head
title home 略歴 表彰 学協会等委員会歴 主要編著書 論文・解説 コンピュータイメージフロンティア
| INDEX | 年間ベスト5 | DVD特典映像ガイド | SFXビデオ観賞室 | SFX/VFX映画時評 |
title
 
O plus E誌 2007年2月号掲載
 
 
どろろ』
(東宝配給)
  (C) 2007映画「どろろ」製作委員会
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [1月27日より有楽座ほか全国東宝系にて公開予定]   2006年12月20日 東宝試写室(大阪)  
         
   
 
purasu
バブルへGO!! タイムマシンはドラム式』
(東宝配給)
      (C) 2007 フジテレビジョン/電通/東宝/小学館  
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [2月10日より日劇2ほか全国東宝系にて公開予定]   2006年12月26日 東宝試写室(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  好調日本映画界の対照的なエンターテインメント2本  
    昨年の邦画界は絶好調で,興行収入では何年ぶりかで洋画を上回ったそうだ。その牽引役は東宝作品で,テレビ局とタイアップした企画が多く,若者の口コミやブログにマッチした話題作りも巧みだ。「若手人気タレントを起用したお手軽映画ばかりで,すぐ飽きられるよ」との批判もあるが,マーケティングに成功していることは間違いない。それで製作費も製作本数も増え,映画人育成が活気づくのなら,喜ばしいことだと思う。
  今月取り上げるのは,その東宝の対照的な2作品で,それぞれ「本物のエンタテインメント」「グッとくる王道エンターテインメント」という触れ込みだ。
 まずは,手塚治虫原作のコミック「どろろ」を実写映画化した作品で,製作費20億円をかけ,『ロード・オブ・ザ・リング』『ラスト サムライ』で話題のニュージーランド・ロケを敢行したという。原作は,1967年から68年にかけて少年サンデーに連載され,69年にTVアニメとして放映されている。不思議なのは,巨匠が白土三平や水木しげるに押されて絶不調期の失敗作だったのに,何で今頃「どろろ」なのだろう? 百鬼丸が48体の魔物と戦うプレステ2用のゲームが2004年に販売されているから,それに便乗しようという企画か,それとも今や神格化されている「手塚治虫」の名前を出せば,大作らしく見えるという目算なのだろうか?
 監督は『黄泉がえり』(03)の塩田明彦。生れながらに身体の48箇所を奪われ,妖怪を倒す度に1つずつを取り戻す「百鬼丸」を妻夫木聡,彼につきまとう野盗少年「どろろ」を柴咲コウが演じる。実は少女という設定だが,この柴咲コウは完全なミスキャストだ。目をむいて,がなっているだけで,演技とは言えないレベルだ。少し芝居ができるようになった妻夫木と呼吸が合っていないし,これでは中井貴一の絶妙な悪人役も生きてこない。長身なのも欠点で,もっと小柄で,少年とも少女ともとれる俳優を配すべきだったと思う。
 対する『バブルへGO!!』は,17年前のバブル最盛期にタイムスリップし,その後の長期不況の原因を取り除こうという超楽天的,おふざけコメディである。原作はあの「見栄講座」(83)のホイチョイ・プロダクションズで,監督はその中心人物の馬場康夫だ。かつて『私をスキーに連れてって』(87)等で若者文化を支配した,といっても現代の若者には通じないだろうが……。
主演の軽薄な財務省官僚に人気絶頂の阿部寛,その隠し子でタイムスリップする娘に少し人気下降気味の広末涼子,という組み合わせが絶妙だ。日立製作所製の洗濯機がタイムマシンという設定もいい。徹底的にバブル期の世相を,ひいては現代日本をおちょくりまくる姿勢は,さすがホイチョイだ。いや,面白い。  
 
     
  大作を担うだけの人材が育っていない  
  「どろろ」の時代設定は,室町時代末期,戦国乱世の日本のはずなのに,なぜか中国から始まり無国籍のアジアの一国風に描かれている。この妙な世界観が理解できない。東映映画村とおぼしき町の中と,郊外らしいニュージーランドの自然が全くアンバランスだ。やたら刀を振り回すだけの殺伐とした物語で,心に訴えるものが何もない。ハリウッド映画なら前半退屈でもクライマックスからエンディングはしっかり盛り上げるが,この映画にはそれもなく,2時間18分が過ぎて行く。
 今年のラジー賞最有力候補だろう。これでは20億円が泣く。小作品にはほのぼのとした良作も少なくないのに,まだまだ日本映画界は大作の作り方を理解できる人材が育っていないと言える。
 そんな中で,特撮・視覚効果は上出来だった。ミニチュアやワイヤーアクション(写真1)は悪くないし,リンクスデジワークス担当のCGも大検討の部類だ(写真2) 『陰陽師』(01年10月号)と比べると格段に上だし, 『SHINOBI』(05年10月号)後の進歩の跡が見られる。機会が増えれば,意欲も腕も上がるという好例だろう。Tippett StudioやStan Winston Studioほどではないが,妖怪・魔物の造形は頑張っている。ただし,そのアニメーションは今イチの箇所も見られたが……。
 
     
 
写真1 百鬼丸のジャンプはワイヤーアクション
(C) 2007映画「どろろ」製作委員会
  写真2 左奥に見えるのがCG製のヤシガニ
 
 
 
     
 

 一方の『バブルでGO!!』にも,CG/VFXはかなり使われている。徹底的に細部にこだわり,17年前のバブル期を徹底して再現しようとしている。当時の六本木の光景(写真3),町を走るクルマやディスコで踊るギャルのファッションはいうまでもなく,時代考証は清涼飲料水やファーストフード店のメニューにまで及んでいる。CG/VFXはそれを強化する形で使われている。
 VFX担当は,特撮研究所とマリンポスト。まだレインボーブリッジは建設中(写真4)だったし,フジテレビ社屋はお台場でなく河田町にあった。六本木交差点から見た空に六本木ヒルズの偉容を消し去っているのも,勿論デジタル処理の産物だ(写真5)
 各俳優に17年間の時代差をつけるメイクも上出来だ。2007年の伊武雅刀はノーメイクの禿頭だが,1990年はふさふさしたカツラをつけて登場する。その容貌が,なんとなく姉歯建築士に似ていておかしい。音楽も当時のヒット曲がしっかりカバーされているが,クライマックスのBGMが「ジェームズ・ボンドのテーマ」にそっくりだ。この正月映画に新生007が登場し,ヒットしていることを予測してのパロディだろう。
 プロデューサは,やはり亀山千広氏。ホイチョイを選択した時に,この成功は保証されていた。身の丈にあったエンテーテインメントとなると見事な楽しさだ。

 
  ()  
     
 

写真3 現在の六本木の町(左)。バブルの頃hは深夜もこんなに華やか(右)。

 
 
     
 
写真4 現在のレインボーブリッジ(左)。デジタル処理で建設中を再現(右)。
お台場のフジTVやホテル日航も消している。
 
 
   
 
 
 
写真5 現在(左)と1990年(右)の六本木交差点。六本木ヒルズの抹消は当然だが,アービーズの看板等の追加は芸が細かい。
(C) 2007 フジテレビジョン/電通/東宝/小学館
 
     
  (画像は,O plus E誌掲載分から追加してします)   
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next
 
     
<>br