head
title home 略歴 表彰 学協会等委員会歴 主要編著書 論文・解説 コンピュータイメージフロンティア
| INDEX | 年間ベスト5 | DVD特典映像ガイド | SFXビデオ観賞室 | SFX/VFX映画時評 |
title
 
O plus E誌 2009年8月号掲載
 
 
『ナイト ミュージアム2
(20世紀フォックス映画)
      (C) 2009 TWENTIETH CENTURY FOX
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [2009年8月13日よりTOHOシネマズ日劇ほか全国東宝洋画系にて公開予定]   2009年6月11日 厚生年金会館芸術ホール[完成披露試写会(大阪)]
 
         
   
 
purasu
マーシャル博士の恐竜ランド』

(ユニバーサル映画
/東宝東和配給)

      (C) 2009 Universal Studios
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [2009年9月18日よりTOHOシネマズ有楽座ほか全国東宝洋画系にて公開予定]   2009年7月2日 TOHOシネマズ梅田[完成披露試写会(大阪)]
 
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  楽しさ満載のはずが,欲張り過ぎて消化不良気味  
 

 夏から秋にかけて公開されるファミリー向けの冒険映画を2作まとめて紹介する。いずれもコメディタッチで屈託のない物語であり,『ハリー・ポッターと謎のプリンス』ほど構えて観る映画ではない。
 『ナイト ミュージアム2』は,表題通りベン・スティラー主演で大ヒットした前作(07年3月号)の素直な続編だ。前作はニューヨークの自然史博物館を舞台に,夜になると魔法の力で展示品たちが甦り,大騒動を起こすという設定だった。夜間警備員のラリーが恐竜の骨に追いかけられるシーンをはじめ,CGのパワーも全開で楽しい作品に仕上がっていた。歴史上の人物の恋をする設定もダメ親父が息子の信頼感を得る物語も良かった。
 この続編でも,監督のショーン・レヴィと主演のベン・スティラーのコンビは続投である。前作で活躍したロビン・ウィリアムズやオーウェン・ウィルソンが再登場するのも嬉しい。ヒロインには『魔法にかけられて』(08年3月号)のジゼル姫でブレイクしたエイミー・アダムスを起用している。アメリア・イアハートという役柄は日本人には馴染みがないが,女性として初めての大西洋単独横断飛行に成功した女性飛行士だそうだ。
 原題は『Night at the Museum: Battle of the Smithsonian』で,舞台を首都ワシントンのスミソニアン博物館に移している。ラリーはもはや夜間警備員でなく,アイディア商品がヒットして大実業家として成功を収めている。魔法の石版の不思議なパワーで世界最大の博物館の展示品に生命が与えられる設定は同じで,今度はどんな趣向が凝らされるのかが楽しみだった。ちょっと予告編を観ただけでも,あの大きなリンカーンの彫像が歩き出し(写真1),ロダンの「考える人」が話をしている(写真2)。何とあのダース・ベーダーまでも登場するようだ。

   
 
写真1 あの大きなリンカーンの像が歩き出す 写真2 考える人がヴィーナスに話しかける
   
 

 実際の映画はもっと盛り沢山で,米国史からカスター将軍,アル・カポネ,ライト兄弟を登場させるだけでは気が済まず,フランス皇帝のナポレオン,ロシアのイワン雷帝,古代エジプトのファラオまでも甦らせてしまう。そりゃそうだ,スミソニアン博物館の展示品対象なら,何だってある。『スター・ウォーズ』のダース・ベーダーや『セサミストリート』のオスカー・ザ・グラウチまでがカメオ出演するのは,この2つが収納品だからだ(写真3)。こうなりゃ何でもありで,いくらでも面白くできる。その期待感からか,北米公開週には『ターミネーター4』(09年7月号)を抑えて興収No.1の座をゲットした。

 

 
 
写真3 この2人もカメオ出演  
 
   
 

 その何でもありを支えるVFXの主担当は,前作に引続きRhythm & Hues社で,他にCafe FX,Moving Picture Co., Drac Studio, Image Engine等の名前もクレジットされている。VFXの活躍も縦横無尽で,ジオラマ,アニマトロニクス,CGを好きなだけ使い分け,こちらもやりたい放題だ(写真4)。VFXスーパバイザはさぞかし楽しかったことだろう。壁の絵の中身が動き,現代彫刻も暴れ回る。考える人は今イチだったが,飛び回る天使の像はまずまずの出来で,リンカーン像の登場シーンは期待通りだった。少しぎこちない動きにして,彫像の重量感をうまく演出している。とりわけ素晴らしかったのは,巨大タコの質感と動きだ(写真5)。かなりのアップにも耐えるこの質感の表現には,多層のマッピング処理と光沢付与を施しているのだろう(写真6)
 筆者のお気に入りのエイミー・アダムスは可愛いし,とにかく贅沢な映画だ。その贅沢さを少し持て余している。映像も物語も騒々し過ぎる。ギャグもアメリカ人には面白いのだろうが,我々には通じない。途中で少しペースダウンし,笑いはタイミングよく入れた方が効果が高い。スミソニアンの展示も,もう少しじっくり見せて欲しかったところだ。さて,次作はどうする? 海を渡り,大英博物館にでも行くしかないか。

