head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| INDEX | 年間ベスト5 | DVD特典映像ガイド | SFXビデオ観賞室 | SFX/VFX映画時評 |
title
 
O plus E誌 2007年3月号掲載
 
 
purasu
ナイト ミュージアム
(20世紀フォックス映画)
 
      (C)2006 TWENTIETH CENTURY FOX  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [3月17日より日比谷スカラ座他全国東宝洋画系にて公開予定]   2007年1月29日 ナビオTOHOプレックス[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  映画を観たら,自然史博物館に行ってみたくなる  
 

 原題は「Night at the Museum」という。予告編やTVスポットCMで,恐竜の骨に夜間警備員が追いかけられるシーンが流れているので,この映画のテーマはすぐ分かるだろう。即ち,夜になると博物館に展示されている化石,剥製,ジオラマ展示内の人形たちに命が吹き込まれ,毎夜騒ぎ出すというものだ。CG/VFX満載で,まさに春休みのファミリー向けのエンターテインメントである。北米ではXマス休暇に公開され,事前予想を軽く上回る興収2億ドル超の大ヒットになっている。
 この博物館は,ニューヨークの自然史博物館で,セントラルパークの西隣にある。公園内で東側の通り沿いにあるメトロポリタン美術館とは,東西逆のほぼ対称的な位置にある。筆者は数年前,コロンビア大学を研究訪問した折,半日2回をかけてじっくり観て回った。それゆえ,見慣れた館内の様子には感慨も新ただった。
 原作は,クロアチア人イラストレーターのミラン・トレンク作の児童書だ。『グレムリン』(84)『ホーム・アローン』(90)やハリポタ・シリーズ2作目までを監督したクリス・コロンバスと盟友マイケル・バーサナンが製作を担当することを条件に,20世紀フォックスが映画化権を獲得したという。なるほど妥当な人選だ。監督兼製作には,『ビッグ・ライアー』(02)やリメイク版『ピンクパンサー』(06年5月号)のショーン・レヴィが選ばれている。この時点で,コメディタッチのファンタジー・アクションとしての成功要件を備えていたと言える。
 冴えない夜間警備員のラリーを演じるのは,『メリーに首ったけ』(98)『ズーランダー』(01)のベン・スティーラー。日本での人気は今イチだが,アメリカではコメディ映画界のエース的存在だ。彼が好意を寄せる博物館員レベッカに『スパイ・キッズ』シリーズの母親役のカーラ・グギーノとちょっと地味だが,共演陣には,セオドア・ルーズベルト大統領(の剥製)役にロビン・ウィリアムズ,悪役3人組にディック・ヴァン・ダイク,ミッキー・ルーニー,ビル・コップスという芸達者を揃えて,これまたコメディらしい布陣で臨んでいる。
 なぜ展示物たちが夜になると生き返るかの説明は映画中にあったが,とってつけた屁理屈でどうでも良い。骨格だけのTレックスが走り回り,エジプト王がミイラから復活し,大統領がインディアン女性に恋をするかと思えば,モアイ石像がガムを噛み,ミニチュア人形のローマ人兵士と西部開拓時代のカウボーイたちが争いを起こす……。とにかくハチャメチャの騒ぎで,抜群に楽しい。
 最後に『ホーム・アローン』タッチで悪人たちをやり込める手際も,ダメ親父が息子の信頼を得るオチも,予定調和と分かっているが,嫌味はない。博物館の展示を予め知っていれば楽しさは倍増だ。映画を観たらこの自然史博物館に行ってみたくなり,帰ってからこの映画をもう一度観たくなるだろう。以下,この楽しさをしっかりと支えているCG&VFXに関する見どころである。
 ■ VFXの主担当はRhythm & Hues社だ。エジプト彫像をRainmaker,モアイをOrphanage,シロナガスクジラをWeta Digitalが担当しているが,大半はR & Hの産物である。元々『ベイブ』シリーズで各種動物を扱い,『ナルニア国物語』(06年3月号) で見事にライオンのアスランをCGで描いていたので,その蓄積がこの映画にも活かされている。ダチョウ,象,シマウマ,野牛等,10種類が新たにレパートリーに入ったという。
 ■ とりわけ出色なのが,最初に登場する化石模型のTレックスだ(写真1)。骨だけのはずなのに,筋肉が備わった恐竜のような動きをし,息づかいや重さまでも感じさせる。HDRI (High Dynamic Range Imaging)と呼ばれる最新手法を駆使して,撮影時の照明環境を正確に再現しているので,まるで本当に博物館内に動き回っているかのように錯覚させてくれる。
 ■ 最初は,意図的に展示品らしい剥製や人形らしい質感で見せておき,動き出すとCG製のキャラにすり替わり,アップでは本物の俳優がとって代わる。繋ぎ目を感じさせない,その手際が見事だ。特に,8cm弱のミニチュア人形と実物大の人間の合成シーン(写真2)では,単なる縮尺の違いではなく,ミニチュアがいかにもミニチュアらしい動きに見える。地道な工夫の産物だ。
 ■ ジオラマ人形同士の戦いには,群衆シミュレーション・ソフトMassiveが使われている。ただし,単純に動きだけを計算したのではなく,生成各兵士の体形は40人のエキストラをサイバースキャンした幾何モデルを用い,80着のデジタル衣裳をデザインして着せたという。
 ■ 大きな新規技術はないが,CGキャラが多彩である上,それが背景や俳優の実演と溶け込んでいることが評価できる。終盤近くに動物たちが雪のセントラルパークを歩く様子(写真3),大ホールで人間や展示物たちが入り乱れるエンディング(写真4)は出色だ。これぞ,VFXの威力だ。

 
  ()  
     
 

写真1 これが深夜に動き出したから,さぁ大騒動!

 
 
 

写真2 いずれもデジタル合成だが,ミニチュアの質感が良く出ている

 
 
 
写真3 多種類の動物が歩く様は上出来だ   写真4 結構複雑な合成だが,うまく処理している
 
 
(C)2006 TWENTIETH CENTURY FOX
 
   
(画像は,O plus E誌掲載分から追加してします)
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next
 
     
   
<>br