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O plus E 2020年Webページ専用記事#6
 
 
ワンダーウーマン 1984』
(ワーナー・ブラザース映画)
      (C)2020 Warner Bros. Ent. TM & (C) DC Comics
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [12月18日より丸の内ピカデリー他にて全国ロードショー公開中]   2020年12月19日 TOHOシネマズ二条(IMAX)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  新味に欠けるが,大スクリーンで観られるだけで十分だ  
  嬉しい,素直に嬉しい。今年公開予定の大作の大半が来年に持ち越された中で,こうした真っ当なVFX大作が年内に劇場公開されたのはご同慶の至りだ。本作も2度公開延期になったが,ともあれ『TENET テネット』(20年9・10月号)に続いて,劇場公開に踏み切ったワーナー・ブラザースに大拍手だ。
 ディズニーに続いてワーナーもネット配信に向うとの噂が流れたので心配したのだが,米国では12月25日に劇場公開とネット配信開始の併用に落ち着いた(映画館からは大ブーイングらしいが)。新型コロナ猛威の中で,それでもクリスマス休暇くらいはと映画館に来る観客と家庭内での視聴を選ぶ家族の両方に配慮したXmas商法だろう。日本ではどうするのだろうと思ったら,それに1週間先行した12月18日に劇場だけの公開となった。英国や南ア等では16日,香港や中南米諸国では17日公開だから,ライバル不在の今の時期は,各国の映画興行状況に応じた公開を許可したということだろう。皆,映画館で観るべき大作に飢えていたから,それでいいと思う。
 時節柄,完成披露試写も小さな試写室でのマスコミ試写もなかった。どうせ公開後に映画館で観るのならばと,IMAX上映のシアターを選んだ。ただし,3D上映ではない。これくらいの大作なら当然3D化されることを前提の撮影のはずだから,興行面での配慮から,意図的にそのフォーマットを避けたと思われる。内容はともかく,映像と音響に関して言えば,まさにIMAXで見るだけの価値はある迫力で,3Dを意識した構図だと感じたシーンも少なくなかった。
 DCコミックスのスーパーヒロイン「ワンダーウーマン」が単独で活躍するシリーズの2作目で,主演は勿論,美丈夫のガル・ガドットだ。並みいるスーパーヒーロー達を上回る最強パワーの持ち主で,彼女が出て来るだけでも嬉しい。ヒロインそのものは不死身で,通常人のように歳はとらないのだろうが,女優としての彼女はそうは行かない。いつまで演じてくれるのか分からないが,せいぜい長くこの役を演じて欲しいものだ。
 1984年の世界が舞台で,表題は『WW84』と略されているので,ここでも彼女のことをWWと書くことにしよう。ガル・ガドット演じるWWがまだ2作目と聞くと少し不思議に感じるが,『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(16)の終盤で「ジャスティス・リーグ」の一員として少し姿を見せ,『ワンダーウーマン』(17年9月号)で本格的に単独デビューし,その直後に『ジャスティス・リーグ』(17年12月号)では再度チームとして活躍したので,実質的にはこれが4作目の登場なのである。
 バットマンやスーパーマンとともに戦った『ジャスティス・リーグ』が2016∼18年の設定であったので,1984年が舞台となると過去にタイムスリップする物語なのかと言えば,そうではない。チーム出演が別系列であり,WWシリーズとしては,素直に2作目で,初めて体験する1984年の出来事という位置づけである。即ち,アマゾン一族の王女ダイアナが母親の反対を押し切って,ロンドンに出て女戦士のWWとして戦い始めるのが第1次世界大戦中の1914年であり,その70年後という設定である。
 1984年のダイアナは,米国に渡り,首都ワシントンD.C.のスミソニアン博物館で考古学者として働いている。70年後ではあるが,老婆ではなく,見た目はほぼ同じだ。せいぜい主演女優の実年齢通りに3歳程度年をとり,少し落ち着いた女性の雰囲気を漂わせている。本作の敵役は実業家マックス・ロードで,スーツ姿で登場するのであまり強そうには見えない。それで最強パワーのWWとどうやって戦うのかと言えば,彼が生み出した正体不明の敵チーターが登場し,WWと互角以上に渡りあえるパワーを発揮する……。
 監督は,前作に引き続きパティ・ジェンキンスで,本作では製作や脚本にも名を連ねている。主演のガル・ガドットが断然の一枚看板だが,共演者として,前作で恋人役だったクリス・パインが再登場する(写真1)。戦友として共に戦い,壮絶に戦死したはずのスティーブ・トレバーがどうして復活したかは,観てのお愉しみとしておこう。ヴィランのマックス役は,ペドロ・パスカル(写真2)。『イコライザー2』(18年9・10月号)でも悪役を演じていた男優だ。博物館の同僚でダイアナに憧れる女性学者バーバラ・ミネルバ役には,クリスティン・ウィグが配されている。助演やアニメの声の出演が多く,余り馴染みのない女優だが,本作で一躍名前が知られることになるだろう。映画本編中ではこの4人の登場場面が大半を占める。というだけで,チーターの正体はすぐ分かるだろう。
 
 
 
 
 
