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短評のみO plus E誌2007年3月号に掲載
 
 
purasu
ゴーストライダー』
(コロンビア映画 /SPE配給)
       
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [3月3日より日比谷スカラ座ほか全国東宝洋画系にて公開中]   2007年2月13日 SPE試写室(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  炎のCG表現は自由自在だが,ちょっとクドイ  
 

 この映画の米国公開が2月16日(金)で,日本公開が3月3日(土)だというのに,大阪でのマスコミ用試写会はようやく2月13日が皮切りだった。これでは3月号の締切り間際で,画像は間に合わず,短評だけ書くのがやっとだった。Cinefex誌やVFX Worldが注目するこの映画を,当欄がこの程度で済ませる訳には行かない。せめてWeb上では,通常の記事並みの長さで語って残しておきたい。
 もう7年半もこの時評を書き続けていると,プロの批評家の評価も興行収入も大体読めるようになる。アカデミー会員の少々ひねくれた観察眼と話題性を考慮に入れれば,オスカーの行方もかなり精度で予想が当たる。『ハッピー フィート』欄で長編アニメ賞と視覚効果賞を予想して的中した。別の雑誌で「監督賞は,今度こそ同情票でマーティン・スコセッシだろう」と断じた。主演男優賞,助演女優賞も当たり,助演男優賞だけが外れたが,座興としては上出来だった。『クィーン』が未見だったので,作品賞と主演女優賞の予想は避けたが,これについては4月号で少し語ろう。
 閑話休題。アメコミを映画化したこの作品の評価に戻ろう。日本人に馴染みは薄いが,アメリカ人のコミックファンには結構知られているダークヒーローが主人公である。試写を観た瞬間感じたのは,「これは米国版『どろろ』だ!」だった。即ち,同じく原作はコミックで,CG満載で,内容は空疎で,批評家には酷評されるが,この時期の週末興行成績では結構ヒットするという意味である。果たせるかな,こちらも正にその予感通りの展開となった。賞狙いの捻ったヒューマンドラマではなく,清く正しい文部科学省推奨調のファミリー映画でもないが,寒い時期にわざわざ映画館に足を運ぶ観客は,倫理観に欠けようが,騒々しいだけと言われようが,濃い目の刺激を好むものである。その物差しにはピッタリはまっている。
 スタント・ライダーのジョニー・ブレイズは,17歳の時,癌に侵された父親の病を治すため,悪魔メフィストに魂を売ってしまう。後年,再び現われたメフィストに魔界の反逆児ブラックハートを捕らえる使命を与えられる。魔界の力を得た彼は,夜になると,顔は髑髏で炎に包まれた「ゴーストライダー」に変身にし,燃え盛る「地獄バイク」を駆って,ブラックハート率いる悪魔や極悪人たちと戦う……,という設定だ。
 前半はこの超人ライダーの登場までの背景の説明であり,後半は敵と対峙してヒロインを救い出すという,全くの定番の展開だ。しっかり続編への余韻も残してある。魔物を倒して自分を取り戻すという点で『どろろ』に似ていると言ったが,悪魔を倒すのが悪魔に変身できる人間という点では永井豪の『デビルマン』にも似ている。大したストーリーがなく,対決アクションだけが大仰なこの手の話は,筆者はあまり好きになれない。
 主演は,このコミックの大ファンであったというニコラス・ケイジ。最近の主演作は,『ナショナル・トレジャー』(05年3月号)が明るい冒険もの,『ロード・オブ・ウォー』(05年12月号)が政治的メッセージ性が高いドラマ,そして前作『ワールド・トレード・センター』(06年10月号)がシリアス&ヒューマン系だったから,そろそろ単純なアクションかと思ったら,案の定だった。相手役のロクサーヌは,『最後の恋のはじめ方』(05年5月号)でウィル・スミスと共演したエヴァ・メンデス。セックスアピールがムンムンほとばしる存在だ(写真1)。若き日のジョニーとロクサーヌには,別の男優・女優が登場するが,男の方は似ても似つかないのに,女性側はよく似たルックスでかつ魅力的な女性が選ばれていた。しばし,同じ女優がそのまま演じているのかと錯覚するくらいだ。
 監督・脚本は『デアデビル』(03年4月号)のマーク・スティーヴン・ジョンソン。そーか,この監督だったのか。ならば,テイストが合わない訳である。同じマーベル・コミックものでも,『X-メン』は痛快なのに『デアデビル』には乗れなかった。ならば,『スパイダーマン』は許せても,この映画の暗さが好きになれない理由もはっきりとしてくる。
 さて,CG/VFXの評価である。ウリは,ゴーストライダーの頭部や手先,バイクを包む紅蓮の炎である。当初,スチル写真で観る限り,写真2程度のCG表現なら凡庸で,今まででも再三登場していたと感じた。『ファンタスティック・フォー[超能力ユニット]』(05年10月号)にはそっくりの表現もあったではないか。ところが,写真3のような微妙な変化を段階的に与えるとなると,話は違って来る。流体運動のNavier-Stokesの方程式にきちんと則った計算をして,炎の表現を得ているようだ。CG製の炎が実写映像に照り返す様も丁寧に描けている。なるほど,ここまでの表現力が手に入れば後は自由自在で,写真4のように縦横無尽に使いこなすことができる。もっとも,これだけ炎一辺倒では相当食傷気味で,それがこの映画の面白さを半減させていると感じる。
 コロンビア映画であるから,VFX担当は言うまでもなくSony Pictures Imageworksが中心で,他にCafe FX,Digital Dream,Gray Matter FXなども作業分担している。最近担当作品も多いので,SPIWの技倆・表現力向上は目覚ましい。出色なのは,ジョニーがフットボール競技場で大ジャンプを見せるシーンである。ここはワイヤーアクションではなく,ジョニーもバイクも観客もすべてデジタル技術の産物だろう。
 バイク中心の映画だけに,地獄バイクのデザインはなかなかのものだし,カースタントも素晴らしい。かなりバイク・ファンの好みを反映して演出したものと思われる。そして何よりも嬉しいのは,悪魔メフィストとして,伝説のスター,ピーター・フォンダが登場することだ(写真5)。アメリカン・ニューシネマの金字塔『イージー・ライダー』(69)で,彼が乗ったあの個性的なハーレーの姿がこの映画に反映されていることは,オールド・ファンならすぐ分かるだろう。
 という風に,分かる観客には結構見どころのある映画なのだが,短評でも書いた通り,日本でヒットするかとなると,かなり疑問符がつく。  

 
     
 
写真1 ヒロインはセックス・アピールの塊   写真2 当初,これくらいなら簡単かと…
 
     
 
 
 

写真3 顔の変化に合わせた,この微妙な炎の表現はなかなかのもの

 
 
     
 

写真4 炎の使い方は縦横無尽だが,これ一辺倒では食傷気味

 
 
     
 

写真5 バイク映画の伝説的スターの登場は嬉しい

 
 
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