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O plus E誌 2008年3月号掲載載
 
 
 
purasu
ライラの冒険
 黄金の羅針盤』
(ニューライン・シネマ
/ギャガ&松竹配給)
 
      TM & (C) MMVII NEW LINE PRODUCTIONS, INC.  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [3月1日より丸の内ピカデリー1ほか全国松竹・東急系にて公開予定]   2008年1月17日 なんばパークスシネマ[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  またかと侮るなかれ,後半ぐっと盛り上がる  
 

 またまたファンタジー大作である。『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのニューライン・シネマが贈るファンタジーの金字塔と言われても,原作は英国BBCの読者投票で『ハリー・ポッター』シリーズよりも上位にある児童文学の名作と紹介されても,よほどのファンタジー好きでない限り「またか…」と感じるのが普通だろう。『ナルニア国物語』(06年3月号)はまだしも,『エラゴン』(07年1月号)や『光の六つのしるし』(08年1月号)といった駄作の後では,タイミングが悪過ぎる。総製作費250億円をかけた力作であるのに,米国での興行成績は惨憺たる結果に終わった(ただし,英国や欧州各国では,かなりの大ヒットとなった模様だが)。
 そういう先入観をもって試写を観たのだが,導入部は予想通りの解説過多で,この物語の世界観に馴染ませるのに多くの時間を費やしている。その世界観も登場するCG製の動物たちも,すべて想定の範囲内という感じだった。ところが,侮るなかれ。イオニク・バーニソンなる主人公の白熊が登場するや,物語の密度は一変する。そこからはまさに確変状態で,物語が急展開する。まぁ騙されたと思って聞いてもらいたい。この映画の後半は相当に面白い。筆者の知人に,英語版の原作3冊を一気に読んで,絶対にハリポタよりも面白いと言っていた人物がいるが,彼の評価は伊達ではなかった。
 監督・脚本は,ヒュー・グラント主演の『アバウト・ア・ボーイ』(02)でゴールデングローブ賞(コメディ部門)に輝いたクリス・ワイツ。母は俳優,兄は監督という芸能一家の出身で,自らも俳優としての映画出演を続ける,まだ30代の若手だ。お転婆で嘘つきの12歳の少女ライラ役は,15,000人以上のオーディションから選ばれたダコタ・ブルー・リチャーズで,勿論,これが映画初出演である。両親を亡くしたライラを引き取って暮らす美貌のコールター夫人にニコール・キッドマン,ライラの叔父のアスリエル卿に6代目007のダニエル・クレイグという超豪華キャスティングだ。この2人は『インベージョン』(07年11月号)でも共演していたが,あまり呼吸は合っていないように感じた。
 原作は,戦後生まれの作家フィリップ・プルマンが1990年代に著した3部作の児童文学書で,「指輪物語」の影響を受け,読者の平均年齢層は「ハリポタ」よりも少し上らしい。舞台はイギリスのオックスフォードで,一見普通の人間社会に見えるが,ここは似て非なるパラレルワールドだ。空には魔女が飛び交い,陸では鎧をつけて白熊が闊歩する世界だが,ここに住む人間それぞれに,動物の姿をした「ダイモン」なる守護精霊がついているのが最大の特徴である。アストリア卿のダイモンは美しい牝の雪ヒョウのステルマリア,コールター夫人のダイモンは金色に輝く牡のゴールデン・モンキー,といった具合だ。物語を話すと切りがないので,以下,満載のCG/VFXの話題だけを記しておこう。
 ■ 約1500カットのVFXシーンが作られたが,編集段階でカットされ,最終的に残ったのは約1200カットだという。動物表現が得意なRhythm & Huesとそのインド支社を始め,Cinesite,Framestore CFC,Digital Domain,Rainmaker UKなど9社が参加している。
 ■ 時代不祥でありながら英国だなと感じさせる町の描写には,グリーンバックで撮影し,背景を合成したシーンが多い(写真1)。冒険を感じさせる危険なシーン,雪の世界をバックにしたシーン,大人数が戦うシーンもスタジオ内で収録され背景が合成されている(写真2)。目立った先端技術ではないが,丁寧に仕上げられている。    

 
   
 
 

写真1 飛行船や町の描写には,デジタル技術がフルに使われている

   
 
 
 
 
 

写真2 伝統的なクロマキー合成が多用されているが,仕上げは丁寧だ

 
     
   ■ 登場人物の数だけのダイモンが必要なので,動物の数も数十種類に及ぶ(写真3)。ライラのダイモンである「パンタライモン」は変幻自在で,姿も一定していない(写真4)。そのそれぞれで毛の質や動きが異なる。個々のクオリティは,最新技術で十分想定の範囲内の出来映えだったが,これだけの数をきちんとこなし,かつバラツキがほとんどない品質管理体制が賞賛に値する。
 
   
 
写真3 ゴールデン・モンキーは,
コールター夫人のダイモン
  写真4 これはオコジョ姿のパンタライモン
 
     
   ■ 重要な役割を占めるのが,北の地に住む鎧熊族の表現で,Framestore CFC社の担当だ(写真5)。勿論,CGによる描写が中心だが,ライラを背にした疾走シーンは,白熊の毛を貼ったモーションベースに彼女を乗せ,首だけCGで描いている(写真6)。その継ぎ目は全く目立たず,動きも素晴らしい。アカデミー賞視覚効果部門の候補3作品にノミネートされている。『トランスフォーマー』(07年8月号)との一騎打ちだろう。  
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写真5 これが鎧熊族のリーダー,イオニク・バーニソン

 
   
 
 
 

写真6 ライラを乗せた姿は首だけがCG
TM &(C) MMVII NEW LINE PRODUCTIONS, INC.ALL RIGHTS RESERVED.

 
   
  (画像は,O plus E誌掲載分から削除・追加してします)  
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