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O plus E誌 2009年8月号掲載
 
 
 
ハリー・ポッターと謎のプリンス』
(ワーナー・ブラザース映画)
 
      (C) 2008 Warner Bros. Ent.
Harry Potter Publishing Rights (C) J.K.R.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [7月15日より丸の内ピカデリー1ほか全国松竹・東急系にて公開中]   2009年7月3日 梅田ピカデリー[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  物語は暗いが,映像としての作り込みは上々  
   映画評で取り上げるには,どうにも厄介な映画だ。長編シリーズの最後から2作目は,小説でも映画でも,様々な伏線が張られる前準備に決まっている。それを単独で評価しても意味がない。感じたままを書こうかと思って前作の評を見たら,2年前にほぼ同じことを書いていた。「全体に物語が暗く,つまらない」「最終巻の全面戦争に向けて,物語の展開上,避けて通れない準備の巻ということだろうが,これでは少年少女は退屈してしまう」「興行的には成功するだろうから,あえて捨て石で繋ぎの作品と位置づけたのかも知れない」等々である。
 完成披露試写会後の観客の声も悪評だらけだった。「つらかった。ダラダラと長かった」「面白くしよう,まとめようという気がない」「噂を聞いて初めて観たが,物語がまるで分からない」等々である。ちょっと待って欲しい。なるほど説明は不足しているが,この映画は固定ファンが対象で,予備知識のない初めての観客は当てにしていない。上映時間2時間34分は前作より長いが,シリーズ中では標準的な長さだ。分厚い原作小説を精一杯圧縮して,制限時間内に押し込んでいる。退屈かどうかは主観の問題で,主人公たちの微妙な心理描写などは一作毎に進化している。その分,もはや児童文学とは言えない領域に入り込んでいるが……。
 監督は前作(第5作目)と同じ,デイビッド・イェーツ。よくぞこんな厄介な2作を引き受けたと感心するが,既に最終章『ハリー・ポッターと死の秘宝』の監督も決定している。最後は2部作だというから,シリーズ8作の半数の4本を担当することになる。主要登場人物は同じで,一時降板が噂されたハーマイオニー役のエマ・ワトソンも無事出演している。本作で新登場するのは,ダンブルドア校長の旧友で魔法薬学の教師として招かれたスラグホーン先生(ジム・ブロードベント)とドラコ・マルフォイの母ナルシッサ(ヘレン・マクローリー)くらいのものだ。ポスターや各種広告では,前作に続きハリーは大切な人を失うことが公言されているが,それ以上ここで語る訳には行かない。
 思えば,相当特異な条件下で製作されているシリーズだ。英国の女流作家が書いた処女作が世界的な超人気作品となり,以後年1作のペースで出版される続編は,内容に係わらず発売前からベストセラーが約束されていた。全7巻で早い時期から結末は執筆済みというから,ファンはその途中巻を順次読まざるを得ない。麻薬のようなものである。3年遅れでこれを追いかけた映画シリーズも,原作通りの順序での映画化を強いられた。しかも全編完結していなかったから,物語を大きく変える訳にいかない。かくして,まだプロとは言えない新人作家の物語展開に翻弄され続けてここまで来た訳だ。もし全巻刊行後に映画化が企画されていたら,第5巻と第6巻はまとめて1作になっていただろう。いや,全7巻を圧縮して,映画は3部作でも十分だと思う。
 そういう制約条件を受け容れて本作品を観るなら,しっかりと作られた映画だと思う。迫り来る全面戦争への怖れを煽りつつも,ホグワーツ魔法魔術学校内に蔓延する恋の悩み,10代の男女の青春群像を描いている。それでも主旋律は,闇の帝王ヴォルデモートとの対決への序曲であり,ハリーやダンブルドア校長を巡る重厚なドラマに仕上がっている。英国の名優たちを揃え,一流スタッフたちが取り組めば,ただの暗い物語が荘厳な趣きのある映像作品に化けるという次第だ。実際,緊迫感を高める音楽がこの映画の展開をリードし,それを補完する感じでVFXが格調高い映像を紡ぎ出している。以下,CG/VFXの視点からの感想と評価である。
 ■ 映画の冒頭,不吉な暗雲の中に闇の帝王の顔が描かれ(写真1),その中から登場した3人の死喰い人がロンドン市内を駆け巡り(写真2),ミレニアム橋を破壊する(写真3)。この一連のVFXシーンは見事だ。勿論,デジタル技術ゆえの産物だが,どこまでがCGで,どこまで実写映像を活用しているのか全く判別できない。実写映像のVideo-Based Renderingなのか,一部は模型なのか,それとも既にロンドン市内中心部のCG化は完璧に終えているのか……。VFX主担当のDouble Negative社なら,既にそれを達成していて何の不思議もない。
 
     
 
写真1 口にしてはならない闇の帝王が雲中に
 
     
 
 
 
写真2 死喰い人が駆け巡るロンドン市内の描写は圧巻
 
     
 
写真3 ミレニアム橋の破壊シーンは勿論デジタル技術の産物
 
     
   ■ ホグワーツに向かう列車では,カメラが客室の内外を縦横無尽に引いたり寄ったりするカメラワークを見せてくれる。これも見事なVFXの産物だ。そもそも荒野を走る列車自体がCGなのか,ミニチュアのデジタル合成なのか,それとも実物大の列車なのか判別不能だ(写真4)  
     
 
写真4 荒野を走る列車は本物?
 
     
   ■ ちょっとした魔法を使うシーンが多く,その都度VFXの効果を楽しめる。随所で炎の使い方が上手いと感じられた。お馴染みのクィディッチの試合も申し訳程度に入っている(写真5).ただし質は高く,第1作目2作目の頃とは比べ物にならない出来映えだ。  
     
 
写真5 クィディッチの競技場と競技シーン
 
     
   ■ 後半40分は場面も雄大で,岩の上,城,邪悪な怪獣の表現にも,CG/VFXの出番が多々ある。いずれも上質で,エンディングのシーン(写真6)も美しい。墨で描いたかのようなエンドクレジットも秀逸だった。VFX担当はDouble Negativeの他に,ILM, Moving Picture Co., Cinesite U.K., Framestore,Luma Pictueresなどがクレジットされていた。  
     
 
写真6 何気ないこの合成シーンなども美しい仕上げ
 
     
   ■ 既に原作は2年前に完結し,邦訳本も昨年夏に出版されている。筆者は原作は一切読んでいないし,映画を公開順に観てこの記事を書いているだけだ。時々確認のため旧作のDVDも観る。その立場で,最終章に向けて色々張り巡らせているはずの伏線を楽しむことにした。闇の勢力と闘うダンブルドア校長の下方にハリーが潜んでいる。それを眺めるスネイプ先生の目つきが印象的だった。これはハリーに目配せをしたのか,それともハリーの存在に気付いて,何かをたくらんだのか……。そういう観点から楽しむべき映画である。  
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  (画像は,O plus E誌掲載分に入替・追加しています)  
   
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