者のニール・ゲイマン自身がSMA化を熱望し,出版前からヘンリー・セリック監督に原稿を送ってアプローチしたといういわく付きである。
 コララインはヒロインの少女の名で,両親と共に転居してきた町で,ネズミに導かれ古く大きなアパートを探検中に,小さな扉の向こうにあるパラレルワールドに迷い込む。そこには,心踊るサーカスやミュージカル,花が咲き誇る美しい庭があり,優しくコララインの願いを聞いてくれる別のパパとママがいた。不思議なことに,この魅惑的な別世界の住人たちの目は,すべてボタンだった(写真1)。コララインは毎夜この別の世界に出かけて冒険を楽しむが,そこには恐ろしい罠が待ち構えていた……。
 
   
 
写真1 別の世界のママの目はボタンだった
 
   
   ジャンルとしては,パラレルワールドを描いたダークファンタジーに属する。扉の向こうや地下に不思議な世界が存在するのは,子供心をくすぐる定番の設定だ。この数年間だけでも『アーサーとミニモイの不思議な国』(07年9月号) 『パンズ・ラビリンス』(同10月号) 『センター・オブ・ジ・アース』(08年11月号)を思い出す。先月の『かいじゅうたちのいるところ』『Dr. パルナサスの鏡』もその範疇に分類できるだろう。
 こうしたファンタジー世界を描くのに,CG/VFXが威力を発揮するのは言うまでもないが,カラフルで質感たっぷりのSMAで描き,しかも3Dというのは,むしろ贅沢な試みだ。この映画でそれを強烈に感じるのは,過去のどのSMAよりもデザインがしっかりとしていて,セットが豪華であり,人形の表情が豊かなことだ。ミニチュアセットの数は130, コララインの人形は28体,衣装は9着作られている。『ナイトメアー…』のジャックの表情は15通りだったのに対して,コララインの表情は207,336通り,ママは17,533通りが可能だ。ネズミのサーカスのシーン(写真2)でのネズミは61匹,撮影に66日かけたという。
 
   
 
写真2 この数のネズミも,一匹ずつ全部手作り
 
   
   この作品のキャラクターやセットのコンセプトデザインに,日本人イラストレーターの上杉忠弘氏が起用されたというのが嬉しい。彼の洒落たデザインをもとに,丁寧に作られた人形やミニチュアセットがこの映画の最大のウリであり,撮影風景のメイキング映像を観るだけでも楽しい(写真3)。その実写撮影に加えて,亡霊はCGで,背景はデジタルマット画を付加するなど,VFXの力も借りている。2つの世界で色調を使い分けているのも,勿論意図的だ(写真4)。衝撃度は『ナイトメアー…』,感動の度合いは『…コープス ブライド』の方が上だが,ビジュアル面では本作品の方が圧倒的に進化している。  
   
 
 
 
 

写真3 模型の大きさなど,メイキング・シーンを観るのも楽しい 

   
 
 

写真4 (左)殺風景で寒々とした現実世界,(右)暖かい色調のもう1つの世界 

   
   本邦での2D試写会の前に,昨年夏のSIGGRAPHで3D版の特別上映を観ていた。内容はダークでも,明るいプロジェクタだったので好感がもてた。並みいるフルCGアニメに比べて,さすがに質感は抜群で,立体感もかなりあったと記憶している。いま想い出せば,立体感が少し強過ぎたようにも思う(写真5)。ミニチュアの3D撮影となると計算通りには行かず,まだまだ試行錯誤の余地は残っているのだろう。それでも,ブームとはいえ,SMAの3D映画がこんなに早い時期に製作されたことは称賛に値する。『アバター』と並ぶ記念碑だ。  
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写真5 質感はあるが,この飛び出し感はちょっとやり過ぎ?
(C) Focus features and other respective production studios and distributors.
 
     
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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