写真1 ダイアナが愛したスティーブ(右)が再登場 
 
 
 
 
 
写真2 世界制覇を目論むマックス。あまり憎めない存在だ。
 
 
  以下は,本欄の視点からのVFX解説と論評である。
 ■ VFXの見せ場は計4回ある。最近は,クライマックス以上にオープニング・シーケンスが魅力的なことが多いが,本作はまさにその典型だった。ダイアナの生まれ故郷のセミッシ島ではアマゾン・オリンピックが開催されていて,まだ幼女ながら,運動能力抜群の王女ダイアナは大人の女性アスリートに混じって競技に参加する。海岸沿いの滝の傍にあるスタジアムのデザインが素晴らしい(写真3)。スペイン南部でロケしたというが,景観も素晴らしい。勿論,スタジアムもその内部に置かれた造形物もCG製であり,大観衆も隣接する滝もVFX合成である。ダイアナが参加する競技は,スタジアム内での障害物競走に始まり,海に飛び込み,陸に上がってから乗馬レースとなり,流鏑馬のような弓術も行う変形トライアスロンである。この競技中もCG/VFXはふんだんに使われており,この約10分間が本作の最大の見せ場だと言える。3D上映で観たかったシーンの連続だ。本編での活躍とは直接関係なく,ダイアナの回想シーンの位置づけなので,観客の気分を高揚させるサービス・シーケンスであるとも言える。
 
 
 
 
 
 
 
写真3 (上)アマゾン・オリンピックが開催されるスタジアム,(下)障害物競走の設置物も大掛かり
 
 
  ■ 続いては,1980年代の町の風景で,コスチュームもクルマもそれらしい。宝石泥棒犯たちが逃げ込んだショッピングモール内で,危機を感じたダイアナがWWに変身して活躍する(写真4)。既に営業停止しているモールを借りたそうだが,いかにも古くさい作りだ。店舗は,商品も飾り付けも,見事に80年代を再現している。人質となった少女を助け,悪人共を懲らしめるWWの活躍ぶりは,定番だと言えるが,いつものように痛快だ。このモール内でも,後の宮殿内の攻防でも,光のロープである「真実の投げ縄」が前作以上に威力を発揮する(写真5)。定番でもいいから,アメコミのヒーロー/ヒロインものには,こういう痛快さが必須である。
 
 
 
 
 
写真4 ちょっとレトロなショッピングモールでのアクション 
 
 
 
 
 
写真5 「真実の投げ縄」の活躍場面が頻繁に登場する 
 
 
  ■ 3番目のアクションシーンは,エジプトの砂漠内を走る道路上でのカーチェイスだ。これもスペインで撮影したようだが,エジプトに見えるよう工夫を凝らしている。一見地味なカーチェイスであるが,大型トラックの宙返りや投げ縄を使っての大ジャンプなどを織り込んでいる(写真6)。本作には異星人は登場しないので,とんでもない武器やアクションも出現せず,理にかなった戦いで嫌味がない。
 
 
 
 
 
写真6 砂漠でのカーチェイスで,この大ジャンプ 
 
 
  ■ TVのCMで事業を成功させたマックスは,世界中の放送を自由に操ることを目論む。世界の都市の光景のトップバッターとして,日本の渋谷駅前交差点が登場する(写真7)。もはやここはNYのタイムズスクエア,ロンドンのビッグベン前のウエストミンスター橋,パリの凱旋門と並ぶ,日本の代表スポットのようだ。彼の野望が冷戦下の米ソが核戦争を引き起こしかねない事態を招くが,大作となるとこれくらいの設定は止むを得ないだろう。地方小都市で市民を助けるだけのローカルヒロインでは済まない。
 
 
 
 
 
写真7 世界のトップバッターで渋谷駅前が登場する
 
 
  ■ 終盤の30分弱がラストバトルだ。スチル写真で金色に輝くゴールドアーマーをまとうことは分かっていた。単なる金ピカの鎧でだけはなく,翼もついている(写真8)。どこで登場するのかと待ち遠しかったが,ラストバトルの冒頭でようやく登場する。本体で110個,翼も含めると280個もの鋳造部品で構成されているというから,身にまとうだけでも一苦労だ。この姿でアクションをこなせる訳はないから,当然,CG製のアーマーを被っているのだろう。ラストバトルの前半は,WWとチーターの激しい闘いだ(写真9)。組んず解れつの身体を張ってのバトルが続く。高所でのアクションは,MoCapで動きをキャプチャしてCG背景に合成しているのだろうが,元々女優陣にかなりの運動を強いなければこの種のバトルにならない。それとも全部CGなのだろうか? アメコミ実写映画化はもう当たり前になっているので,その意味では新味はない。主演女優の魅力だけで持たせているが,今年中に公開してくれたことだけを褒めておこう。本作のCG/VFXはDNEGで,他にFramestore,Method Studiosが参加し,3社だけで全シーンをこなしている。  
 
 
 
 
写真8 伝説のゴールドアーマー。こりゃ重そうだ。
 
 
 
 
 
写真9 敵チーターがなぜWW並みの超能力を得たのかもテーマの1つ
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