米国では昨年の感謝祭休暇に公開され，2週連続Box Office No.1ヒットとなったファミリー映画だ。筋書きは他愛もないが，ディズニーランド大好き，ミッキーも白雪姫もピーター・パンも大好きで，ディズニー・ワールドに憧れるディズニー・フリーク達が随喜の涙を流す映画である。原題は「Enchanted」。「enchant」には「魔法にかける」「魅惑する」という2つの意味があって，映画では両方の意味を含ませている。「魅せられて」ではジュディ・オングの歌になってしまうから，この邦題にしたのは大正解だ。もうこれだけで，お伽噺の世界に入ってしまいそうな気分にさせられてしまう。
　物語は「アンダレーシア」という魔法の国から始まる。森の奥深くに住む美しい娘ジゼルは，怪物に襲われたところをエドワード王子に助けられ，2人は一目惚れして翌日の結婚の約束を交わす。この結婚を心よく思わない王子の継母ナリッサ女王は，醜い老婆の姿に化けてジゼルを騙し，ジゼルを井戸の底へと突き落とし，魔法の国から追放する。魔法の井戸が通じていた先はニューヨークの街。右も左も分からない純真なジゼルが起こす騒動は，後を追ってきたエドワード王子やナリッサ女王も加わって一段とヒートアップする。エドワードと結ばれるはずのジゼルは，やがて彼女を見守るバツイチで子持ちの弁護士ロバートに惹かれるようになる……。
　セールスポイントは，アンダレーシアを『白雪姫』(37)『シンデレラ』(50)『眠れる森の美女』(59)などの伝統的なディズニー・アニメ調で描き，現代のニューヨークのシーンを「実写＋CG」で表現するという2つの表現法の混在である（写真1）。実写に絵画が溶け込んだ『メリー・ポピンズ』(64)や実写にアニメ・キャラを合成した『ロジャー・ラビット』(88)のような手法ではない。2つの世界が別々に存在し，魔法の国をアニメで，人間世界を実写で描き分けている。

　監督は『ターザン』（99年11月号）『102』（01年3月号）のケヴィン・リマ。なるほど，セル調アニメにも「実写＋CG」にも通暁していている訳だ。ジゼル役に選ばれたエイミー・アダムスは既に33歳だが，お姫様ドレスがよく似会う。ジゼルは，白雪姫，シンデレラ，『ピーター・パン』(53)のウェンディ，『眠れる森の美女』のオーロラ姫，『美女と野獣』(91)のベル，『アラジン』(92)のジャスミンなどの平均像の設定だが，その実写キャラの雰囲気をよく醸し出している。ナリッサ女王や従者のナサニエルなどは，逆に演じる俳優を見事にアニメ・キャラ化しているなと嬉しくなる。
　冒頭11分間のセル調アニメはカラフルな夢の世界で，まさに魅せれてしまう。その半面，これがずっと続くと退屈するだろうなと感じる。実写世界もしかりで，この程度のラブ・ロマンスやアクションでは，ファミリー映画であっても物足りない。魅力はあくまで，ディズニー・アニメのセルフ・パロディであり，エピソードから音楽まで，「いかにも，いかにも…」の世界である。魔法の鏡，毒リンゴ，夜12時の鐘，残されたガラスの靴，眠れるプリンセスへの「真実の愛のキス」などが，何のパロディであるかは言うまでもない。ジゼルとロバートが踊る舞踏会シーンのカメラワークに『美女と野獣』のシーンを思い出すファンも少なくないだろう。
　VFXは，実写映像に合成されるCG製のリスやゴキブリ，ナリッサ女王が引き起こす魔法（写真2）や彼女が化けるドラゴン（写真3）などだ。Tippet Studio，CIS Hollywood，Weta Digital といった一流スタジオが担当だから，品質的に悪い訳がないが，特筆することもない。筆者の好みで言えば，2つの世界を完全に描き分けるのではなく，もう少しキャラを混在させたり，モーフィング・タッチで徐々に変化させた方が面白かったかと思う。