   
 
写真4 視覚効果はやりたい放題  
 
   
 
写真5 動画で観るとこの巨大タコの動きが生々しい 写真6 アップに耐える質感の表現も見事
 

(C) 2009 TWENTIETH CENTURY FOX

 
   
  徹底したB級の言わば『俺たちタイムトラベラー』
 
 

 もう1本の『マーシャル博士の恐竜ランド』は,ウィル・フェレル主演のコメディで,こちらは70年代の人気TVシリーズの映画化作品という触れ込みだ。公開はまだ先なので来月号でも良かったのだが,『ナイト ミュージアム2』と比べて論じてみたくなったので,1ヶ月早く取り上げることにした。
 原題は『Land of the Lost』。そのままカタカナ表記では通じないので邦題をつけたのだろうが,それにしてもツマラナイ題にしたものだ。いかつい醜男とありきたりの恐竜を描いたポスターにこのセンスのない題では,一体誰が観に来るというのか? わざわざ客足を遠のかせるようなものではないか。この徹底したB級コメディ,お馬鹿映画を気に入った筆者は,見るに見かねて応援演説することにした。
 というのは,主演男優のウィル・フェレルのことだ。アメリカでは絶大な人気を誇るコメディアンらしいが,日本での知名度は低い。米国の長寿深夜番組「サタデー・ナイト・ライブ」で物真似芸を披露し,人気を博したという。彼の主演作を観たのは,ニコール・キッドマンの相手役を演じた『奥さまは魔女』(05年9月号)が最初だった。続く『主人公は僕だった』(07年5月号)も映画は悪くなかったが,両作品とも彼はミスキャストであるかのように書いている。ところが,抱腹絶倒の『俺たちフィギュアスケーター』(07年12月号)を観て評価が一変した。いやぁ,この映画は面白かった。
 2匹目のドジョウを狙った『俺たちダンクシューター』(08年8月号)は映画そのものが今イチだったが,彼の個性は生きていた。劇場未公開の『俺たちニュースキャスター』(04)もDVDでは発売されている。ならば本作は,なぜ『俺たちタイムトラベラー』と題さなかったのか。それが残念でならない。
 この映画の監督は,『キャスパー』(95),『レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語』(05年5月号)のブラッド・シルバーリング。シリアス系もコメディも両刀使いの監督だ。ウィル・フェレルが演じるのは,タイムワープの可能性と異次元世界の存在を研究している量子古代生物学者のリック・マーシャル博士。この専門分野の名称からしていかがわしい。その彼の学説の唯一の理解者である才媛ホリーには『タイムライン』(04年1月号)のアンナ・フリエルだが,助演のダニー・マクブライド共々地味な存在だ。
 さて,博士が怪しげなタイプワープ装置を完成させ,辿り着いた先は荒涼たる砂漠だった(写真7)。いや,単なる砂漠ではなく,あらゆる時代,あらゆる事物が混在しているという摩訶不思議な世界だ。空に大きな月が3つも見える。もうここまででB級テイストは溢れている。この異次元世界に,類人猿,トカゲ男,恐竜が次々と登場する。こちらは贅沢な何でもありの世界ではなく,チープでリアリティが乏しい未来世界である。

   
 
写真7 タイムスリップした先は,荒廃した未来  
 
   
 

 この類人猿のチャカとスリースタック族なるトカゲ男の出で立ちが,何ともはや大時代な着ぐるみだった(写真8)。恐らく,35年前のTVシリーズに登場したキャラなのだろう。このチープ感は完全に計算づくである。デカイ目玉のスリースタックは,次第に愛らしく見えてくる。映画の雰囲気や展開は『センター・オブ・ジ・アース』(08年11月号)にも似ているが,ぐっと笑わせる。

   
 
写真8 後ろに控えしは少し滑稽なトカゲ男たち  
 
   
 

 主たる恐竜は,お馴染みのT-レックスなのだが,これが実によくできていた(写真9)。「『ジュラシック・パーク』以来のド迫力の恐竜」というキャッチコピーもあながち誇張ではない。その後のCG/VFX技術の進歩を考えれば想定の範囲内の出来映えだが,それでも尻尾の動き,口の中の描写などは見事だった。マーシャル博士がT-レックスの背に飛び乗るシーンも,評判通りよくできていた。結構難しい合成シーンである。小さな多数の恐竜や空を飛ぶ翼竜なども描かれていた。

 

 注意して欲しいのは,このVFXの主担当は『ナイト ミュージアム2』と同じRhythm & Huesということだ。片や大型製作費を投じた期待の続編であり,こちらは一見低予算のB級作品である。それでいて,CGの登場場面はしっかり実力スタジオを配している。☆☆☆からスタートして徐々に減点した話題作と,期待せずに観たB級作品,結果としての総合評点は同じである。 

  ()  
 
 
 

写真8 T-レックスは,口内と尻尾の動きに注目
(C) 2009 Universal Studios. All Rights Reserved.

 
   
  (画像は,O plus E誌掲載分を入替・追加しています)  
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next
 
     
<>br