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O plus E誌 2006年10月号掲載
 
 
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ワールド・トレード・センター』
(パラマウント映画/UIP配給)
      (c)2006 Paramount Pictures  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [10月7日より日劇1ほか全国東宝洋画系にて公開予定]   2006年8月31日 UIP試写室(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  デジタル効果のスケールが人間ドラマを引き立てる  
 

 ストレートな題名から分かるように,『ユナイテッド93』(06年8月号)に続く9.11もので,5年前の同時多発テロの惨状を人間ドラマとして描く。同じUIP配給だが,こちらはユニバーサル作品ではなくパラマウント作品だ。同時期の事実を描きながら,『ユナイテッド93』がまだ早過ぎると非難されるのに対して,この映画は許せるという声が多いのは,瓦礫の下から救出された2人の生存者のことを語っていて救いがあるためだろう。それでいて,この渾身の大作が米国では大きなヒットとなっていないのは,週末に家族連れで映画を楽しむ平均的アメリカ人にとって,まだ振り返りたくない重過ぎるテーマなのだと察することができる。
 この記事を書いているのはまさに9月11日だが,約3千人の死者を出した5年前のあの惨劇で,救出された生存者は20人に過ぎなかった。その18人目,19人目の救出劇に話題を絞っている。NY港湾署警察官のジョン・マクローリンとウィル・ヒメノが,その主人公の2人だ。勤続21年のマクローリン巡査部長を演じるのは『フェイス/オフ』(97)『ナショナル・トレジャー』(05年3月号)のニコラス・ケイジ。すっかり頬がこけた老け顔での登場で,しばらくはあのアクション・スターがこの映画の主演だとは気がつかなかった。一方,身重の妻をもつヒメノ巡査を演じるのは『ミリオンダラー・ベイビー』(04)『クラッシュ』(05)と立て続けにオスカー作品に出演機会を得たマイケル・ペーニャで,この映画ではもっと個性的で存在感のある役柄を好演している。
 監督は『プラトーン』(86)『アレキサンダー』(05年2月号)のオリバー・ストーン。くそ真面目な映画しか撮れない社会派監督ゆえ,この映画のメガホンを取ることを許されたのだろう。ジョン・ウー,マイケル・ベイといった娯楽大作の監督なら,撮影前から世論に負けて降ろされていたかも知れない。ティム・バートンやスパイク・リーといった鬼才は,構想段階の企画で候補者リストから外れたに違いない。その意味では,興行的ヒットは望めなくても,ここは直球勝負のオリバー・ストーンでなければならなかった,
 事件発生後,怪我人の救出にWTCに向かった港湾署警察官のチームは,ビルの崩壊で生き埋めになってしまう。仲間が次々と死んで行く中で,かろうじて生き残っていた2人の救出劇を描いている。その背景で,彼らの生死を固唾を呑んで待つ家族の人間模様が克明に描かれている。生還すると分かっていながら,救出劇には緊張し,そして感動する。災害映画でありながら,いわゆるパニック映画の困難を乗り越えてのハッピーエンドにはない重さがある。同時に,瓦礫の下からの救出が,これほど困難なものかを分からせてくれる。
 2人の救出劇24時間だけに話題が絞られていて,凄惨なシーンはない。そのため少し淡泊になり,このテロ全体の規模の大きさを忘れがちだが,必死にリアリティを支えているのが,Double Negative社によるデジタル視覚効果の数々だ。テレビでリアルタイム放送されたシーンが人々の目に焼き付いているだけに,その残像と違和感なく,かつ映画館のスクリーンに堪え得るスケールの映像を生み出さなければならなかった。以下,そのVFXの要点である。

 
     
   ■ 大別すれば,事件以前にまだWTCのツインタワーが存在するNYの数々の光景,ビルの倒壊やその直後の様子,一昼夜を経た救出後もなお粉塵が舞う町の光景である。約50万枚のデジタル写真を撮ったというが,そこからNYの町を再現しCG製のビルを合成するのも,地上から見上げるWTCとその倒壊も,現在のVFXをもってすれば,特筆するほど困難な作業ではない。
 ■ 圧巻は倒壊後の瓦礫の山の表現だ。「グランド・ゼロ」と呼ばれた倒壊地点を表現するのに,200トンの瓦礫に900個の物体を散逸させたセットも組まれたが,写真1のような広大な光景はCGの助けなしでは表現できない。ここからカメラをどんどん引いて写真2に至る過程からも,このシーンがデジタル処理の産物であることが分かるだろう。
 ■ もう1つの苦労は通常の煙や砂塵ではない,すさまじい噴煙の表現だ。これには新しい専用のボクセル・レンダラが開発されたという。ただし,写真3の光景などは,じっくり観るとカメラを振らずに2次元合成処理で済ませていることが分かる。噴煙に動きがあるだけに,カメラは固定でも作り物っぽく感じない。
 ■ NYでのロケの一方,撮影の大半はLAの大型スタジオ内で行われた。写真4などは,まさに5年前のNYの町を彷彿とさせる光景だ。舞散る書類のCG表現は見事だが,このシーンもまたよく観れば2次元合成だ。
 ■ 映画は人間ドラマ中心で,こうしたVFXシーンは期待したほど多くない。個人的には,他の警官や消防士の活躍も描き,ツインタワーの倒壊ももっと派手に描いて欲しかったところだが,観客を刺戟し過ぎないためにはこれくらいが丁度好いのだろう。それでいて,しっかりこれはあの9.11の物語なのだと意識させてくれる,上質のVFXであった。
 
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写真1 このスケールの瓦礫の山はCGゆえの表現   写真2 カメラ引いた位置での噴煙は衛星写真への合成
 
 
 
 
写真3 WTC倒壊後のこの何気ない光景(右)も,現在のNYの実写映像(左)にCG製の噴煙を描き加えたもの
 
 
 
 
写真4 こちらは,スタジオ内の撮影(左)に視覚効果で背景や飛び散る書類を合成したもの(右)
(c)2006 Paramount Pictures. All rights reserved.
 
     
   
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