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O plus E誌 2008年12月号掲載
 
 
WALL・E/ウォーリー』
(ウォルト・ディズニー映画 )
 
      (C) WALT DISNEY PICTURES/PIXAR ANIMATION STUDIOS  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [12月5日より日比谷スカラ座他全国東宝洋画系にて公開予定]   2008年10月30日 東映試写室(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  着想力,造形力,統率力の素晴らしさに脱帽  
 

 またまたCGアニメの大傑作が生まれた。お馴染み老舗のディズニー/ピクサーの作品である。劇場公開用長編作品は『トイ・ストーリー』(95)から数えて9作目に当たる。本欄では3作目の『トイ・ストーリー2』(00年3月号)から紹介しているが,過去6作品は『モンスターズ・インク』(02年2月号)を☆☆+としただけで,他はすべて☆☆☆の高評価だ。本作品も何とか欠点を探してやろうと目を凝らしたのだが……,無い! 口惜しいが,今回も完璧である。
 ピクサー社の何がそんなに凄いかと言えば,常にその時点でのCG技術で描ける最高のものを追求している点だ。既にCG映像のリアリティだけが勝負でないとなると,巧みに伝統的な実写映画の手法を織り込んで後発とは一味違うCG作品を生み出してくる。それも当たり前になってくると,またCGでしか表現できないような場面設定や時代設定の作品に転じる。作品ジャンルが固定されず,自在性が高いのが特長だ。着想力も表現力も群を抜いているのは,それだけクリエイティブ能力が高い人材を集めているからだろう。
 前々作『カーズ』(06年7月号)でカーレースと米国の古き良き時代へのノスタルジーを描いたかと思うと,前作『レミーのおいしいレストラン』(07年8月号) では一転パリのレストランでの料理作りがテーマだった。本作では,「WALL・E」(これで「ウォーリー」と読ませている)なる旧式のゴミ処理ロボットが主役だ。そのオンボロぶりは『カーズ』に登場したレッカー車「メーター」を思い出す。「E.T.」にも似た風貌だ(写真1)。擬人化されたロボットだけが登場するCGアニメなら,ブルー・スカイ製の『ロボッツ』(05年8月号)の存在が思い浮かぶが,設定も着想もまるで違う。本作の舞台となるのは,何と西暦2700年の荒廃した地球と広大な宇宙空間である。そう聞いただけでは,着想の卓抜さは伝わらないだろうが,これは観て味わってもらうしかない。

 
   
 
写真1 レトロかつ愛くるしい見事なデザインだ  
 
   
 

 監督・脚本は『ファインディング・ニモ』(03年12月号)でアカデミー賞を受賞したアンドリュー・スタントン。御大ジョン・ラセターの秘蔵っ子で,ピクサー・アニメーションの9人目の社員,フルCGアニメの歴史を共に歩んで来た人物である。『レミーの…』では製作総指揮を務め,同社に長編で3度目のオスカーをもたらせている。まもなく43歳というから,経験も十分,若いクリエイティブ集団を率いるのに,最も油が乗り切った年齢だ。
 人間はゴミに溢れた地球を捨てて宇宙空間に逃げ出し,誰かが電源を切り忘れたために,ウォーリーは独りぼっちで地球に残され,700年間ひたすらゴミ処理をしている。そこに現われたのは,ピッカピカの最新型地球探査ロボットのイヴで,この2機のコンセプトと描き分けが絶妙だ(写真2)。孤独だったウォーリーはたちまち彼女に恋をするが,やがてイヴは宇宙船に連れ去られてしまう。「イヴを救わなくては!」と決意したウォーリーは,自分も宇宙空間へと旅立つが……(写真3)

 
   
 
写真2 ウォーリーが恋した相手は最新型のイヴ(左)  
 
   
 
 
 

写真3 何と,このオンボロが宇宙にまで……
(C) WALT DISNEY PICTURES/PIXAR ANIMATION STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.

 
   
 

 錆だらけのウォーリーに対して,真っ白で光沢感に溢れるイヴのデザインはi-Podを彷彿とさせる(ピクサーのオーナーはスティーヴ・ジョブズだったから,当然か)。この2機の対比だけでなく,この映画の画調は前半と後半でまるで違う。廃虚となった地球の描写は見事なまでにリアルで,CGアニメだという予備知識なしに観たら,実写映画かと思ってしまうだろう。それくらい微に入り細に入り,描き込まれている。大量のゴミなど,よくぞモデリングしたものだと感心する。環境問題への警鐘を絵でアピールしていることは明らかだ。
 舞台が宇宙に移ってからの描写は一変し,ぎんぎんの未来描写で迫ってくる。人間が住む巨大宇宙船アクシオムは,その外観も凄いが,内部の描写にも圧倒される。よくぞここまで,ふんだんに表現のアイディアがあるものだ。内装や機器デザインのセンスの良さにも感心する。
 そして,しっかり過去の偉大なSF映画へのオマージュが盛り込まれている。宇宙船を自動操縦する「オート」の赤い目は,当然『2001年宇宙の旅』(68)のHALへの敬意の表明だ。船内に「ツァラトゥストラはかく語りき」まで流してくれなくても,誰でも分かる。宇宙空間をワープする描写は,『スター・ウォーズ』(77)のミレニアム・ファルコン号を想い出して嬉しくなること必定だ。
 エンドロールの前半が素晴らしい。映画中の各場面をデフォルメし,絵画の歴史を辿る描写である。壁画や宗教画風もあれば,ゴッホ,ダリだと分かる絵も登場する。Non-photorealistic Renderingの見事な教材だ。

 
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  (画像は,O plus E誌掲載分から削除・追加しています)  
   
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